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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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再び、旅立ち

 ユウリとの食事は険悪なまま終わり、俺は宿屋の自分の部屋へ戻ってきた。


 エルと話をする。


 それがユウリの出した条件。

 俺が何を言おうと、ユウリは頑として条件を変えようとはしなかった。


 だが、俺はその条件には乗り気ではない。

 そもそも、エルとの縁を切ったことで苦心しているのを紛らわすために旅に出るのだ。

 その旅に出るためにエルと話せなんて、本末転倒だろう。


 それに、あいつは俺の気持ちを分かってなんかいない。


 あいつには計り知れないほどの力がある。あいつに守らないものなんてないのだろう。

 あいつは強者だ。だから俺みたいな弱い奴の気持ちは分からない。


 突然、部屋の扉が開いた。

 部屋に入ってきたのはコユキだった。


「アルマ、お前はいつまでそうしてる」


 最近、コユキとは言葉を交わすことは無かった。

 それが今日は違った。

 それも多分、あいつのせいだ。


「ユウリと話したんだってな」

「ああ」

「旅に誘われたよ、条件付きで。まさかそれもお前の差金か?」


 苛立ち混じりの問いに、コユキはふてぶてしく頷いた。

 そんなコユキに睨みを飛ばす。


 コユキは対抗するように口を開いた。


「あの男ならお前をどうにか出来ると思ったが、期待外れだったか」


 扉の前からゆっくりと俺の前へ歩み寄る。

 そして俺の目の前に立つと、侮蔑するような目で見下ろしてきた。


「それとも、お前が妾が思っていた以上に腰抜けだったのかのう?」


 その挑発に、俺は平静を崩す。

 勢いよく立ち上がり、先ほど以上に睨みを効かせた。

 そんな威嚇をものともせず、コユキは言葉を継ぐ。


「どうした?怒るということは、まさか図星か?」


 コユキもまた、片方の眉を吊り上げ、さらに挑発する様子を見せた。


 しかし、返す言葉が見つからなかった。

 脳が反論することを諦めているような、そんな感覚に襲われる。


「良いか?今のお前はもっともらしい事を宣い、いじけるだけの童だ。何も出来ないと卑下し続け、そうする事で自分を守っている」


 言葉はまだ出てこない。


「ならば、何も出来ないと思っているならば、せめてあの男の誘いに乗ればよかろう。そうしなければお前は何も変わらない」


 誘いに乗る、ユウリと共に旅に出ろという事。


「だが、それをするにはエルと話さなければいけない。それは俺には・・」

「だから、それも込みで誘いに乗れと言ってるのだ!なぜ分からん!」


 今まで見た事ないほど、コユキは怒りを露わにする。


「話せばよかろう?お前も心の中では話したいと思っているのではないのか?」


 その言葉に、鼓動が強まった。


 エルが傷を負ったと聞いた時、我先にと駆けつけた。容体を確かめたくて必死だった。


 そしてユウリから話を聞いた時、その時と同じ感情を覚えた。


「俺は、エルと話していいのか」

「誰も咎めてなどおらん」

「俺は自分でエルと関わらないと決めたのに、いいのか」

「それを決めるのは話してからでも遅くない」


 胸の内に秘めた戸惑いの結晶が崩れる。

 ようやくユウリと、コユキの言葉がすとんと腑に落ちた。


* * * * *


 エルは家に戻っているとの事だった。

 ユウリに誘われた日から二日後、俺はエルの家の前を訪れた。


 コユキは王都で留守番をしている。

 コユキは、行くなら俺一人で行け、と言って聞かなかった。


 よって来ているのは俺一人。

 そんな俺は家の中に入るのを躊躇っていた。


 ここにきて、まだ迷いが残っている。


 俺は怖いんだ。

 エルと話をして拒絶されることを恐れてる。

 俺がエルと関わるのを辞めようとしたのは、そのためなのかもしれない。

 そう思うと、我ながら情けない限りだ。


 深呼吸をして、心を決める。

 そして扉を開いた。


「エル!」


 入ってすぐにある居間。

 そこには誰の姿も見えない。

 エルどころか、ダグラスとスミシーすらも居なかった。


 そのことを確認すると、俺は階段を上った。


「エル、居るか?」

「うわっ!」


 階段を上りながら呼びかけると、二階の一室から驚いたような声と共に何かが落ちる音がした。

 エルの部屋だ。


 エルの部屋の前に立った俺は、心を落ち着かせて問いかけた。


「入るぞ」


 言いながら扉を開く。

 そこには椅子に座ったエルがいた。


「アル、来たんだ」


 恥ずかしそうに、同時に嬉しそうに笑みを浮かべる彼女の片足は、やはり無い。


 それを見て、俺の中で何かが弾けた。

 出来るだけ平静を保とうとしていたのを忘れて、俺はエルの前に両膝をついた。


「エル、ごめん」

「アル?」

「俺、エルを守れなかった。こんな体に、二度と立てない体にした。俺のせいだ」


 神父の前で懺悔するように、自らの後悔を吐露する。意図しないまま、ただ吐き出し続けた。


 そんな俺にエルは、


「アル、大丈夫。大丈夫だから」


 暖かい言葉を投げかけた。


「エル・・・」

「アルがあたしを守ろうとしてくれたのは嬉しいよ?でもね」


 エルは俺の頭に手を置き、言葉を続けた。


「あたしもアルを守りたかったの」


 その言葉に、気づいた。いや気付かされた。俺自身でも知り得なかった想いに。


「あたしは確かにこんなになっちゃったけど。でもアルは無事だよね。ならあたしは満足だよ」


 満面の笑みを浮かべるエル。

 俺はエルの膝に顔をうずめ、涙を流した。

 みっともなく泣き続ける俺の頭を、エルは優しく撫でた。


* * * * *


「なあ、エル」


 陽光降り注ぐ家の庭。

 俺の傍には、外に運んできた椅子に座るエル。

 俺は話しかける。


「なに?アル」


 首を傾げながら、エルは俺の顔を覗き込む。


「俺、旅に出る」

「どうして?」

「強くなりたい。いろんなものを守れるように」

「そうなんだ」

「あとさ」


 その続きを、意を決して口にする。


「俺、エルのことが好きだ」


 返事はすぐに返って来た。


「うん、あたしも」

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