神託
耳を劈くかのような声に、俺は思わず耳を塞いだ。
残った耳鳴りにより、両目を閉じていたものの、なんとか片目だけを開けデュオクスの方を見る。デュオクスは俺の様子など気にかけず大口を開け笑っていた。さすが神、人間など眼中にないと言ったところか。
数秒すると耳鳴りは止み、俺は耳を塞いでいた手を離した。
そしてデュオクスの方へ近づき、程よい距離で跪く。
「デュオクス様、私のような者に謁見を許す寛大なお心、感謝いたします」
この目上の人用の口調は慣れない。初めてソフィアに会った時以来使ったこともない。
本音を言えばもっと軽い感じで話したいところだが、そんな態度をとれば指先一つで殺されるかもしれない。
相手は神だ。規格外の存在には慎重になるべきだろう。
「いや、すまない。怖い印象を植え付けてしまったのなら謝ろう。神としての威厳というかさ、カッコいい感じを演出したかったんだよ」
俺がデュオクスに対し畏怖を抱いているところに、思わぬ対応が返ってきた。
先ほどまでの神々しさなど何処にもなく、そこにはあわあわと狼狽える神の姿があった。その様子はただの人間となんら変わりない。
「その跪くのもやめていい。友好的に、フレンドリーにいこう」
正直助かる。この数秒の間にこいつに対する畏怖は霧散した。神の威厳もクソも無い相手にこれ以上謙るのはもう無理だ。途中で吹き出してしまう。
「それじゃあ、こんな感じでいいか?」
「うん、構わない。それで何か用かな?」
デュオクスはオールバックにしていた髪を手で崩した。
髪を下ろしたデュオクスにはどことなく陰気な様子が見て取れる。
それにしても本題に入るのが早いな。こちらとしてはありがたいのだが。
「神様なら大体のことは知っていると、ユウリから聞いた。だから俺の質問に、答えられる範囲でいいから答えてほしい」
「了解した」
そのやり取りの後、俺はエルについて話した。
俺とエルは子供の頃からの友人であること。そんな彼女がある日騎士団に入り、離ればなれになったこと。ようやく再会を果たしたと思ったら、俺のことを忘れていたこと。
「だから、エルの身に起こったことについて、知ってることがあれば聞かせてほしい」
最後にそう締めくくった。
「では、クレシオ・ダズロックに会うといい」
デュオクスは俺の話が終わると、間髪入れずに答えた。
クレシオというと、確かエルを騎士団に連れ去った男だ。
そうだ、俺はなぜ忘れていた。あいつに話を聞くことができればこの状況もいくらか理解が及んだかもしれない。
とすればもう一度王都へ向かう必要がある。
しかし、その考えはデュオクスの発言で覆る。
「クレシオはこの神都にいる」
「神都に?騎士団ではなく?」
「ああ、君を騙る偽物にとって彼が騎士団にいるのは都合が悪かった。だから偽物は彼を騎士団から退団させた。それ以降クレシオはここ神都に滞在している」
「退団させた?あいつにそんな力があるとは思えないが」
「それも、彼から話を聞けば済むことだ」
全てはクレシオに会ってから。そういうことか。
それにしても、本当にいろんなことを知っているんだな。
「すまないね。答えを間接的に言う回りくどいやり方で。だけどこれは君のためを思ってのことだ。分かってくれ」
俺が感心しているとデュオクスはそんなことを言った。
「手がかりが出来ただけで十分だ」
そもそも話すら聞いてもらえないかも、とか思っていたしな。
「それともう一つ聞いていいか?」
俺はもう一つの質問を切り出した。
「ソフィア・ティルフロア、彼女についてなんだが」
「大方、そのソフィアの目的はなんだ、とかだろう?」
「彼女のことを知っているのか?」
「これでも神だ。世界を見通す目くらいは持ってるさ。君が王都でしたことくらいは理解している」
なら俺がエルについて説明する必要あったのか?
「しかし、すまない。彼女の目的については知らない」
「いや、いい。ありがとう」
流石に無理があったか。
まあいい。収穫はあった。
早々にここを立ち去って、クレシオを探すとしよう。
「それじゃあ、俺は行く」
「ああ、ちょっと待って」
踵を返し、神殿を出ようとしたところをデュオクスに引き止められる。
振り返ると、デュオクスの隣には先ほどまではいなかった幼い女の子がいた。
「この子を君の冒険に連れて行ってくれないかな?」
いきなりの提案に俺は呆気を取られた。
「よろしく頼むぞ、人間。くれぐれも妾に粗相のないようにな」
なぜか偉そうな幼女には、耳と尻尾が生えていた。




