帝都の街並み
王都を旅立って三ヶ月が経つその日、なんの変哲のない草原に白亜の城壁が現れた。
城壁自体には王都とさして違いはない。
あるとすればその内側。壁に囲まれた街から、工場のように煙が出ていることだろう。その煙は高く空へ登り、その果てに消えて行く。
「奇怪な場所よの、帝都というのは」
俺と同じように帝都の外観を眺めていたコユキがそう口にする。
コユキは鋭い目つきで帝都を見据えている。その表情はおそらく俺と同じものを感じているのだろう。
この平穏な旅路が終わる。
あの壁の中は入った先に、標的がいるかもしれない。
そんな僅かな寂しさと覚悟を感じている。少なくとも俺はそうだった。
やがて、馬車は門を通過した。
帝都の道は煉瓦で舗装されていた。他の建造物も全てそうだ。煉瓦を基調としたその街並みから堅苦しい雰囲気を覚える。
そして馬車は止まった。
持参した荷物を手に、馬車を降りる。
そうしてより一層感じられる雰囲気。王都が華やかだとすれば、帝都は重厚。高く伸びた建物一つ一つから威圧感に似たものが感じられた。
「して、これからどうするのだ?」
腕を組みながら質問してくるコユキ。
「そうだな。クレシオとギルダの言っていた助っ人とやらを探してみよう」
「居場所は分かるのか?」
「あの二人も馬鹿じゃないし、簡単に会えるような手筈を整えてると思うんだが」
俺は助っ人については何一つ知らされていない。だから助っ人を見分けることが出来ないのだ。
とは言っても、クレシオは俺と助っ人が会うことを想定して話してたし、案外分かりやすい場所に居たりするもんじゃないだろうか。
だが何も知らないのは不便だ。次があれば、顔とか名前くらいは教えてくれ。
「とりあえず、ギルドにでも・・・」
「アルマさん!」
俺がコユキにギルドに行くことを提案しようとした時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声の方向に顔を向けると、駆け寄ってくる金髪の男が見えた。
「こんにちは、お久しぶりですね」
「ノア!お前が例の」
助っ人、と言いかけたところでノアが口に指を当てる。
そして俺の耳に顔を近づけ、小声で話しかけてきた。
「我々が王都騎士団の者だと気付かれないために迂闊な発言には気を付けてください。あくまで旅行客として振る舞ってください」
「わ、分かった」
とは言っても俺は騎士団の者ではなく、一人の冒険者として協力しているからバレて困ることは特に無いのだが。
いや、騎士団と繋がりがあるというだけでアウトなのかもしれない。帝都と王都はあまり仲がよろしくないっぽいからな。慎みを持って行動しよう。
「では、案内します。着いてきてください」
どこに案内するつもりだ。
「案内とは何処にだ?」
俺の疑問と同じことをコユキが質問した。
「これから滞在する場所です」
そう口にして、ノアは歩き出した。
俺とコユキはその後ろをついて歩いた。
街は多くの人々で賑わい、活気に溢れている。そこは王都と変わらない。
そして変わらない点がもう一つ。人間しかいない。この世界には人間しかいないのか。まあ今更気にすることでも無いか。
「帝都にくる時、煙が見えたんだがあれば何だったんだ?」
歩きながらノアに質問した。
「あれば確か工場の煙ですね。この帝都は科学とやらの利用を試みているようです」
「科学とな?それは面白いのか?」
「面白いかどうかはさておき、非常に好奇心がくすぐられるものだと言えます」
コユキとノアの間にそんな会話が生まれるなか、俺は少しばかり驚いていた。
おおよそファンタジーに似つかわしく無い言葉、科学。それを利用していると言われて驚かないものはいないだろう。
まあ、世界は違えど人間は人間。同じような発見をして同じような発展をすることも考えられなくは無いが・・・。
顎に手をやり思考を巡らせていたところで、一つの店が目に止まる。正確には店の前に出されていたある商品が気になった。
俺はそれを見るや否や、真っ先に駆け寄った。
「あ!アルマさん!?」
その後を僅かに慌てたノアと落ち着いたコユキが追いかけてきた。
「ノア、これって」
背後にいるノアに見えるように、一つの商品を指差した。
「これ、銃か?」
「そうですね、そう呼ばれていた気がします。よく分かりましたね」
ノアは平然と肯定した。
コユキは銃を不思議そうな目で見つめている。
「戦闘で役立てば、と開発されたらしいのですが、魔法の方が圧倒的に高威力ですからね。今は戦闘できない人の護身用の武器として使われているそうです」
「これ、どうやって使うのだ?」
コユキの質問に、ノアが丁寧に答える。
俺はその横で内心興奮気味だった。王都とは一味も二味も違ったこの帝都。俺の元いた世界と同じ道を辿ろうとしている様子を見て、えも言われぬ高揚感を感じた。
が、それを抑えてノアに話しかける。
「終わったら行くぞ?」
俺の言葉に返事をする二人。
それを確認し、俺は視線を銃から街の方へ向けた。




