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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
八章 聖都ガレルス
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聖都へ

 車輪が地面を転がる音が、徐々に勢いを失っていく。

 目的地にもうすぐ到着するのだろう。

 そのことを感じ取ってか、退屈の末に眠りこけていたコユキが目を覚ます。そのまま外の風景に目を向けた。


「戻ってきたな」


 どこか懐かしむ様子のコユキ。


 ああ、そうか。思い返せば、こいつと初めて会ったのはここだった。それから俺の隣にはコユキが居るようになったのだ。

 それだけじゃない。クレシオとの再会を果たしたのもこの場所だった。


 そう思うと、この都市には愛着が湧いてくる。ここで過ごした時間などほんの少しだと言うのに、不思議なものだ。

 それもこれも、ここが大都市の中で最も特殊であるからに他ならない。

 この地には、かの善性の神デュオクスがいるのだから。


 やがて馬車は停止した。到着したようだ。

 馬車から降り、その景色を目に入れる。

 俺は再び雲海の上に立っている。神都を訪れた。


 歩きながら、俺はユウリに聞いた。


「これからどうするんだ?」

「とりあえず神様に会う」


 神様、という言葉を強調するように答えるユウリ。その冗談めかした言い方に少しイラっとした。


 コユキは特にはしゃぐ様子は無く、大人しく俺の隣を歩いている。

 最初こそ珍しいこともあるものだ、などと思っていた。

 しかしよく考えれば、コユキは随分長いことこの都市に身を置いていたのだった。人ひとりが生まれ、そしてその生涯を終えるほどの時間を過ごしていたのだ。

 そのことを知った当初、まあ神らしいといえばらしいか、と流したが、今考えれば堪え性のないコユキが一世紀の間、同じ都市に居座っていたというのは、なんというかこいつらしくない。


「アルマ、行くぞ?」

「何をぼーっとしておる」


 考えているうちに歩くペースが遅くなっていたようで、俺の少し前を歩く二人に声をかけられた。

 見れば、デュオクスがいる神殿に続く階段が目前に迫っていた。


* * * * *


「よく来たね」


 荘厳な神殿に置かれた豪奢な玉座。

 そこにおわしまするはこの世界の神、デュオクスである。そのような尊き御方の御前、我ら一同は棒立ち。敬虔な信者がこの光景を見ようものなら、卒倒、もしくは怒り心頭の末やはり卒倒するに違いない。


「旅は楽しい?えぇと、今はコユキと呼ばれてるんだってね」

「それなりだな。付き人が時たま落ち込みすぎるのが玉に瑕だが」


 神どうしの会話の中で、俺は悪く言われた。神が俺の名を挙げたことを喜ぶべきか、悪く言われたことを怒るべきか。仮に、この二神が思わず平伏してしまうほどの存在であるならば喜びに打ち震えたかもしれない。そうでないのが残念だ。


「で、アルマはこの頃どう?元気してた?」


 遠方に暮らす祖父母のような口調だ。


「言わなくても分かるんだろ?」


 デュオクスには千里眼とも呼ぶべき目がある。

 その目を通せば、俺の様子などいつだって観測できただろう。


「まあそうなんだけど、こういうのは会話っていうかさ。まあ、そんな返しが出来るってことは元気ってことだろう。よかったよかった」


 そして次は俺の右隣に立つユウリと軽い会話をする。

 かと思いきやそんなことは無く、デュオクスは咳ばらいをした。


 目に見えて雰囲気が変わる。

 ここから先は至極真面目な話題になることを、その場の誰もが理解した。


「聖都に向かってほしい」


 神からのお願い。文字に起こせばおかしな話だ。


 「どうして聖都に?」、とユウリが問う。


「あそこの歴史的成り立ちには特殊な点があってね」


 聖都の成り立ち、と聞いて不意に想起する。

 聖都は、神の庇護を得るために出来た都市。

 当時、神と人の間にあった壮絶なまでの差が無くなり、それゆえに神から与えられる恩恵は薄れていた。

 しかしどこかの誰かが、それはいけないと思ったのだろう。そして神に祈り、助けを請うことを善しとした集団が出来上がり、彼ら彼女らは聖都を創りあげるに至ったのだ。


 デュオクスに言わせれば、この成り立ちには特殊な部分があるという。


「これは公には語られていない話さ」


 そうして語られるは、隠された聖都の成り立ち。


 信心深いある集団は、神から庇護を得ようとした。

 そんな人々に神は答えた。悪しき神を封じよ、と。

 人々がその言葉に頷くと、神は人々に力を与えた。その力は悪の神を封じる力だった。

 そして、多くの血が流れた後、ついに悪の神は封印された。

 現在の聖都は、悪神が封印された地の真上に建てられたという。


 一連の話を聞いて、まず思ったことを口にする。


「ここに出てくる神はお前のことだろ?」


 デュオクスはそれとなく頷いた。


「重要なのは封印されたというだけで、今も生きているということ。封印は時と共に風化し、いつかは朽ち果てる。朽ち果てたら言わずもがな、世界は災厄に見舞われる。そうならないために定期的な手入れが必要なのさ」


 デュオクスが言ってることはつまり、封印をアップデートする必要があるということ。

 これまでもその役は誰かが担っていたのだろう。考えられるのは、聖都の者達か、もしくは隣のユウリか。


「了解した」


 ユウリが短く返すと、デュオクスは満足そうに頷いた。

 そしてユウリは神殿を後にする様子を見せた。それに俺やコユキも続く。


 次の目的地は聖都ガレルスだ。

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