誘拐
宴は何事もなく終わり、俺とコユキは次の行動を思案していた。
「今日はもう暗いから、ここに泊まるとして、明日からはどうする」
俺はコユキに尋ねた。
「俺としては、早めにユウリと合流すべきだと思うんだが」
「妾は、もう少しここに居たい」
その返答は、普段の活発な様子とは異なり、どこかしおらしさを感じさせた。
しかし分からない。
この村の一体何がコユキを惹きつけるのか。
ここは一見すればなんの変哲もない普通の村なのだ。
そこが怪しいと思う気持ちも分からなくないが、村人が危機に瀕しているわけではない以上、俺たちがこの村で出来ることは何も無い。
しかし・・・・・・
「コユキ、どうしてもここが気になるのか?」
「ああ」
コユキはこう言っている。おそらく梃子でも動こうとしないだろう。
「分かった。お前の気が済むまで待つ」
「例えばお前が居なくなったとしても、妾はここに滞在するつもりだったぞ」
癪に障る回答が返ってきた。
「そうかよ」
「だが、ありがとう」
「・・・・・・まあユウリなら一人でも問題ないだろうしな」
「お、お客さん。今日はここに泊まっていきますよね?」
コユキと話しているところに、村人の一人がやってきた。
「ああ、そのつもりだ」
「でしたら、お客さん用の家が空いてるのでそこで寛いで行ってください」
よそ者に空き家を貸すとは、かなり豪勢なもてなしだな。
そんな事を思っていると、コユキが村人に向けて口を開いた。
「のう、ひとつ聞きたいのだが」
「なんでしょう?」
「昨夜までここには妾たち以外の客人が居た。間違いないか?」
「ええ、その通りですが・・・・・・」
「それは何人だった?」
コユキが一体何を聞き出そうとしているのか、俺にはさっぱり分からなかった。
それは村人も同じだったようで、困惑しながら答える。
「三人、でしたけど・・・・・・?」
脊髄が急激に冷えたような感覚がした。
三人?
俺たちがあったのは二人だ。
仮にその二人がこの村から逃げてきたんだとしたら・・・・・・
あと一人は一体どこに行ったんだ?
「二人ではなく、三人なんだな?」
「ええ、はい」
「そうか。下がって良いぞ」
コユキが言うと、村人は去っていった。
「おい、コユキ」
「やはり、何かある」
昨夜、この村には三人の客が居た。
ではあと一人はどこへ行ったのか。
そして逃げてきた二人が見たという獣とは何なのか。
俺たちは色濃く漂う疑惑を胸に、村の空き家て眠りについた。
* * * * *
突然、後頭部に強い衝撃が走り、目を覚ました。
車輪のようなものが遠ざかっていく音が聞こえる。
眠りから覚めて数秒、ようやく思考が冴え始めた。
ここはどこだ?
何で俺は森の中で寝ている?
俺は確かに村の空き家で眠っていたはずだ。コユキと一緒に・・・・・・。
そうだ、コユキはどこにいる?
「コユキ!いるか!?」
「そう大きな声を出さんでも聞こえておる」
コユキはすぐ隣にいた。
ひとまずほっとする。
「コユキ、この状況は何だ?」
「分からん。何者かに攫われた、と見るのが妥当だろう・・・・・・」
「攫った奴らの姿が見えないのはどういうことだ?」
「さてな」
誘拐犯がいるのだとすれば、俺たちをここに置いていく理由は何だ。
人売りに身柄を渡すため?それとも単に邪魔になったから?
理由は分からないが、ここに留まっていても仕方ない。今は移動しよう。
「コユキ、行くぞ」
「ああ」
俺たちは森の中を歩き始めた。