代償
「ハッ!」
声と共に剣を振り抜くと、足元に死体が一つ増える。
もう一度振えば、もう一つ増える。
団長達と別れてどれくらい経ったのだろう。
アルマさんは無事なのだろうか。
僕たち囮部隊の消耗はかなり厳しい。
今は何とか堪えているけれど、時間が経てば僕たちは確実に敗北する。
とはいえ、僕たちに出来る事はここで戦い続ける事だけ。
団長達が勝敗を決するのを待つしかない。
「気をつけろ!!来るぞ!!」
突然、誰かが叫んだ。
その声を聞いた王都軍の者たちは、その呼びかけが帝都軍の銃撃に対するものだと理解した。
声と同時に、前方に氷の障壁が現れた。
「そこまでだ!!」
しかし、銃声が鳴り響く事は無く、代わりに野太い声が戦場に轟いた。
「帝都軍の将は我ら王都軍が討ち取った!!」
団長は敵将の首を天に掲げた。
その様を見て、帝都軍は嘆き、王都軍は歓喜の渦に飲まれた。
「やった・・・」
僕も静かに喜びを口にした。
* * * * *
「アルマさん!」
俺の名前を呼んだノアが、遠くから駆けつけてくる。
戦争が終結し、俺たち王都軍は拠点に戻ってきた。
ツキを倒した後、俺とギルダは敵将を討ち取った。帝都軍の将は生死の瀬戸際に惨めにも命乞いをしていた。その様子は、この戦争の最後にしてはあまりに呆気なかった。
「アルマさん。団長と副団長はどちらに?」
「ギルダは・・・」
ツキに肩を貫かれたギルダは、毒が回る前に自ら腕を切り落とした。拠点に戻った今、彼は治療を受けている。重症ではあるが、命に別状はないらしい。
ノアにその旨を伝えた後、クレシオの事を伝えた。
クレシオはツキとの戦闘で命を落とした。だが、確かに彼の死はこの戦争を勝利に導いた。
その事実にノアは憔悴したように見えた。
「ノア、エルとコユキはどこにいる?」
そんなノアに二人の居場所を聞いた。
拠点に戻ってから二人の姿を見ていない。たったそれだけのことだが、クレシオが死んだ事もあり、妙な胸騒ぎがあった。
「ここにおるぞ。無事だったか、アルマ」
ノアが答えるのを待っていると、背後から声がした。
振り向くと、そこにはコユキがいた。
しかし何故だろう。コユキの口調は普段となんら変わらないはずなのに、言葉の裏にはどこか陰りを感じた。
「すみません、アルマさん。僕、ちょっと頭を冷やしてきます」
ノアはそう言って、俺の元を離れた。クレシオの死に相当衝撃を受けたのだろう。
ノアの背中を見届けた後、俺はコユキに向き直り、問いかけた。
「なあ、エルはどこだ?」
俺の質問にコユキは言葉を詰まらせた。
俺の中で焦りが生まれて、増していく。
「コユキ、なあ?エルはどこにいるんだ?」
「・・・着いてこい」
それだけ言って、コユキは歩き始めた。
コユキの小さな背中を追って、俺も歩く。
辿り着いたのは一つの天幕。
中を覗くと、数人の負傷兵が横たわっていた。
そのうちの一つに見知った顔。
エルがいた。
焦りは脈を早め、呼吸を急かす。
息を乱しながら、容態を確認する為、彼女の元へと歩み寄る。
足取りは不安定に、近いはずの彼女との距離が遠く感じる。一歩踏み出す度、重力が増していくかのようだった。
ようやく彼女の元へ辿り着いた時、俺の中の焦りは絶望に変わった。
エルの左脚、その膝から下が無くなっている。
その現実に俺は言葉を失った。