偽物の本当の目的
闘技大会の件から一週間。
俺とコユキは王都には滞在し続けていた。
俺はエルと積もりに積もりまくった話をしたいと思っていたのだが、生憎とその時間は取れていない。
彼女の師団長としての仕事が激増したらしいのだ。
騎士団が洗脳を受けていたこと、そのツケを払っている真っ最中といったところだろうか。
民衆からの風当たりが強くなり、騎士団に対する信頼はガタ落ち。まだまだ苦労は絶えないに違いない。
だが、民衆の騎士団に対する不信感が目に見えた形ではっきりと現れないのは、部隊長として復帰を果たしたクレシオのおかげだ。
騎士団の異変を取り除く為に奮闘した彼は、民衆からの期待も厚い。そんな彼が騎士団の味方をしているから、民衆は踏みとどまっている。
そんなこんなで、俺はエルと話す機会を設けられていない。
「はぁ・・・」
宿の自室で一人ため息を吐く。
コユキは懲りずに街へと出ている。
ここ最近はずっとこんな調子だ。
早くエルと話したい。そして、エルを連れてサンタナ領へ帰りたい。
「おーい、居るか?」
突然、部屋の扉が叩かれる。
「何か用か?・・・ってユウリ?」
「おう、聞いたぜ。幼馴染を見事元に戻せたってよ」
その声に応じて扉を開けると、そこにいたのはユウリだった。
「とりあえず入れてくれ」
「ああ」
ユウリは部屋に入ると、置いてあった椅子に座った。
俺はベッドの上に腰を落ち着け、ユウリに質問した。
「お前、ずっと王都にいたのか?」
「まさか。『大食館』の残党調べで色々歩き回ってるよ」
「やっぱり、残党は居るのか?」
「どうだろうな・・・。全滅した可能性が高いかもな」
『大食館』があればニエ村が、ユウナがまた危険に晒されかねない。全滅していてくれればありがたいのだが。
「そう言えば、お前の偽物について少し調べといた」
「何か分かったのか?」
偽物についての情報は無い。それはあいつが倒された今でもそうだ。あいつの名前すら不明のまま。
今更知ったところで何になる、と言われればそれまでかもしれないが、あいつの後ろにはもっと大きな何かが潜んでいる。
おそらく死霊術を扱う何者かが暗躍している。それはあいつの発言の節々から分かる。
ユウリがその何者かに繋がる情報の欠片でも見つけていればいいのだが。
「あいつに関する情報、名前や出生などは分からない。だが、あいつは騎士団で怪しい動きを見せている」
「それは?」
「死体の横流し」
ユウリは教えてくれた。
騎士団では魔物や殺人など、外的要因で死んでしまった人々の死体を回収している。
思えば、ディールの死体を騎士団が回収していた。
その回収された死体を奴は何者かに横流ししていたという。
「だが、死体だけにそこまでするか?騎士団に潜入するには少しばかりリスクが高すぎる気がする。お前はなんか思い当たる節はあるか?」
「・・・あいつの後ろには死霊術を使う誰かが居る。それを匂わせることをあいつは言ってた」
「なるほどな。死霊術となると、死体が必要になるのは当然か。その誰かさんとどんな契約を交わしていたのかは知らんが、死体の横流しが目的というのは間違いなさそうだな」
ユウリの言葉に頷く。
それにそれだけじゃない。あいつは本気でエルを狙っていた。それも奴が騎士団に忍び込むのを後押ししたのだろう。
仮に、俺があの場で失敗していたらどうなっていたことか。考えたくもない。
思考を巡らせていると、ユウリは立ち上がり部屋を出ようとした。
「もう行くのか?」
もう少しくらいゆっくりしていけばいいものを。
「残党調べの途中だったからな。王都でなにやら派手なこと起きたって聞いて、飛んできたんだ。ここで時間を食ってばかり居られない」
「そうか、手伝えることがあったら言ってくれ。俺も協力する」
「それじゃ、お前が幼馴染との用件を済ませたらこき使ってやるよ」
手をひらひらさせて部屋を出ていくユウリ。
その背中に俺は声をかけた。
「ソフィアと会う機会はあるか?」
「今のところ無いな。どうした、恋しいのか?幼馴染だけじゃ物足りねえとは欲張りだな、お前。しかも第四王女を狙うとは」
「そんなんじゃ無い。まあいいや。その機会が来たら俺も誘ってくれ」
そのやりとりを最後に俺とユウリは別れた。




