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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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代償

「ハッ!」


 声と共に剣を振り抜くと、足元に死体が一つ増える。

 もう一度振えば、もう一つ増える。


 団長達と別れてどれくらい経ったのだろう。

 アルマさんは無事なのだろうか。


 僕たち囮部隊の消耗はかなり厳しい。

 今は何とか堪えているけれど、時間が経てば僕たちは確実に敗北する。


 とはいえ、僕たちに出来る事はここで戦い続ける事だけ。

 団長達が勝敗を決するのを待つしかない。


「気をつけろ!!来るぞ!!」


 突然、誰かが叫んだ。

 その声を聞いた王都軍の者たちは、その呼びかけが帝都軍の銃撃に対するものだと理解した。


 声と同時に、前方に氷の障壁が現れた。


「そこまでだ!!」


 しかし、銃声が鳴り響く事は無く、代わりに野太い声が戦場に轟いた。


「帝都軍の将は我ら王都軍が討ち取った!!」


 団長は敵将の首を天に掲げた。

 その様を見て、帝都軍は嘆き、王都軍は歓喜の渦に飲まれた。


「やった・・・」


 僕も静かに喜びを口にした。


* * * * *


「アルマさん!」


 俺の名前を呼んだノアが、遠くから駆けつけてくる。


 戦争が終結し、俺たち王都軍は拠点に戻ってきた。

 ツキを倒した後、俺とギルダは敵将を討ち取った。帝都軍の将は生死の瀬戸際に惨めにも命乞いをしていた。その様子は、この戦争の最後にしてはあまりに呆気なかった。


「アルマさん。団長と副団長はどちらに?」

「ギルダは・・・」


 ツキに肩を貫かれたギルダは、毒が回る前に自ら腕を切り落とした。拠点に戻った今、彼は治療を受けている。重症ではあるが、命に別状はないらしい。


 ノアにその旨を伝えた後、クレシオの事を伝えた。

 クレシオはツキとの戦闘で命を落とした。だが、確かに彼の死はこの戦争を勝利に導いた。

 その事実にノアは憔悴したように見えた。


「ノア、エルとコユキはどこにいる?」


 そんなノアに二人の居場所を聞いた。

 拠点に戻ってから二人の姿を見ていない。たったそれだけのことだが、クレシオが死んだ事もあり、妙な胸騒ぎがあった。


「ここにおるぞ。無事だったか、アルマ」


 ノアが答えるのを待っていると、背後から声がした。

 振り向くと、そこにはコユキがいた。

 しかし何故だろう。コユキの口調は普段となんら変わらないはずなのに、言葉の裏にはどこか陰りを感じた。


「すみません、アルマさん。僕、ちょっと頭を冷やしてきます」


 ノアはそう言って、俺の元を離れた。クレシオの死に相当衝撃を受けたのだろう。


 ノアの背中を見届けた後、俺はコユキに向き直り、問いかけた。


「なあ、エルはどこだ?」


 俺の質問にコユキは言葉を詰まらせた。

 俺の中で焦りが生まれて、増していく。


「コユキ、なあ?エルはどこにいるんだ?」

「・・・着いてこい」


 それだけ言って、コユキは歩き始めた。

 コユキの小さな背中を追って、俺も歩く。


 辿り着いたのは一つの天幕。

 中を覗くと、数人の負傷兵が横たわっていた。

 そのうちの一つに見知った顔。

 エルがいた。


 焦りは脈を早め、呼吸を急かす。

 息を乱しながら、容態を確認する為、彼女の元へと歩み寄る。

 足取りは不安定に、近いはずの彼女との距離が遠く感じる。一歩踏み出す度、重力が増していくかのようだった。


 ようやく彼女の元へ辿り着いた時、俺の中の焦りは絶望に変わった。



 エルの左脚、その膝から下が無くなっている。



 その現実に俺は言葉を失った。

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