疑心のち確信
「エル・・・」
俺はこちらに歩み寄ってくるエルに向けて声をかけた。
その声はか細く、彼女の耳に届いていたかどうかも怪しいほどの声だった。
「エル!」
しかし、次は確かに聞き取れる声を出した。
エルの家に騎士団が押しかけてきてから、約十年。
長い間会えていなかった親友に、ようやく会えたのだ。
そんな瞬間に黙していられるような者はいないだろう。
エルが次第に近づいてくる。
俺もそれに歩み寄る。
その一歩一歩は、実に弱々しいものだった。
胸の内に秘められた思いが、俺の歩みをそうさせたのだろう。
そんな歩みでエルの元へ向かい、ついに再会を果たした。
そう思った次の瞬間、エルは俺を通り過ぎた。
エルの目線の先にいたのは俺ではなかった。
俺の後ろに倒れるモヒカンの男だった。
「大丈夫?腕が痛いの?」
「あ、ああ・・・」
「ちょっと見せてくれる?」
そう言ってモヒカンの腕を優しく抱え、その容体を見た。
モヒカンは先ほどの威勢を失い、子犬のような目をしている。
「あれってエルリアル様よね?」
「ああ。噂には聞いていたが可愛いな」
「『施しの魔術師』の二つ名は伊達じゃないな」
周りの連中が口々に彼女を称賛している。
その中で二つ名という言葉が聞こえる。
エルはすでに二つ名を獲得しているというのか。
いや、今気にすべきはそこではない。
彼女が俺を素通りしたことだ。
俺にとって彼女との再会はこの上なく嬉しいことだ。
それは彼女にとっても同じこと・・・だと思っていた。
ひょっとすると、俺は忘れられているのか?
彼女にとって俺という存在はその程度なのか?
俺の中で不安が膨れ上がっていく。
この不安を解消するためにも、彼女と話したい。
言葉を交わして、安らぎを得たい。
そう思った矢先、俺は他の騎士に制止された。
「お前はこちらに来い」
「ま、待ってくれ!彼女は!エルは俺の友達なんだ!」
俺がそう言うと、騎士は声を荒げた。
「図に乗るな!我らが師団長はお前なんぞが近づいていい存在では無い!」
その勢いに俺は圧倒される。
しかし、この勢いには既視感を覚える。
こいつみたいな、ある特定の相手に熱量を持つ者を俺は知っている気がする。
そうだ。前世でアイドルやアニメの熱烈なファン。
いわゆるオタクと呼ばれる者だ。
彼ら彼女らの好きなものを軽んじられた時の怒りは凄まじいものだった。
そしてその怒りは、愛ある熱弁へとシフトする。
「あの方は!我ら騎士団の紅一点!魔法の天才にして容姿端麗!加えて温和で天真爛漫な人柄から王都中の視線を集める存在!我々のような者が軽率に近づいていい存在では無い!」
オタクのお手本のような奴だな、こいつは。
いや、違う。そうじゃない。
俺は彼女と話したい、話さねばならない。
「少しでいい。たの・・・」
「仮に近づくのを許される者がいたとするなら、それはあのお方の幼馴染であるアルマ・エンブリットのみだ!」
なぜ俺の名前を知っている?
いや、逆にチャンスではないか?
俺がその
アルマ・エンブリット本人であると伝えればいいのではないか?
「それは・・俺・・・・」
「あ!アル!」
俺の声はエルによって遮られた。
そのエルはモヒカンの容態確認を完了し、振り返った。
いまエルの視界には確かに俺が映っているだろう。
だが、その視線の先にいるのは俺ではないことはなんとなくだが分かった。
体が脱力する感覚と共に、視界が青く光る。
エルは立ち上がり、こちらに駆け寄る。
そして当然のように俺を通り過ぎ、俺の後ろにいる男の前で立ち止まった。
「やあ、エルリアル。今日も元気だね」
そこには俺とは似ても似つかない青髪の男が立っていた。
その一連の出来事は彼女が俺を忘れていることを確信させた。




