伝えたいこと
もう間も無く夜が来る。
その暗さから、目を凝らさなければ相手の動きを見極める事はできない。
昼頃にノアと決闘を行った鍛錬場で、再びノアと剣を交える。
だが、昼の時とは違う。
ノアには変わりはない。彼は変わらず真摯に向き合っている。
違うのは俺だ。先ほどの決闘で不真面目だったというわけではないが、今の俺は純粋に勝ちを取るつもりでいる。
多分、ノアの身の上を聞いたからだろう。この男の思いに正面から向き合いたい、そう思った。我ながらクサいことをしようとしている。
「勝敗はどうやって決めますか?」
木剣を手にしたノアから質問が投げかけられる。
「どちらかが降参したら、でどうだ」
「分かりました」
それ以上言葉を交わすことなく、俺とノアは距離を取った。
お互いに構え、睨みをきかせる。そうして数秒。
どちらからともなく、両者同時に地面を蹴った。
一気に詰まる二人の距離。
そして俺が自分の間合いに入ることを確信したノアは鋭い突きを放った。
だが。
その切っ先に感触はない。
間合いの僅か外、そこで俺は停止した。
ノアは次の一手のため剣を戻す。それに合わせて、俺は加速。
俺の接近によりノアは次の一手が潰され、その喉元に俺が握る木剣が突きつけられた。
「・・・負けました」
僅か数秒のうちについた決着。
ノアが負けを認めたことで、俺が勝利した。
「どうだ?満足したか?」
木剣を下ろし、ノアに問いかける。
「はい、紛れもなく僕の負けです」
苦虫を噛み潰したような、そんな表情を浮かべるノア。
それほどまで負けたことが悔しいのだろう。
それを見た俺はその場に勢いよく座った。
その俺の行動にノアは困惑した表情を浮かべる。
「もう少し話そう」
「は、はあ」
困惑しながらもノアは俺の隣に座る。
そして俺は、早速話し始めた。
それは父の話、エルダイン・エンブリットとの些細な思い出話。
「俺には父がいた。もう死んでしまったけど、それでも大事な家族の一人だ」
「それは・・・羨ましいです」
ノアの声は弱々しい印象を持たせた。
それは俺が父の話を始めたからだろう。
ノアにとって父とは大事なものではなく、憎むべきものだろう。それはこいつの過去から分かる。
父とは自らを見捨てた男のこと。奴隷の如き扱いを自らに強い、苦痛を与え続けた男。
そんなノアにとって父の話というのはどう感じるだろう。ポジティブに感じることが無いというのだけは確かだ。
それでも、ノアには伝えなければいけないことがある。
それがノアのためになるか、それは分からない。だが知ってほしかった。
「ある日俺は、そんな父にエルのことを自慢したんだ」
「エルリアル様を・・・?」
「そう、自分のことのように自慢した。エルは魔法の天才だ、って感じに」
当時の思い出を振り返りながら、懐かしむように語る。
今思い出すと、あの時の俺は相当はしゃいでいたな。
少し気恥ずかしさを覚えつつ、俺は続ける。
「その時、俺は父から言われた。『天才っていうのは自分が輝ける分野を見極めた者のことだ』って」
俺にはこの言葉を送るしか出来ない。
この言葉が正しいとか間違ってるとか、そんなことを言いたいんじゃない。
この言葉を、ノアには知っていてほしい。漠然とそう思った。
「・・・・僕には正しいとは思えません。事実、僕は『剣の申し子』を持たない、それは間違いなく才能がない証拠です」
穿った見方をすればそうなのかもしれない。
『申し子』スキルは才能。エルを間近で見てきた俺は、それをよく理解している。
こいつもそうだろう。名家に生まれ、近くで自分より優れた才能の持ち主を見てきたのだ。
だから分かる。
ノアは俺と似ている部分がある。瑣末な違いあれど、それでも才能が無いとしても強くなる道を選んだのは同じだ。
なら、この言葉はきっとノアに響いてくれる。
「でも・・・心に留めておきます」
ノアの声に少しばかりの生気が宿った。
こいつの中でどんな解釈がされたのかは知らない。
しかし夜の暗闇の中、ノアの表情が僅かに明るくなったのを俺は見た。
「そうしておけ。きっと心の支えになってくれる」
言葉一つで強くなるはずがない。そんなことは明白だ。冒険者でも騎士でもない、ただの一般人でも分かることだ。
だが、言葉一つで人の心は強くなる。
俺がそうだったように。




