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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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条件

「お前とここに来るのも久しぶりだな」


 俺の前に座るユウリは、軽い口調でそう言った。


 俺は今いつぞやユウリに紹介された酒場に来ていた。

 三十分ほど前、ユウリは宿屋の一室で塞ぎ込んでいたいた俺の元を訪ねてきた。


「さっき外を歩いてたら、お前が連れてる女の子に会ってさ、その子にお前がどこにいるか聞いたんだよ」


 どうやらコユキから俺の居場所を聞いたらしい。

 そうして現れたユウリに、俺は半ば強引に外に連れ出された。


 王都の街は、相も変わらず祝福ムードで、道行く人は押し寄せる波のようにとめどなく、酒場には昼から飲んだくれてる者達が大勢いた。


 その活気は、俺にとって刺さるように痛かった。

 俺はこんなにも苦しい思いをしてるというのに、そんなことは知る由も無く騒いでいる。そんな思いが喉からせり上がってくる。

 だからといって人々に対し無差別な怒りを覚えるわけでなく、ただただ自分が惨めに思えるだけだった。


「しかし驚いた。お前が戦争に出向いてたなんてな」


 誰から聞いたのか、ユウリは俺が戦争に参加していたことを知っていた。

 多分、俺の気分が沈んでいることも、それが戦争に起因することも承知しているだろう。


 ならばどうして、こんなにも無遠慮に踏み込んでくるのか。

 そう思うと、ユウリに対する苛立ちが込み上げてきた。


「お前が居れば、もっと簡単に終わったんだろうな」


 さえずるような声で、俺は毒づいた。


「ん?何か言ったか?」


 しかし俺の言葉はユウリの耳には届かなかったようで、聞き返される。

 その態度は俺を更に苛立たせた。


「お前が居ればもっと被害は少なく済んだって言ったんだよ!」


 思わず俺は立ち上がり、声を張り上げた。

 その瞬間、酒場の客や店員から視線が集まるも、やがてすぐに賑わい始めた。


「俺はいろんな都市のお偉いさんに、神都の勇者として名が通ってるからな。別に神都の味方ってわけでもないんだが、他の都市に肩入れするのも避けてるんだ」


 ユウリの余裕ある返答に、俺は全身から力が抜けたように、椅子に腰を下ろした。


「なあアルマ、教えてくれ。何があった?」

「教えたところで・・・」

「知らないままじゃ、俺はお前に何も出来ない。だから教えてくれ」


 その真っ直ぐな言葉は、今の自分をより惨めに感じさせた。

 そしてこれ以上惨めになるまいと、俺は自らの悪事を白状するかのようにゆっくりと話し始めた。


「クレシオ、騎士団の副団長か。それなら俺も会ったことがある。それがまさか・・・」


 それが俺の話を一通り聞き終えた後のユウリの第一声だった。


「それで、お前は幼馴染を傷つけたから気を落としてたのか」


 俺は頷いた。


「なら、俺についてこないか?」

「は?」


 あまりに突然な提案に、意図せず素っ頓狂な声が漏れた。


「色んなところを回ってみれば気分も変わるってもんだ」

「そんな簡単な話じゃ」

「だからと言って、いつまでも引きこもってるわけにはいかないだろ」


 正論に言葉が詰まった。


「よし!じゃ決定な」


 強制的にユウリに同伴することが決まってしまった。

 あまりに強引な為、反射的に言い訳が口を継いで出た。


「いや、俺まだエルに会ってないし」


 しかし、それ以上言い訳は続かなかった。


 そうだ。俺はもうエルに関わらないと決めたじゃないか。


 それを思い出すと、ユウリの誘いに乗ることもやぶさかではないと思えてきた。


「いや何でもない。お前についてくよ」


 前言を撤回し、俺は前向きな返答をした。

 というのに、先ほどとは打って変わって、ユウリの顔は険しいものとなっていた。


 不思議に思っていると、ユウリの口がゆっくりと開いた。


「お前、その子に会ってないのか?」

「あ、ああ」

「じゃあ、話もしてないんだな」


 その言葉に頷くと、ユウリは大きくため息を吐いた。


「何でだ?」

「何でって・・・」

「言え」

「エルをあんな目に合わせておいて、どんな顔して会えばいいんだよ」


 すると今度は机に手を叩きつけた。


「どんな顔して、だ?偉そうなこと言ってんじゃねえ」


 怒りのこもったその声に、俺は再び苛立ちを覚えた。


「偉そうなんかじゃねえ!エルは俺と関わらない方が幸せなんだ!」


 エルは俺が守れなかったから、片足を失くした。二度と立つことができなくなった。

 全部俺のせいだ。俺さえ居なければエルはこれ以上不幸にならなくて済む。


 しかし、俺の言葉はユウリの怒りをより強くさせるだけだった。


「それを偉そうって言ってんだ!」


 怒りの衝突の後、数秒の間、静寂が続いた。

 その静寂を壊したのはユウリの方だった。


「幸せかどうかなんてのはお前が決めることじゃない。そんなのは直接話してみなきゃ分からねえ」


 あまりの気迫に、俺は言葉を失った。目の前にいるのが、ユウリとは別人の誰かと思うほどだった。


「お前がこれからその子と関わり続けるにしろ、そうで無いにしろ、その子のこれからにお前との会話は不可欠だ。感謝されるなら感謝されろ、蔑まれるなら蔑まれろ。それがお前の責任だ」


 俺がエルと話すまで、同伴はさせない。


 それがユウリから言い渡された条件だった。

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