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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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最終決戦

「あぁ・・・あ、あ・・・・・!」


 ツキの口からそんな呻き声が聞こえる。


 何が起きた?


 それは目の前で起きた不可解な出来事に対して抱いた疑問。

 ツキがクレシオの腹を突き刺したかと思えば、クレシオは何か策があるかのようにツキの胸に手を当てた。かと思えば、クレシオはそのまま倒れてしまった。クレシオは倒れたまま一向に動く気配を見せない。


 クレシオは死んだのだ。


 俺の目にはクレシオが腹を刺され、そのまま無力に殺されたように見えた。クレシオの死に際の策は失敗に終わったと思えた。最後に見せた達成感と諦めを含んだ微笑みは、俺にクレシオの死を実感させた。


 だが、どうしてかツキの様子がおかしい。

 悶えるように頭を抱え、足取りも不自由。ツキの荒い息遣いと同時に口から漏れる喘ぎは、今にも発狂するのではないかと感じさせるほどだ。


 俺の脳みそは何が起こったのかは理解できていない。

 だが、直感はこれが好機であることを認識している。


 今、奴にむけて踏み込めば一矢報いることは容易い。圧倒的強者として、この場に君臨していた奴に一太刀浴びせる事ができる。

 

 しかし身体は動かない。

 剣を握る手に、地を踏み締める足に、クレシオの死が重くのしかかっている。


 クレシオが刺されるのを防げなかったのか。

 刺された後、クレシオの言葉に背いてでも助けに入るべきだったのではないか。


 なすべき事は目の前にあるというのに、どうしようもない後悔が足止めする。


「クレ、シオ・・・。・・・・ちがう。俺はツキだ・・・!ツキ・センドレェだ・・・!」


 未だツキは錯乱状態にある。


 それを見て、重い手足に動けと脳が指示を出す。

 それでも体は動かない。

 何度も動けと指示を出す。

 何度も、何度も、何度も。


 同時に、脳裏にクレシオの言葉が浮かぶ。


 とどめは君に任せる。


 彼が死に際に放った一言。

 その短い言葉が、脳天を貫いて全身に駆け巡り、そして俺の背中を押した。


 地面を蹴飛ばす。

 ツキと肉薄。

 速度をそのままに、ツキに切り掛かった。


 しかし、その殺意はツキを仕留めるに至らなかった。


 甲高い金属音が鳴り響き、鍔迫り合いの向こうで、瞳孔を見開いたツキの目が睨みを覗かせる。


 遅かった。相手に時間を与えすぎた。


 心の中でそんな弱音を吐いてしまった。


「お前は・・アルマ・・・・アルマ・エンブリット!」

「何故俺の名前を・・!?」


 ツキの気迫はやがて力へ変わり、俺の剣を弾いた。

 俺の僅かな隙を逃さず、今度はツキが攻勢に出る。

 向かいくる剣先を、すんでのところでどうにか弾く。

 互いに弾き、隙をつき、弾き、また隙をつく。


 その応酬は互角、もしくはツキが僅かに優勢。

 しかし数分前までの圧倒的な実力差は感じない。

 その事実に、俺も負けじと応戦する。


 剣戟はより苛烈に、剣同士が衝突する音は加速していく。


 やがてそれは俺が追いつける速度の限界を超えた。

 それでも尚、留まることなく加速し続ける。


「・・・ぐっ・・あぁぁぁあああ!!!」


 既に臨界点を迎えた肉体を鼓舞するように、雄叫びを絞り出す。


 帝都の目論見を打破するため。

 後方で今も戦い続ける仲間のため。

 バルゴの死を、クレシオの死を、無駄にしないため。


 ツキの剣を弾く。

 そしてガラ空きになった胴。

 その最大の好機に、ありったけの力と技術を込めて突きを放つ。


 剣先が肉を貫く。


 


 その感触が伝わるよりも早く、攻撃は弾かれた。

 俺に訪れた最大の危機に、ツキの全力が向けられる。


「終わりだ!!」


 俺の頭上に、ツキが剣を振り下ろした。

 剣を戻そうとしたところでこの攻撃は防げない。


 ツキの言葉に目を瞑った。

 自らの最後を予感し、死んだ者たちへの謝罪を胸に抱いて、ツキの剣を待った。


 しかしいくら待っても死は訪れない。

 代わりに耳に入ったのは金属音と、人が崩れ落ちる音。


 恐る恐る目を開ける。

 視界にツキの姿は映らない。映るのは、俺の頭上から伸びる大剣の切先。


「・・・遅れて悪かった」


 その声に振り向くと、そこに居たのはギルダだった。

 ギルダの呼吸は微かに乱れ、大量の汗が滲んでいた。


「ギルダ・・・?大丈夫なのか・・・・・?」


 ツキの毒に侵されて居たのではないのか?


 俺の問いに、ギルダは不器用な笑みを見せた。

 ツキに貫かれた彼の右肩から先は、切り落とされていた。

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