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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
八章 聖都ガレルス
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冷たい激情

 妾には兄が居た。

 母と、兄と、優しい家族たちが居た。

 陽の光も届かないような穴倉で生きていた。

 青い空も、緑の森も、黒い土も知らぬまま、四方八方を岩肌に囲まれたなかで過ごしていた。

 その狭く小さな世界が、妾の全てだった。


 兄は妾をよく撫でてくれた。そして話してくれた。

 鮮やかな色に溢れた外の世界と、そこに生きる人々のことを。

 それらは全て母からの受け売りに過ぎず、兄自身も外の世界を見たことは無かったという。


 だからいつか、一緒に外に出ようと約束したのだ。

 まだ見ぬ世界へ思いを馳せる、幸せな暮らしだった。


 ああ、兄よ。

 今も生きているのだろうか。

 それともあのとき既に、死んでしまったのだろうか。


 願わくは‥‥‥


 * * * * *


 痕跡を辿り続け、視線の先には炎のようなものが見え始めた。

 間違いない。村だ。


「コユキ」

「ああ、戻ってこれたようだのう」


 正直に言えば、現状のことについて整理がついているわけではない。

 あの村、生贄、狼、そしてコユキの気がかり。

 これらの事柄を部分的につなげることは出来るが、全てを線でつなぐことは出来ていない。


 その答えが目の前に迫っている。

 気持ちが逸るあまり、踏み出す足が力強く地を踏みしめる。


 いよいよだ。

 いよいよ‥‥‥


 そんな時。

 村の外周が氷壁で囲まれた。

 隣を見れば、コユキが掌を村の方へ差し向けていた。


「何してんだ‥‥‥?」


 いきなりのことに困惑が溢れる。

 村の方からも、村人たちのざわめきが聞こえ始めた。突如として表れた氷壁に戸惑っているのだろう。

 

 コユキは毅然と答える。


「逃げられでもしたら面倒だ。こうしておけば話は早い」


 怒り。

 底知れない憤りが籠った声だった。


 それを俺は知っている。

 両親を魔物に殺され、復讐を誓った日。

 あの時の俺と同じものを、今コユキは感じている。


「行くぞ、アルマ」


 彼女はそう言うと、俺の手を掴み跳躍した。

 軽々と氷の壁を跳び越えて、村の中へと入る。


 俺たちの姿を認めた村人たちは、唖然とした表情を浮かべていた。


「なんで‥‥‥生きているんだ‥‥‥」


 村人の一人が、絶望したように嘆く。

 気付けば、村人たちは俺たちを囲むようにして集まってきた。


 そんな中、コユキが一歩前へ出る。

 その小さな背中に、俺は声をかけた。


「コユキ、早まるなよ」

「分かっておる」


 本当に分かっているんだろうな。


「おい、この村の長はおるか?」


 彼女が言うと、白髪の老人がおずおずと前へ出てきた。


「わ、私が村長です‥‥‥」

「そうか」


 コユキは一言言い放つと、右手を振るった。

 次の瞬間、尊重を除いた村人たちが氷漬けにされた。

 村長の男が悲鳴を上げ、取り乱した。


「おい!何してるコユキ!」

「黙っていろ!」


 有無を言わせぬ怒号。

 これまで一度として見せたことのない様子に、言葉を失う。

 村長も、村人たちが凍らされた動揺をむりやり飲み込んでいた。


 この場の支配者は、正真正銘コユキだった。

 彼女はじっと村長を見据え、冷たく言い放った。


「さて、村長よ。聞かせてもらおう。あの獣のことを、どれだけの生贄を捧げてきたのかを」

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