名も無き半神
「悪いね。一時的にこの子を引き取ってたんだけど、この子の目的を果たすには旅に出る必要があるんだ。ただ、私は神としてここを離れることはできない。だから君にお願いしたいんだ。きっと頼りになるよ」
といった具合に、俺は訳もわからないままデュオクスに丸め込まれてしまった。結果、
「こら、もっとゆっくり歩かんか。妾のこの体を見れば歩く速さに差があるのは明白であろう」
俺の旅に幼女が同伴することになった。
今は神殿から今日の宿を探すために神都を散策している最中だ。そんな中でも幼女はマシンガントークを繰り出し続けている。そのどれもが不平不満でしかないのだが。
「ったく、ロリババアが」
「ろり?と言うのが何か分からんが、その部分は不要だぞ?」
俺が聞こえないように言ったことを、当たり前のように聞き取りやがった。
というかそっちを否定するのか。それではババアしか残らないが。
今まさにババアを主張したこいつは約百年の間、あの神殿でデュオクスと共にいたらしい。何を隠そうこいつ自身が半分神だとか。
「あのな、俺の旅に着いてくるの、諦めてくれないか?」
「何を言うか、きっとお前の力になってみせるぞ。しかし、お前では呼びにくいな。よし、名を名乗れ」
どこまでもマイペースな半神だ。
「自分の名を名乗ってからにしろ」
「名はない。妾に名付けをする前に母と父は死んだ。ほれ、満足か?」
俺は言葉を失った。
これはなかなか闇が深そうな幼女だ。
一瞬にして充満したいたたまれない空気をかき消すかのように俺は自己紹介をした。
「アルマ・エンブリットだ」
「ふむ、アルマか。心得た」
うんうん、と頷く幼女。
しかし、確かに名前が分からないというのはこれから不便だ。それっぽい呼び名があればいいんだが。
いや、なぜ仲間にすることが決まっているように考えているんだ。
だが、少なくとも神都にいる内は付きまとわれるだろう。
呼び名くらいは考えてみるか。
「ポチ、シロ、タマ。どれがいい?」
「何か分からんが、馬鹿にされてることは分かるぞ」
流石に適当すぎたか。幼女神様は不満のようだ。
もうすこしマシな名前を考えるか。とりあえず容姿から考えてみよう。
白くてとんがった耳と、同様に白くて柔らかそうな尻尾。
一言で表すなら純白の狐。まるで雪のような白。そして小さい。
狐となると、和風のイメージだな。
「コユキなんてのはどうだ」
俺は容姿から連想した安直な名前を提案した。
「好きに呼べ。妾もアルマに合わせよう」
なら、遠慮なくコユキと呼ばせてもらおう。
「ところで、今はどこへ向かっておるのだ?」
「宿屋だ。どこにあるか知らないか」
「う〜む。妾は神殿に籠っていたのでな、神都の地理には詳しくないのだ」
腕を組み、眉を顰めながらコユキは言った。
百年も引きこもっていたとは、神とは規格外だ。
ならば散策は続行ということだな。
それから三十分後、コユキの一人語りを小耳に挟みながら散策し宿屋を発見した。
早速、受付を済ませようとカウンターに向かった。
「二人一部屋でよろしいでしょうか?」
「うむ。構わんぞ」
「待て、勝手に決めるな」
「妾に一人で寝ろというのか。こんなにも小さく、ひ弱な妾に?」
ひ弱だというなら、同伴せず即刻神殿にお引き取り願いたいところだが。
ふと見ると、受付の女性も俺をまじまじと見つめている。こんな小さい子を一人にするのかと言わんばかりに。
仕方ない、二部屋分の金を払うよりかマシか。
そうして、俺とコユキは同じ部屋に入った。
入った瞬間、コユキはベッドへ走り、寝転んだ。
俺も寝るための準備を済ませ、ベッドへ入る。
明日からクレシオを探すとしよう。その辺も教えて欲しかったが、デュオクスに頼り切りでは情けない。それくらいは自分でやらなければ。
明日の予定を心の中で決め、眠りにつこうとする俺にコユキが声をかける。
「アルマよ、これからよろしく頼むぞ。妾は間違いなくお前より強い。存分に頼るがいい」
「分かったよ、神様」
得意げなコユキに対し、俺はそっけなく返事をした。
「可愛げのないやつよ。そうか、人肌恋しいのだな?仕方ない、特別に同衾してやろう」
「寝ろ!!」
馬鹿なことを言うコユキに、今度は感情を込めて返した。




