幕間 『神のみぞ知る』
「のぉ〜。ひ〜ま〜だ〜ぞ〜」
馬車に乗ってから五日が経った。
あと少しで王都にたどり着くという時に、コユキには限界が来たようだ。
これまでは外の景色を見て大はしゃぎしたり、惰眠を貪ったりと暇を紛らわせてきたが、今はもう暇だ暇だと口にするばかり。
今は俺の膝に寝転がり、駄々をこねている。
「我慢しろ」
「ならばアルマよ、妾の暇を潰すために何か話せ」
そんな、なんか面白いことやって、みたいなことを言われても何もできない。
「お前、百年も神殿に篭ってたんだろ?このくらい短いもんだろ」
「何を言うか。神殿では多くの娯楽があったわ。暇を持て余す暇などなかったぞ」
いくら娯楽があったとはいえ、百年も篭り続けるのは暇だと思うのだが。
だが、コユキと同じく俺も暇を感じているのは事実だ。
「なあ、クレシオ。お前は暇じゃないのか?」
なんとなくクレシオに話を回した。
この五日間、クレシオの口数は少なかった。俺がはしゃぐコユキの相手をしてたから、クレシオと話す機会が少なかったというのもあるが。
「ん?いいや、暇なんてしてないよ」
クレシオはにこやかに笑って見せた。
「暇じゃないって・・・何でだよ」
「氷魔法の実現方法をずっと考えていた」
「クレシオは熱心だのう」
「ああ、私にとって魔法は全てだ。それのために時間を費やすのは至福以外のなにものでもない」
恍惚とした表情を浮かべるクレシオ。口の端が緩み、瞳の焦点が合っていない。
この性格のおかげで偽物に一矢報いることができるのだが、魔法のこととなると場所と時を選ばず悦に浸るのは、流石に困惑する。
「なあ、何で神都に滞在しようと思ったんだ?」
質問に別に深い意味はない。俺は暇を潰そうとして、またしてもなんとなく聞いてみた。
だが、少し気になる部分ではある。
デュオクスを頼って神都に向かい、エルを助けるためのキーパーソンたるクレシオが同じく神都にいたことは、いささか都合が良すぎる。
偶然と言われればそれまでだが。
「ふむ。そうだね、説明しておこうか。騎士団を退団した私はまず一番近い神都に向かったんだ」
神都に向かった理由は、王都にとどまっていると偽物から命を狙われる可能性があったから、とかだろうか。
「私は神都に向かい、しばらくしたらまた別の都市に向かおうとした。しかし、神都についてから三日が経った頃、デュオクス様から呼び出された。そこで言われたんだ。『神都に居ればいずれ騎士団を元に戻す時が来る』とね」
デュオクスの勧めで神都に滞在していた?
「そして、君と会って気づいたよ。その時が来たのだと」
「待て、だとすれば俺とクレシオが会えたのはデュオクスのお膳立てがあったからってことか?」
それはまるで・・・
「まるで未来を見ているよう、だろ?」
心臓が飛び跳ねるような、そんな衝撃が俺を襲った。
デュオクスについて驚いた、というのもあるがそれ以上に思考を読み取られたことに驚愕した。
「ははは。そんな怖い顔をしなくても。言い忘れてたけど、私は人の心を読むことが出来る。まあ、厳密にいえば少し違うのだが」
「それってスキルか?そういうのは早めに言ってくれ・・・」
クレシオは乾いた笑いをこぼした。
「話を戻すと、デュオクス様はおそらく未来を見ることが出来るだろう」
世界を見通す目と、未来を見通す目。さすが神と言ったところか。
しかし、何故クレシオに神都に残るよう言ったんだ?
騎士団の問題はデュオクスには無関係のはず。意図が読めない。
神の気まぐれというやつだろうか。
「妾も似たようなことを言われたな。奴の元に百年いたのはそれが理由でもあるな」
寝転がりながら話を聞いていたコユキがそう口にする。
その話を聞き、俺は突飛で自己中な結論にたどり着く。
デュオクスは俺を助けようとしてくれている?
クレシアの協力がなければエルを助けることは出来なかった。コユキが加わることで強力な味方が出来た。
それらは全て俺の利益といっても過言ではない。
そこまで考えて、自分で否定した。
あまりに俺に都合が良すぎる。おそらく俺を助けることでデュオクスにとっていいことが起きるとかそんなとこだろう。
全ては神のみぞ知る、というやつだ。
暇を持て余した俺たちを乗せた馬車は着実に王都へと近づいていた。




