闘技大会
剣がぶつかり合う音が響く。
集まった十万超の人々の視線を集めるのは、互いの武を持ってしのぎを削り合う騎士たちだ。
彼ら彼女らは騎士団の団長や部隊長などの推薦を受けた腕の立つ騎士たち。団に長く居る猛者から、新進気鋭の新参者まで、その強さに偽りが無ければ歴に関係なく出場することが許された闘技大会。
そんな大会に何故か俺が参戦することとなってしまった。
俺は師団長補佐として騎士団に所属しているが、それは団員たちの記憶を改竄したことで得た地位であって実力によるものではない。
不本意だ。憂鬱だ。
俺が肩を落としていると背中を叩かれる。
肩を叩いたのはふわりと柔らかい香りとともに、俺の横に現れてたエルリアルだった。
「アル、なんだか元気ないね?大丈夫?」
「ああ、いや。何で僕がここに居るんだろうって」
「ふっふっふ。それは私が推薦したからだよ!」
そう、ありがたいことにというべきかエルが俺を推薦したことで、俺は闘技大会に出ることになったのだ。
まったく、俺のスキルがもっと使い勝手のいいものだったら、こんな事態にはならなかっただろうに。
『記憶改竄』では人の性格や行動を思うがままには出来ない。
とはいっても、今年に限ってどうしてこんなことに。
ふと、隣にいるエルリアルを見やる。
普段とは違い、師団長専用のローブに身を包んだエルリアルは普段の愛らしさに加え、凛々しさがある。
彼女は今行われている試合を真剣な眼差しで見ている。
その表情を歪ませてみたい。
快楽に溺れ、だらしない表情を浮かべる彼女もまた愛おしいに違いない。
想像しただけで勃ってしまう。
そんな願望を夢見ていると、エルリアルが口を開く。
「彼、強いね」
彼、というのはノア・エイリンのことだろう。
ノアは去年入団したばかりでありながら、その剣の才覚を認められ、剣部隊長から推薦をもらった期待の新星だ。
確か、『剣の申し子』も無しに推薦をもらったのだとか。努力の賜物というやつか。
栄誉だの強さだの、そんなものの何がいいのか。心底くだらない。
まあ、横にいるエルリアルは騎士団長からの推薦をもらっている団内でも指折りの実力者だ。彼女と比べてしまえばノアなんて霞んで見える。
「勝者!ノア・エイリン!」
と、考え事をしているうちに試合が終わったようだ。
勝ちを収めたのはノア。彼は涼しい顔をしてその場から立ち去った。
「よし、じゃあ行ってくるね」
「うん、がんばって」
次の試合はエルリアルが出る試合だ。
この試合は騎士団の最強を決める大会。ゆえに剣も槍も弓も魔法も、部門分けされることなく戦う。
エルリアルはこの闘技大会の常連だ。
毎年毎年、参加者が入れ替わるこの闘技大会で常連というのは、はっきり言って異常だ。
彼女は入団して三年で当時の魔法部隊長であるクレシオからの推薦により大会に参加。その大会で優勝を収め、その名を広めた。
それ以降、推薦をもらっては大会に出場し、必ず一位から三位に入るという快挙を成し遂げている。
そんな彼女と当たる者は不幸でしかないだろう。
まあ、俺のエルリアルに騎士団の雑魚どもが敵うはずがない、というのは当たり前のことだ。
すると、爆音が聞こえてきた。地鳴りを響かせ、腹の奥を揺らすかのような、そんな強烈な音。
どうやらエルリアルが勝利したようだ。
「勝者!エルリアル・フォートレス!」
エルリアルは意気消沈の相手に頭を下げ、俺の方へと駆け寄ってきた。その顔には眩しい笑顔が咲いていた。
「勝ったよ!アル!」
顔を近づけて、嬉々として勝ったことを伝えるエルリアル。
今すぐ抱き寄せたい衝動に駆られるが、それを抑えて笑いかける。
「すごかったよ。さすがエルだ」
「ありがとう!次はアルの番だよ!」
「うん、頑張ってみるよ」
「アルならきっと勝てるよ!」
本当に、こんなにも期待を寄せられるアルマ・エンブリットが憎たらしい。
そして、こんなにも期待されておきながらその立場を取られたあいつが滑稽で仕方ない。
俺がエルリアルを手に入れた時の顔を見てみたい。きっと傑作に違いないな。
「アル?」
おっと、思わず笑みがこぼれてしまったようだ。
エルリアルが不思議そうに見つめている。
俺は気を取り直してエルリアルに声をかける。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「うん。頑張って」
エルリアルの激励を受け、俺は舞台に上がる。
まあテキトーに戦って、負けて終わらせるとしよう。自慢じゃないが、俺の戦闘センスは凡人と大差ない。勝利なんてはなから狙っちゃいない。
強さなんかに興味はない。
善戦した感じを装って、負ける。それを理由にエルリアルにご褒美でもねだってみるか?
それもいいな。よし、それでいこう。アルマとしての俺ならば多少の無理を言っても、彼女は嫌な顔をせず頷くだろう。
無意識に俺は舌なめずりをした。
俺は控え場所から出て、群衆の前に出る。
そして、その名を呼ばれる。
「第三試合!アルマ・エンブリット!そして・・・」
「アルマ・エンブリットだ、よろしく頼む」
俺の前に居たのは本来の相手ではなかった。
そこにいたのは、本物だった。




