決着
「『英雄』・・・・!」
「おう、俺が『英雄』だけど。よくわかったなぁ」
『英雄』というのは二つ名だろうか。
目の前の男は不敵な笑みを浮かべ、軽い口調で肉屋に言葉をかける。
「そのツンツン頭、お前以外にいるわけないだろうが!」
「髪型ね・・・そんな変かな?」
男は、その特徴的な髪型をした茶髪を片手でいじくる。
その様子にはわずかな悲哀が垣間見えた。
「はぁ、まあいいや。で、これからどうする?」
切り替えた男は肉屋に向けて発言する。
当の肉屋の顔は引きつっていた。
「ボクの輝かしい未来のために、逃してくれたらありがたいんだけど?」
「冗談。俺から逃げたら、それこそお前に輝かしい未来は来ねえだろ?」
男と肉屋の腹の探り合い。
だが、肉屋には全くと言っていいほど余裕はない。対して男の方には余裕が透けて見える。
「お前が言う、輝かしい未来は俺を倒さないと絶対に来ないぞ?」
「それこそ冗談だろ?『英雄』に勝つなんて」
「その冗談を成し遂げて見せろ。ほら、万が一、いや億が一に賭けて俺に向かってこい!」
男はそう言って両手を大きく広げた。
肉屋は依然、バツが悪そうな顔をしている。
しかし、何かを諦めたように息を吐き、短剣を握りしめた。
俺は次の光景に肝を抜かれた。
それは肉屋の目に比類なき速度によるものではない。
その速度に対応し、そしてそれよりも速い剣さばきで短剣を止めた男によるものだ。
しかし、肉屋はそれだけでは終わらない。
阻まれた短剣を手放し、素早く屈んだ。
その後ろからはもう一本の短剣が飛んできた。
驚くことに肉屋は隠し持っていた三本目の短剣を投擲し、それよりも速く肉薄したのだ。
つまり自らの攻撃は囮、その背後に迫る短剣こそが本命。
本命が男の眼前に差し迫る。
その切っ先が男の頭に辿り着こうとしたその時、短剣は砕けた。
男は肉屋の攻撃だけではなく、その後ろの短剣にも対応していた。
俺には、その様子を目で捉えることは敵わなかった。
「俺の番だな」
そう言うと、男の手に握られた剣の刀身が光を帯びる。
次第に、男を中心に風が渦巻き始める。
「どうした?逃げないのか?」
男はその場から微動だにしない肉屋に声をかける。
「逃げたところで無駄だろ。お前のそれは絶対不可避の・・・」
「そうか、なら食らえ。『クラウソラス』」
男が剣を振り下ろす瞬間。その一瞬は世界から音が掻き消された。
思わず息を吞んでしまうような所作から放たれたのは光の斬撃。
それは、そよ風のように穏やかで雷のように強大な一太刀。
肉屋の体は空間ごと切り捨てられる。
その傷は大きく深い。しかし、血が流れることは無かった。
先ほどまで生気に溢れていた肉屋は、力なく静かに崩れ落ちた。
そうして、肉屋との戦いは唐突に幕を閉じた。




