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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
プロローグ
18/148

旅立ち

 今日も日が顔を出す前に起床した。

 そしてベッドの上で丸くなって、少しの間泣いた。


 階段を下り、今に向かうとダグラスが準備運動をしている。

 昨日と同じ光景だ。


 そして昨日と同じように領を一周する。


「アルマ」

「なんですか?」

「気にするのも悲しむのも良い。だが、囚われるなよ」

「分かってます。じゃないと前に進めませんから」


 そんな会話を挟みつつ、朝のランニングは終了した。


「おかえり。ご飯できてるから」

「ありがとうございます。いただきます」


 食卓に会話は無かった。

 ダグラスも、スミシーも、俺も、三人とも昨日の出来事に気持ちの整理ができていないのだろう。

 あるいは、一人足りないことが原因かもしれない。


 朝食を済ませたら訓練に戻る。

 ダグラスとの戦闘訓練だ。筋トレや素振りや回避訓練などが行われた。

 その中の回避訓練で発見があった。


「アルマ。その回避はどこで身に着けた」


 ダグラスの剣を避ける。それだけの訓練。

 俺は本気ではないにしろ、ダグラスの剣を全て避けきった。

 それを不思議に思ったのか、剣を肩に担いだダグラスは質問してきた。


「自分でもよく分かんないけど、なんとなく避け方が分かるんです」

「ふむ、アルマのパッシブスキルは何だったか」

「実用的なのは『戦闘能力向上』ですかね」


 ダグラスは合点がいったような顔をした。


「なるほど。避け方が上手いのはそれが理由か。そのスキルが発動した時、何か起こらなかったか?例えば、力が湧いてきたり、視界が光ったり」


 俺は心当たりがあった。

 視界が青く光る現象。あれは戦闘能力が向上した合図だったのだ。


「その顔は思い当たることがあるんだな。それはいつ起こった?それが分かれば強くなるための道筋が明確になる」


 俺は頭の中の記憶を漁った。

 青く光ったのは、スキルが発動したのはいつだったか。

 鑑定の時に分かったこのスキルの概要と照らし合わせて考える。

 その答えはすぐに出た。


「俺が忘れがたい経験をした時です」


 エルがいなくなった時、両親が亡くなった時、俺の視界は青くなった。

 その答えが分かったとき、喜びより失意の方が大きかった。


「そうか。ならば地道に鍛錬する他ないな」


 そうして再び訓練に戻るも、俺はスキルのことを考えていた。

 俺がこれからスキルによって強くなるためには、昨日や一昨日のような経験をしなくてはいけないのだ。

 そう考えるだけで、深い暗闇に飲み込まれるような心地がした。


 昼になり、昼食をとると、次はスミシーとの訓練だ。

 その日は風魔法の訓練だった。

 初級魔法を習得できた。その後、中級に挑むもその日のうちには習得できなかった。


 夜は訓練はない。夕飯を食べ、各々が自由に過ごす。もっとも会話は生まれなかったが。

 俺は寝るまでの間、自主的に訓練をしていた。その日教わったことをなぞるようにした。


 そんな日々がずっと続いた。

 ある日は雨が降り、ある日は強い風が吹き、ある日は雪が降った。

 そんな日々が訓練と共に経過していった。



 * * * * *



 そして十年後。

 十五歳になった俺はダグラスと相対していた。

 俺とダグラス。家の庭で向かい合う二人の間に静寂が流れる。

 俺は剣を中断に構え、ダグラスは肩に大剣を担いでいた。


「始めっ!」


 離れたところで見守るスミシーによって静寂は崩れ去り、金属がぶつかり合う音がその場に響いた。

 初手でダグラスの重い一撃が飛んでくる。剣でいなしつつ、後ろに下がるも、ダグラスの猛攻は止まない。

 最初の一手で俺は防戦一方になってしまった。


 ダグラスの攻撃を避けながら好機を伺う。

 後退しながら攻撃を避け続けた。


 しかし、気づけば後ろは勝負の範囲外。ここを越えてしまうと俺の敗北になる。

 それに気づいた俺は一瞬、注意が散漫になる。


 それを見逃さなかったダグラスは横薙ぎを放って来た。

 食らえば俺の体を容易に圧砕するであろう一振り。俺を含むその場の誰もが勝負が決したと思った時。


 俺は間一髪、大剣の下に潜り込みその一刀を逃れる。

 潜り込む際にしゃがみ込んだ体勢から加速し、剣を振り抜くダグラスとの距離を詰める。


 俺は下からダグラスの首に向けて剣を向けた。


「そこまで!」


 スミシーの一声で勝負は決した。

 この勝負は俺の勝利で終わった。


「勝ったと思ったんだがな。あそこで避けられるとは」

「負けたと思った時が好機、ですよね」


 いつかダグラスから教わった言葉。

 それを覚えていた俺を、彼は満足げに眺める。


「アルマ君、やるじゃない」

「いや、ダグラスさん油断したでしょ。相手の命を取る瞬間まで油断するなって言ったのはあんたですよ」


 ダグラスは油断した。

 勝ったと思った、という発言がその証拠だ。

 そして、ダグラスは本気ではなかった。

 本気であったならば、絶対に油断などしない。一部の隙も見せない。


「バレたか。」

「そりゃ気づきますよ。そもそも初手で勝負決めれたでしょ」


 初手の一撃でいなすことが不可能な攻撃もできたはずだ。

 最初から手加減されてたわけだ。


「すまんすまん。とはいえ、ここまで出来たら上等だ。認めてやる」

「そうなると、寂しくなるわね」

「すぐ帰ってきますよ、二人で」


 二人で、そう付け加えると二人の顔は微笑みを浮かべた。


 この勝負は俺が旅立つことを決める勝負だった。

 そしてそれに勝った俺は、今日でこのサンタナ領を旅立つ。

 だから、次にここに来るときは二人で、だ。



「格好も、荷物も、剣もよし!じゃあもう出ます」


 家で身支度をし、荷物を持った俺は二人に声をかけた。


「せっかちね。少しくらいゆっくりしてもいいのに」

「はっはっは!男ならすぐにでも旅立ちたいものだ。そういう性分なんだ」


 三人でサンタナ領の出口に向かう。

 ダグラスとスミシーはこれまでの思い出を語っている。

 俺もその会話に相槌を打ちながら歩いた。


 そして出口に着いた。

 ここから一歩踏み出せば外の世界。一人で領の外に出るのは初めてだ。


「アルマ君」

「何ですか?」

「アルマ君のすべきことはなんだ?」


 ダグラスは真剣な様子だ。

 俺はその問いに答える。


「エルと二人でここに帰ってくること。そして、魔物を殺すことです」

「そうか」


 ダグラスは少し悲しげな顔をしている。別れに対するものではなく、それとはまた別の悲しみを感じている。


「アルマ君、これ」

「スミシーさん、これって」

「あなたのお母さんの首飾りよ。宝石は駄目になってたから外したけど・・・」


 母の首飾り。宝石が無くなった今では質素な物になっている。


「ありがとうございます!」

「宝石の代わりと言ってはなんだけど、その首飾りに状態異常耐性を付与しておいたわ」


 本当にありがたい。

 この首飾りはより一層大事なものになった。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気をつけてな」

「行ってらっしゃい」


 俺は領の外へと踏み出した。

 異世界で冒険者の一歩を踏み出したのだ。


第一部!完!

呼んでくれた皆さま、ありがとうございました。

これからも頑張ります。

お手数でなければ星、感想、ブクマの方もよろしくお願いします。

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