騎士団長の脅威
参ったな。
俺はクレイモアを片手で扱う黒髪の屈強な男を前に、僅かな後悔をしていた。
「お前、名前はなんて言う?」
「騎士団長、ギルダだ。君はアルマ・・・でいいのか?」
ギルダは俺の名前に疑問を持つかのように口にした。
俺はそれに対して静かに頷く。
そして、先ほどの短い剣戟を振り返る。
俺は観客席の何者かの声を合図に、ギルダに肉薄した。その速度のまま剣を振り抜こうと試みたのだが、俺の剣はギルダに達する寸前で止められた。
剣を止めたギルダはクレイモアで俺に切り掛かったが、俺はそれを後退する事でやり過ごした。
この一連の剣戟で理解した。
このギルダはディールなんかとは比べ物にならないほど強い。
こいつの持つクレイモアは両手持ちの大剣だ。大剣使い、となるとダグラスを連想するが、ダグラスのそれとは全く違う。
ダグラスは力のままに振り払う大雑把な部分があった。その型にとらわれない戦闘スタイルがダグラスの強みなのだが。
しかし、このギルダの剣は洗練されている。薙ぐ、倒すことを目的としているのではなく、斬ることを目的としている。
こいつがクレイモアを扱うのは力一杯に相手を薙ぎ倒すためではなく、ギルダの巨躯に適していたからだと気付かされる。
とはいっても、ただの人間が大剣を片手剣と同程度、もしくはそれ以上の速度で扱う事は不可能だ。
「なあ、ギルダ。あんた、『申し子』持ちだろ?」
「ほう、慧眼と褒めるべきかな?」
俺のささやかな疑問にギルダは答える。
だが、そうなるとまた苦しい戦いになるな。
ディールといい、こいつといい、俺が戦う相手は『申し子』持ちばかりなんだ。
俺としてはクレシオが魔法陣を完成させるまで時間稼ぎできればそれで良いのだが、ギルダはそれを許さないだろう。
俺は再び剣を構える。
「君の剣には目を見張るものがある。ここで切り伏せるのは惜しいな。どうだ、騎士団に興味は無いか?」
剣を構えた俺に、ギルダは朗らか話しかける。
俺がギルダの力量をなんとなくではあるが測ったように、ギルダも俺の力量を理解したようだ。しかし、まさか騎士団長じきじきに勧誘されるとは。
素直に喜んでおくべきか・・・。
「君は大会に乱入し、その進行を妨げた。だが幸いにも民衆に危害は加わっていない。それどころか、我らの戦いを見世物として楽しんでいる。今なら事態が大きくなる前に抑えられる」
「俺を見逃してくれるのか?」
「それは無理だ。言っただろう、それ相応の覚悟をしろと」
「なら断る」
「そうか、残念だ」
深いため息をつき、失望したかのように肩を落とすギルダ。
次にその顔を上げた時、その顔には明確な敵意が現れていた。
「ならば君の頭を冷やした後、もう一度聞くとしよう」
どんな脅しだそれは。俺の頭をかち割って血抜きするってことか?
そんなことを考えていると、ギルダは一気に距離を縮めてきた。
その巨大に似つかわしくない速度で接近された俺は、動揺しながらもなんとか対応する。
ギルダの頭上に構えた大剣を振り下ろされる。
俺はそれをいなしながら身を翻し、ギルダの脇腹めがけ剣を振る。
しかし、振り抜いた先にはクレイモアがあった。ギルダは俺の剣を弾く。
それにより、俺の胸元はガラ空きになる。
それを見逃すはずがないギルダは、無駄のない動作で流れるように防御から攻撃に転じる。
ギルダは俺の胸元を袈裟斬りにするように剣を振り抜いた。
俺はその瞬間に敗北を予期し、思わず目を瞑ってしまう。
すると、突然体が高速で後退する。
それは俺の意志によるものではなく、外力によるものだった。
そして体は後退をやめ、いきなり止まった。急な停止に俺は尻餅をついてしまう。
「まったく、命の危機に陥ったのなら早々に頼らんか。バカもの」
閉じた目をゆっくりと開くと、そこにいたのはコユキだった。
それを見て、俺はなんとなく理解した。観客席にいたコユキが俺がギルダの剣の餌食になる寸前に、無理矢理に俺を後ろに下げたのだろう。
「悪い。なら頼っていいか?」
「うむ、任せい」
「いいか、殺すなよ」
「分かっておる」
俺は立ち上がりながら、そんなやりとりをコユキと交わした。
「君は誰だ?アルマに加担するのなら、容赦はしないが」
「そうか。妾は容赦しよう。でなければお前を殺してしまうからの」
コユキにギルダを任せ、俺は背後にいた偽物へと体を向けた。
偽物は心底俺が憎らしい様子で、そこに佇んでいた。




