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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
二章 王都ガルス
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愛ゆえに

 『愛』とは、人が持つ至高の感情。

 『愛』ゆえに、人は自由を願い、同時に束縛する。人を愛し、同時に嫌悪する。人を生かし、同時に殺す。

 そんな矛盾を孕んだ芳醇な想い。

 人間が持つ愚かさの結晶。

 私はそんな『愛』を、深く愛している。


 * * * * *


 今はとにかく走らねばならない。

 背後に転がる我が同志たち、愛すべき死肉となった彼らを置いて走らねばならない。

 同志たちを一級の食材にした『愛の教祖』から逃げおおせるために。


 ああ、しかし我ながら節操のない食欲だ。

 自らの死を体現した者が背後に迫っているというのに。同志たちの亡骸を見ると腹の虫が鳴いてしまう。


 この食欲こそ、この『大食館』で築き上げられた価値観。

 或いは、美食の果てに辿り着いた者の業と言うべきか。


 だが、足を止めてはならない。

 ここで死ねば、我らが築いた価値観も砂で出来た城のように崩れ去ってしまう。


 『大食館』は終わるべきでは無い。

 ゆえに私は生きねば・・・。


 なんだ?

 床が起き上がってきた?

 これは魔法によるものか?


 いや、違う。

 私が倒れている。

 確かに踏み出した脚は根本から断たれている。

 これも全て・・・・・


「おや、いきなり転倒するとは。大事ありませんか?」


 いつの間にやら私との距離を詰め、目の前に立つ『愛の教祖』の仕業。


「ぐうぅぅう・・・!」

「おや、脚を失っておられるではありませんか。その痛みたるや、ええ、想像も絶するものでしょう」


 なんたる軽薄な男か。

 自ら私の脚を切断しておきながらこの態度。

 その軽薄さとは対照的に、高貴さを象徴するかのような銀色に輝く髪と、身に纏った純白のローブが鼻につく。


「貴方もご存知かと思いますが、私は『愛』を愛しています」


 この男は何を考えているのだ?

 私を傷つけ、その上ですることが説法だと?


「私は貴方たちに期待していた。『大食館』。自らが美食を追い求めるためならば、どんな手段も厭わない貴方たちに」


 黙れ。

 我らが高尚な『大食館』の名を口にするな。


「なんと・・・素晴らしい!他を顧みず、欲を満たすその姿!まさに『愛』!!」


 分かったように語るな。

 我らの思想は、お前たちには理解しがたい高みにある。


「その果てに、人という答えに辿り着いた。道徳から外れ、答えを出した貴方たちに賞賛を送りたい」


 上から物を語るな。

 人が忌避する行い、いわば禁忌を犯してまで美食を追求した我々はお前よりも高位であると知れ。


「・・・ですが、失望しました。貴方たちは答えに辿り着いたことで堕落なされた。食に対する『愛』を失った」


「黙れ・・・!我々は美食の探求者として・・・美食を極めた者としての責務を全うしたのだ!!」


 ニエ村の一件。

 我々が人という食材に辿り着いた時、それを口にし続けることを誓った。そのために作った養人場。

 その行いを侮辱するか。


「いえ、いえいえ。違います。貴方たちは責務を果たそうとしたのではありません」


「何を・・・言うか・・・!?」


「貴方たちは、単に引き返せなくなっただけでしょう?倫理の外側に出た自らを肯定するためだけに、ニエ村を利用した、違いますか?」


 そんなはずは・・・。

 そんなつまらない理由では無い!断じて!

 あれは責務、紛れもなく食の探求者としての責務に他ならない!


「責務、というのもそれらしい理由が欲しかっただけでしょう?」


 違う・・・そんなはずは・・・。


「『大食館』は『愛』を無くした。ゆえに、私が断罪して差し上げましょう」


「ま、待てぇ!む、むむ、娘がいるんだ!あの子を置いてこの世を去ることは出来ない!」


「娘?いま、娘とおっしゃいましたか?」


 その目をやめろ。

 魂の奥底を見透かすような眼差しで私を見るな。

 その瞳に吸い込まれる感覚に溺れてしまう。

 そのまま意識が暗闇に飲み込まれてしまいそうだ。


「・・・・・素晴らしい!幾度となく惨殺しておきながら、自らは逃れ得ようとするその傲慢さ!まさに愛!」


「あ、ああ!そうだろう!?だから・・・」


「惜しかった、あと一歩でした。」


 この男は何を悔しそうにしている?

 いいから、私を見逃せ!私を生かせ!

 そうすれば我らが『大食館』は時の流れに置き去りにされずに存在し続ける!


 いや・・・違う。

 この者は既に私の命を掴んでいる。

 私の生きる道は既に断たれている。


 それを理解したと同時に、私の意識は絶望の谷底に落ちた。


「貴方はこう言うべきだった。“私の家族がどうなろうと、私が生きていれば、美食を追求できるのならそれで良い”と。なぜならばそれこそが・・・・・」


「『愛』であるから・・・」


「ええ、その通り」


 最後に見たのは、慈愛に満ちた微笑みだった。

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