墓地に行こう
幸せな、夢のような時間は過ぎ去り朝を迎えた。いや、帝都にいる限りこの時間は続くのだろう。それは今朝だって同じことだ。
「おはよう、アルマ君。朝食出来てるよ」
「まだあるんだろ?俺も運ぶの手伝うぞ」
俺とカシムのそんな会話を座っていたコルナがにこやかに眺める。その隣に座っているノアはメモを眺めながら思案に耽っている。俺の後に起きてきたコユキは目を擦りながら席に着いた。
そんな当たり前の暖かい時間、俺の手からこぼれ落ちたはずの時間。
だが、いつまでもうつつを抜かしてはいられない。俺やノアはすべきことがあってこの帝都に赴いた。それを遂行しなくてはならない。
五人で食卓を囲み、朝食を口に運ぶ。
やがて全員が食べ終わったところで、ノアが口を開いた。
「アルマさん、今日は墓地の調査をお願いしてもいいですか?」
帝都の片隅に設けられた墓地。
そこには天寿を全うした一般市民や、帝都軍の兵士たちが眠っているという。
その墓地ではアンデッドが目撃されているらしい。アンデッドの目撃件数自体は両手の指で数える程度でしかないが、そのいくつかが墓地またはその付近で確認されている。
「分かった。ノアはどうするんだ?」
「僕は聞き込みをします」
ノアはメモを片付けながら続ける。
「墓地は有力というだけで、死霊術師に確実に繋がるわけでは無いですからね。ですからアルマさん、何か一つ手がかりを見つけられたら上々です。それと戦闘など、帝都軍の目につく事は控えてください。あとは・・・」
くどくどと喋り続けるノアの言葉を聞き流し、俺は思考を巡らせた。
昨夜ノアから話を聞いた時から、俺には一つ気掛かりに思っている事があった。それは死霊術師の行動が活発な事だ。
件数自体は多くない。だが王都と比べると格段に多い。それが帝都に死霊術師がいるかも知れないと考えられる根拠だ。
それにしてもアンデッドが目撃されすぎている気がする。危機感がないというか。まるで帝都にいるのが露見する事を恐れていないかのような、そんな感じだ。
と、そこで思考を振り払った。
どうせ考えても仕方ない。俺にできるのは死霊術師の居場所を探す事、それだけだ。
「以上です」
「あ、終わった?」
「あら、今日はお出かけ?」
俺たちの話を傍で聞いていたコルナが話しかけてきた。
「はい、この後すぐ家を出ます」
ノアがそう受け答えした。
家を早く出て、調査を始めるに越したことはないだろう。
「コユキは・・・」
「妾は街を回る」
「はいはい」
「妾が居ないのだから無理はするなよ。お前は危なっかしくてかなわん」
コユキは墓地には来ないと。
だが、コユキのいう通りかも知れない。万一命の危機に瀕した時、俺を助けてくれる頼れる仲間はいない。これは気を引き締めなくては。
その後、俺とノアは身支度を済ませ、家を同時に出た。
その直後、俺たちの背後にカシムの声がかけられる。
「行ってらっしゃい!」
大きく手を振り、そこまで離れていないのに大声でそう告げた。
「「行ってきます」」
意図せずノアと被った言葉は、簡素ではあったが確かに気持ちの籠ったものだった。




