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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
八章 聖都ガレルス
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意外な再会

 デュオクスの神殿を出て、長い階段を下る途中。

 未だ日は高く、一日の活動に区切りをつけるには早すぎる頃合い。

 俺はユウリに聞いた。


「すぐに聖都に移動するのか?」


 この後、馬車を捕まえれば聖都へ向かうこともできるだろう。

 しかし、選択肢としては神都で準備をしてから向かうというのもある。


 そのどちらを選ぶのか、という問いかけにユウリは、


「今から向かう。そうすれば聖都で宿を取れるはずだ」


 そう言った。


 俺はその言葉に深い疑問を抱いた。

 前半部分は別に変ったところは無い。

 気になったのは後半のほうだ。

 俺自身、聖都を訪れたことは無いため、移動にどれほどの時間を要するのかは分からないが、一日やそこらで辿り着けるほど近くないというのは分かる。


 冗談で言ったのか、はたまた単なる言い間違いなのか。

 自然と、俺は聞き返していた。


「それって聖都には今日中に着くって言ってるのか?」


 という俺の疑問に、ユウリは何かを企むような笑みをこちらに向けてきた。


「ふっふっふ。驚くぞ?」


 どうやら答えを教える気はないようだ。

 ユウリに聞いても無駄となれば、百年あまりをこの地で過ごしたコユキに聞くほかない。


「なあ、コユキ。何か知ってるか?」


 単純に疑問を解消したい。

 それと、ユウリの気持ち悪い笑顔を掻き消したい。

 そんな願望を込めた質問だったが、コユキはゆっくりと首を振って言う。


「さあな。妾は神殿内でほとんどの時間を過ごしたからの。この都市についてさほど詳しくないのだ」


 コユキも答えを知らないようだ。

 ユウリの企みを打破できないことにため息を吐き、俺は階段を下り続けた。



* * * * *


 しばらく歩き続け、ようやくその歩みを止めたと思えば、辿り着いたのは神都の入り口。

 そこには外部からの攻撃を防ぐための城壁などと言ったものは特になく、神都とその外側の境界と言った方が正しいような、実に雑然とした入口だった。


 ここまで答えを頑なに教えたがらないユウリの後ろを、黙ってついてきた。

 ユウリは目的地にたどり着いたような顔をしているものの、俺とコユキは現状についてさっぱり分かっていない。

 いい加減、ヒントくらいは出せよと内心で悪態をついていると、ユウリがこちらに顔を向けた。


「ここから先は、すぐ聖都だ。ちょっと不思議な感覚がするだろうが、気にせず歩けよ」


 その意味の分からない忠告に、俺は特大の疑問符を思い浮かべた。

 そんな俺を気にせずユウリは踏み出した。


 すると、神都の外へ出たと思ったユウリの体が消えた。

 いやこの言い方は正しくないだろう。詳細に表現するなら、入り口から出た体の箇所が消えた、と言うべきか。3Dプリンターで物を作る際の製造過程を逆再生したなら、実際にこんな風になるのだろう。


 俺は目の前で起きたことに困惑した。

 ただ、俺の相方はそうではないようで、好奇心に身を染めて、嬉々として踏み出した。


 コユキの体もまた、同じように消える。


 この瞬間も脳内で情報の整理は済んでいないが、俺だけ遅れるわけにはいかないだろう。

 ほんの少しの恐怖とともに、俺は足を前に進めた。


 瞬間、体が急速に反転したかのような感覚に襲われる。

 「なるほど、ユウリが言っていたのはこのことか」と納得すると同時に「もっと説明しろよ」という若干の不満を感じつつ、前に進む。

 一歩、二歩、三歩。脚から伝わってくるのはぬかるみに足を突っ込んだ時のような気持ちの悪い感覚。しかし徐々にその感覚は硬さを帯び始め、やがて自分は地を踏みしめていると自覚できるまでになった。


 そうして、いつの間にか瞑っていた目を開く。

 視界の端にユウリとコユキ、そして真ん中には白亜の巨塔とも呼ぶべき建造物が見えた。


「ここが聖都ガレルスだ」


 隣でユウリが呟いた。

 しかし俺はその言葉を聞き流してしまうほどには目を丸くしていた。


 都市全体のイメージは神都と同じく白なのだが、聖都と神都とでは、白と一言で言っても全く別物である。

 神都の白とは、石を粉末状にしたときに見られる条痕色で、言ってしまえば古びたような印象を受ける。

 対して聖都の白はというと、純白。色の奥底から光を放っているかのような、真新しい白だ。


 中世的な町並みはもちろんのこと、最も目を引くのは天を衝く巨大な塔である。


「なあ、あの塔みたいなのなんだ?」

「ん?あれは教会だ。ここは神を信仰する者にとって楽園みたいなところなんだ」


 その説明に聞き耳を立てつつ、俺は呆けていた。


「なあ、アルマ!早く行こうぞ!」


 意識が抜けかけてた俺を引っ張り戻したのは、はしゃぐコユキの言葉だった。

 俺は頭を左右に振り、意識を切り替える。


「ユウリ、まずどこに向かうんだ?」


 そう問うと、


「とりあえず今日一日は準備に使おう」


 とユウリは返す。


 そして俺たち三人は聖都の街へ身を乗り出した。


* * * * *


「結局、あれは何だったんだ?」


 コユキが新たな街に目を輝かせ、大通りを何度も横断するのを眺めながら、俺はユウリに聞いた。


 質問の”あれ”とは、言わずもがなここに来るときに通った神都の入り口のことだ。

 俺が神都に行くたびに通っていたであろうあの入り口。これまでは、こんな瞬間移動みたいなことは出来なかったはずだ。

 そう思っていると、ユウリから答えが返ってきた。


「あれは転移門、って言えばいいのか?」


 自分の発言に自信なさげなユウリ。


「転移は今回限りなのか?」

「今回限りっていうか、神様に任務を貰った時にこうやって使える」


 その言葉に感心したように二度三度頷く。

 そんな雑談を交わしているとどこからともなく声が聞こえた。


「ねえねえ、アルマだよね?」


 背後から聞こえた声は、女性のものだった。

 加えて俺の名前を知っている。そして俺もこの声を聞いたことがある。

 振り返るとそこに居たのはユウナだった。


「やっぱり。アルマ、久しぶり」


 そう口にして、彼女は微笑んだ。

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