資格
「師団長のお知り合いですか?」
それは俺に向けられた言葉だった。
声の主は、気弱そうな男だった。装いから見るに戦闘員では無さそうだ。察するに衛生兵のような役割だろうか。
それが分かった途端、俺は質問した。
「なあ、エルはどうしてこうなった?」
男は少したじろいだ後、おずおずと答えた。
「どうやら敵軍が持っていた爆弾が地面に埋められてたみたいで、そのせいで・・・」
「治せないのか?」
「えっと、その・・・」
「治せないのかよ!?治癒魔法があれば治せるんじゃねえのか!?」
煮え切らない男に、俺は痺れを切らして声を荒げた。
「で、でも、僕は治癒魔法は使えなくて・・・」
「だったら連れてこい!!」
「おい」
コユキが俺を制止するかのように声を掛けるが、今の俺にはその声に従うほど冷静ではない。
「早くしろ!!」
「アルマ!」
変わらず声を荒げる俺に、コユキは今までになく大きな声で呼びかけた。
苛立ちながらも、俺は男からコユキの方に視線を向けた。
しかしコユキの視線は俺ではなく、エルの脚を見ていた。
「エルリアルの脚をよく見ろ」
もう一度、エルの足を見る。
見返しても、そこにある現実が変わるはずもなく、膝から下は丸みを帯び、あったはずの足は無くなっていた。
それを確認するたび、俺の中で暗い何かが渦巻いた。
「傷が塞がっている。おそらく足を失った直後、自分で治癒魔法をかけた。その後、気絶したのだろう」
「・・・」
「まだ気づかんか。治癒魔法なぞかけても、足が生えてくることは無いという事だ」
天地がひっくり返ったような感覚だった。
突き付けられた新たな事実を前に、俺は訳が分からなくなった。
いや、仮に俺が冷静だったらすぐ気づいていたはずだ。
もしくは気づいていたのに、目を背けていたのかもしれない。自分の思い通りにならない事に、駄々をこねる子供のように。
「エルの足は治らない・・・」
「負った傷を直す事はできても、失ったものを取り戻す事はできない。魔法は万能ではないということだ」
「そんな・・・」
ダグラスとスミシーにエルを守ると言って、戦場に出向いた。それがこのざま。
これから俺は、ダグラスや、スミシー、何よりエルに、どんな顔して関わればいい。
いや、そうじゃない。
バルゴやクレシオに続いて、エルまでこんな目にあった。
俺が関わったからこんな事になった。
俺には、エル達に関わる資格なんてないんだ。
それから二日して、王都軍は戦場を離れた。その二日の間にエルの意識は回復したらしいが、俺は一度も顔を見せてない。
そこからさらに一ヶ月半、王都に帰投した兵士達に人々は歓声をあげた。戦争は王都の勝利に終わり、しばらくの間、街は一段と活気に溢れていた。建都祭と同じか、それ以上の盛り上がりだった。
その賑わいを、俺は宿の暗い部屋の中で聞いていた。
どん底まで沈んだ気分を引きずったまま、街に繰り出そうとは、到底思えなかった。
俺がそうしてから何日かが経過した頃、俺の元に客人が来た。
「アルマ!いるか?」
部屋の外で俺を呼ぶ声は、ユウリの声だった。