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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
八章 聖都ガレルス
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獣が来る

 ユウナと別れた後、俺はユウリ達と合流した。


「何の話をしてたのだ?」


 コユキは怪訝そうに見つけてきた。

 その様子から、俺を移り気な男だと疑っていることは容易に読み取れた。


「お前が心配することは何もない」

「・・・まあ、信じよう」


 その疑念に真正面から答えると、コユキは渋々ではあったが頷いた。


「で、ユウリ。これからの予定は?」

「とりあえず、明日の準備は問題ない」

「では街を見て回ろう!先ほど通り過ぎた店が気になる!」


 ここから先は自由時間と知り、どうやらコユキの機嫌は直ったようだ。現金な奴である。

 とはいえ、まだ日は高い。宿にこもるには早すぎる。

 何もしないよりはコユキに付き合った方が良いだろう。


「その店ってどこだ?」

「こっちだ!」


 コユキは小さな体を大きく揺らして歩き始めた。

 その後ろを、俺とユウリは着いていった。


 そして、聖都の街を巡って、はや三時間。

 神聖なこの都市に、斜陽が差していた。

 コユキは、その無尽蔵な体力で街を散策した。俺とユウリはそんなコユキの後を追い、日が暮れるころには足が棒になってしまった。


「アルマ、そろそろ宿に行くぞ」

「分かった」


 ユウリからそう言われ、俺は前を先行して歩くコユキに呼びかける。


「コユキ、今日はもう宿に行くぞ」


 少し声を張り上げて言うと、コユキはくるりと振り返った。


「何ぃ?まだ気になるというのに」


 実に不満げな声と表情である。片側の頬を膨らませたその顔は、彼女の外見に相応しい少女のものだった。


「仕方ない、デュオクスからの依頼が終わったその時はまた連れまわすからな」

「勘弁してくれ」


 そうして、俺たちは宿へと向かった。


* * * * *


 三人同じ部屋で夜を明かし、朝を迎えた。


「よっしゃ、準備良いか?」


 ユウリが言う。

 俺とコユキは何とはなしに反応を見せた。


「悪い神様が封印されてる場所に行くには、こっからちょっと行ったところにある森、そこにある洞窟に入ることになる」

 

 ユウリは今日の予定を口頭で伝えた。

 目的地は、聖都周辺に広がった森の中にある洞窟。

 移動手段は徒歩。行き帰りで今日一日は潰れるとのことだった。そのことにコユキは不満げであったが、ここは我慢してもらうしかない。


「じゃ、行くぞ!」


 俺たちは宿を出た。

 聖都を出て、道を歩く。辺りには草原が広がり、吹き抜ける風が気持ちよく感じられた。時々会話を交わしながら、目的地まで歩を進める。

 そうして歩き続け、太陽が南中したころ、前方には鬱蒼と生い茂る森林が現れた。


「あれか」


 不意に呟いた。

 それに対して、ユウリはしっかりとした返答をする。


「森に入ってからも移動はするからな、油断するなよ」


 ユウリの忠告通り、森に入ってからが大変だった。

 地面は木の根が張り巡らされており、凹凸ばかり。これまでの平坦な道とは違って、ただ歩くだけでもそれなりの体力を要した。

 そんな厄介な道中と格闘すること一時間、俺たちは目的地に到着した。


「ここだ」


 目の前には、空洞を深い闇で満たした洞窟。覗き込んでも、先は見えず、目を凝らしてもやはり先は見えない。足を踏み入れるのに多少の勇気が必要になるほどだった。


「ここ、は・・・・?」


 コユキの疑問に満ちた声だった。


「コユキ、どうした?」

「いや、いやそんなはずはない。だって妾は・・・」


 俺の呼びかけに、コユキは答えなかった。

 どんな苦境においても泰然としていたコユキが、戸惑っている。その様子を見て、俺の中にはじんわりと焦りが生じ始めた。


「おい、コユキ!大丈夫か!?」


 彼女の小さい肩を掴み揺らした。

 するとコユキは我を取り戻したようにハッとした。


「あぁ、アルマ。大丈夫だ、何でもない」


 その言葉に全幅の信頼を置くことは出来なかったが、とりあえず彼女の言葉を受け入れる。

 そしてユウリに言った。


「ユウリ、行こう」

「いや、ちょっと待て」


 ユウリに制止される。その顔には英雄としての様相が浮かんでいた。

 突然、ユウリは駆けだした。森のさらに奥へ、風の如く疾駆した。

 俺とコユキは一息遅れて、ユウリの後を追った。

 森の地面は相変わらず走りづらいが、一瞬でも速度を落とせばユウリから引き離されてしまうため、細心の注意を払いながら駆けた。


 やがてユウリは停止した。

 ユウリの傍に寄ると、そこには何やら怯えた様子の男二人が、四つん這いになっていた。


「た、助けてくれ・・・」


 弱弱しい声で助けを請う男。

 続けて、


「獣が来るんだ・・・・助けてくれ・・・」


 そう言った。

 一切要領を得ない言葉に、俺は首を傾げる。

 しかし助けを求めていることは確かである。


「ユウリ、どうする」


 ユウリに決断を委ねようとしたその時、コユキが真剣な面持ちで、男二人に尋ねた。


「獣と言ったか?それはどんなだ、恐ろしいか?おぞましいか?気色悪いか?」


 コユキの質問の意図が分からなかった。

 しかし、男たちには伝わったようだった。


「いや・・・そんなんじゃない。あれは神々しかった」


 それを聞くと、今度はコユキが走り出した。

 一体何が起きているのか、未だに分からない。それでもコユキをあそこまで必死にする何かというのは、不吉なものであるような気がしてならなかった。


「ユウリ!俺はコユキに着いていく!お前はデュオクスの依頼を終わらせろ!」


 ユウリにそう告げて、俺はコユキの後を追った。

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