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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
八章 聖都ガレルス
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積もる話

「それで、アルマはなんでここにいるの?」


 聖都の大通りで、ユウナと再会した。

 思わぬ出会いだった。

 ユウナの方から俺に声をかけ、一息遅れて俺も気づいた。


 彼女は、ニエ村に住んでいた。

 旅に出てすぐの俺は、村から降りてきた彼女の助けを求める声に応じ、魔物に襲撃されていた村を救った。

 それから村に招かれ、宴を楽しみ、ディールと戦闘し、ユウリと出会った。

 

 しかし、俺と彼女の事情を知らないコユキからは、愛人を隠していただの、有る事無い事を罵声と共に浴びせられた。

 だが、そんなコユキの癇癪をユウリが制止し、俺にこう促した。


「久しぶりの再会なんだ。二人だけで話してこいよ。この子の面倒は俺が見るから」


 暴れるコユキを力一杯抑えるユウリ。

 半神と英雄のドリームマッチが密やかに行われていた。

 それから、俺たちはユウリの言葉に甘えて、とある喫茶店らしき店に来た。


 俺はユウナの質問に答えた。


「ユウリの付き添いでな。聖都に用事ができたんだ」


 聖都を訪れた目的をざっくりと話す。


「その用事って?」


 色々と端折ってしまったため、ユウナは深いところを聞いてきた。


 俺は一考する。

 果たして、この件に無関係のユウナに話してしまっていいものか。

 いや、それは避けた方がいいだろう。

 なぜなら、この世界の神であるデュオクス直々の依頼だ。軽薄にひけらかす様なことはしない方がいいだろう。


「悪いな、言えない」

「ざんねん」


 ユウナは食い下がることなく、あっさりと追求をやめた。

 今度は俺の方から質問をする。


「逆に、ユウナはどうしてここに?」


 その質問に、ユウナは悪戯な笑みを浮かべる。


「実は私、治癒魔法が使えるの」


 わざとらしく自慢した。

 しかし、その発言は驚くに値するものだった。


「治癒魔法って、すごいな」


 治癒魔法を使える者は限られている。

 コユキから教えてもらったことだ。

 俺が治癒魔法を使えると知っているのは、エルとユウリくらいしか居ない。かたや騎士団師団長、かたや英雄だ。そこにユウナが名を連ねるとは、思いもよらなんだ。


 しかし、治癒魔法が使えることが、どうして聖都にいる事に繋がるのだろう。

 その答えは、すぐに返ってきた。


「聖都はね、敬虔な神の信者が多いんだ。それでね、教会は治癒魔法を使える人を招き入れてるの」

「何のために?」

「神の使いが人々を癒す。無宗教の人を勧誘するには打ってつけでしょ?」


 なるほど、思ったより打算的だった。

 変に無性の愛が、などと言われるよりかは信用できる言い分だが。


「だから、治癒魔法が使える人を教会に招いて、その人の能力を伸ばすの。ゆくゆくは教会の利益に繋がるから」

「敬虔なる神の信徒、ね」


 貪欲な金の亡者の間違いではないか、という言葉は言わないでおいた。


「てことは、ユウナもその一人ってことか」

「ううん、私は違うよ。教会も、それを承知で私に色々教えてくれてる」


 必ずしも、信者になる必要はないか。

 考えてみれば、優秀な治癒魔術師が実は聖都の教会で学んでいた、などとならば教会の名声が向上するのか。がめついな。


「それに、私ここ好きだし」


 ユウナは外に目を向けた。

 合わせて俺も外を眺める。

 隣接する大通りには、ちらほら人がいるが、王都のようにごった返しているわけではない。落ち着いた時間が流れている。


「そうだな、俺も嫌いじゃない」


 自然とそう呟いていた。

 すると、ユウナの笑う声がした。


「何か面白いこと言ったか?」


 ユウナは静かに笑った後、言った。


「アルマ、変わったね。丸くなったよ」

「自分ではそんな気はしないが」

「温和になった、って言えばいいかな。優しいのは前からだけど」


 そういった自分の変化というものに、俺は疎い。

 ユウナが俺を見てそう思ったのならそうなのだろう。


 すると、彼女はおずおずと口を開いた。


「あの、さ」 


 その様子に、俺は首を傾げる。


「どうした?」

「まだ、復讐したいって思ってるの?」


 復讐。

 両親を殺した魔物に対する怒り。

 それは、今も冷めていないのか。


 怒りがない、と言えば嘘になる。

 だが、冷めつつある、と言った方が正しいだろうか。


 幼い頃の俺にとって、両親は全てだった。精神的支柱だった。エルやダグラスやスミシーも大事だったが、両親に勝る者はやはり無かった。


 だが、今は違う。

 エルが居る、コユキが居る、ユウリが居る。

 他にも多くの出会いがあった。中にはもうこの世に居ない者も居る。

 だが、それらの出会いは俺の中に変化をもたらしたのは間違いない。


 実に曖昧な答えだ。

 口にするのが憚られる気がする。


 どう言葉にしたものか、と悩んでいるとユウナが口を開いた。


「いいよ、もう分かった」

「本当か?」

「前のアルマならこーんな目をして即答してたところだよ」


 両手の人差し指で目を吊り上げるユウナ。

 その後、安堵の笑みを浮かべた。


「きっとそれでいいんだよ」

「そうかもしれない」


 よし、とユウナは自らの頬を叩いて立ち上がった。


「それじゃ、私行くね。聖都にはどれくらいいるの?」

「初めてきた場所ではしゃいでる奴が仲間にいるからな。そいつ次第だ」


 恐らく、コユキが満足するまでは聖都にいることになるだろう。


「そっか。ならまた会ったらよろしくね」

「ああ」


 その言葉を最後にユウナは店を出た。

 俺は少しの間、再会の余韻に浸った後、店を後にした。

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