謝罪
いつもより早く目を覚ました。
日が昇り始める時間帯から訓練をするとダグラスに言われたからだ。
普段なら眠りこけている時間帯だが、眠気などどこにもない。
そして、魔物への憎しみはちゃんとある。
情けないことだが少し安堵した。昨日の決意は一生続くと確信していたが、心のどこかで目が覚めると消えているのではないかという不安があったのだ。
ふぅ、と息を吐いて、一回に降りる。
居間へ降りると、ダグラスが準備運動をしている。
「アルマ君、いや訓練中はアルマと呼ぼう。これから走るぞ。身支度をしろ」
言葉に従い、可能な限り迅速に身支度を済ませ、ダグラスのもとへ向かう。
俺の訓練が始まった。
朝食前にサンタナ領を一周する。
今は体を作る段階ということで、初日は一周だけ。今後、体が出来上がっていくにつれ、数を増やすとのことだった。
一周を終えるころには、昇りかけだった太陽が、完全に顔を出していた。
再びエルの家の前に来た時、俺は肩で息をしていたが、ダグラスの息は全く乱れていない。
その様子を見て、この人に訓練を頼んで正解だったかもしれない、と心の中で呟いた。
家へと戻り、食卓に並んでいた料理を口に運ぶ。
激しい運動の後だからか食欲があまり湧かない。
口に料理を運んでも胃が受け付けない。
「アルマ。きつくても飯は食え。体を作るためだ」
料理を口に運ぶのをためらう俺を見たダグラスが言った。
そして俺は、全く空腹を感じさせない胃袋に、強引に飯を突っ込んだ。
俺が食べ終わるころ、眠そうなエルが二階から降りてきた。
その目は腫れており、昨日あの後泣いたことを示唆している。
俺はそんなエルに近寄り、声をかける。
昨日のことを謝るためだ。
「あの、さエル。き・・昨日は・・」
しかし言葉の続きが出てこない。
謝罪の言葉が喉に突っかかっている。
ここで謝るということは、昨日俺がエルに伝えたことが間違っていると認めるような気がした。そしたら、俺の復讐は熱を冷ましてしまうのではないか。
だったら、謝らない方が。
そもそも、先に俺の決意をけなしたのはエルの方だ。俺から謝るのはおかしい。
幼稚だが、そんな考えが巡る。そして、そんな考えが謝罪の言葉を喉に詰まらせる。
「アル、あのね?あたし、言わなきゃいけないことがあるんだ」
俺が躊躇していると、エルの方から口を開いた。
「え・・と。アル・・・その。昨日は・・・」
「ここがフォートレスの家だな。失礼する」
エルの言葉の続きを、家に上がり込んできた甲冑の男に遮られる。
男の顔は兜で覆われており、騎士といった風貌だ。
俺やエルたちは困惑し、扉の前の男をただ見つめていた。
そんな俺たちを横目に、甲冑の男は言葉を続ける。
「この家の娘、エルリアル・フォートレスを我が王都騎士団に引き入れる。拒否権は無い」
男は淡々と、事務的に告げた。