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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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クレシオの決意

 クレシオ・ダズロックにとって、魂とは情報の集合体でしかなかった。


 彼は幼い頃から、数多の魔法に触れ、学んだ。

 火・水・風・光・闇の五つの属性からなる攻撃魔法はもちろんのこと、治癒魔法、罠魔法。そしてそれらを組み合わせ、応用することで使用することが可能となる魔法に至るまで、数多くの魔法を知り尽くした。こと魔法の知識量において彼の右に出る者はそう居ないだろう。

 しかし、彼には魔法の才能は無かった。彼が学んだ魔法のうち、彼が体得できた魔法の数はせいぜい二割程度と言ったところだ。それでも一般人と比べると才に溢れていると言えるのだが、彼の膨大な知識量が彼自身を苦しめた。

 自分はありとあらゆる魔法を知っている。だというのに実際に体得できた魔法の数は、そのほんの一握り。

 彼が魔法を知る度に世界の広さを知った彼は、同時に自分が世界においてちっぽけな存在であることを認識させられた。


 そんな彼だったが、絶望はしなかった。

 なぜなら彼には稀有なパッシブスキルがあった。

 魂の形を読み取り、理解する。魂から得られる情報は抽象的であり、具象的な曖昧なものだった。しかしその曖昧さには、その者の全てが詰まっていた。

 応用することで読心術や、思念による会話も可能だった。

 このスキルが彼の個性であり、彼の取柄であった。このスキルがあったからこそ、広大過ぎる世界でちっぽけ自分に嫌気がさすことはなかった。



 彼は、魔法という知識で世界を知り、スキルの力で人を知った。

 そして辿り着いた、情報こそが世界を形成する要素であるという結論に。


* * * * *


 ツキ・センドレェ。

 帝都の身分社会の最下層で生まれ、幼くして母親に捨てられた。ツキは帝都の片隅で、世界に対する咽るような憎悪を纏い、生きてきた。盗み、奪い、殴り、殺し、生きた。

 この世に生を受けて三十年が経過する頃、彼にはある二つ名が付いていた。他を寄せ付けないほど濃い憎しみと、生きるためならば悉くを理不尽なまでに殺すその様は、まさに毒。

 『毒手』の二つ名は、そんなツキの肉体に猛毒を付与した。ツキが触れたものは、生物だろうと何だろうとその毒に侵される。


 ツキの魂を読み取ったクレシオの中に、そんな情報が入り込んでくる。

 そして目の前で苦しむギルダの様子に納得した。


 ツキが手に持った剣は毒を帯びていた。そしてそれに傷つけられたギルダは、今まさにその毒に侵されている。

 であれば、ツキの前に立ち塞がるアルマも危険な状況にあると言っていい。昨日『申し子』持ちに勝利したという話を聞いたが、その時はアルマも満身創痍の状態だったらしい。傷を負わなければ勝てなかったということだ。

 一太刀でも食らえば毒に侵されるとなれば、アルマの勝ち目は皆無と言っていい。二つ名持ちの強さは、『申し子』持ちの比ではない。


 クレシオの額に汗が滲んだ。

 だが今はギルダの毒を何とかするのが先だ、と試行を切り替える。

 地面に横たわり、苦悶の表情を浮かべるギルダに視線を落とす。

 何をすべきかを導き出したクレシオは、自らのローブの端を細く切り裂き、紐を作り出した。その紐でギルダの刺された肩をきつく縛った。どれほど有効か分からないが、毒の回りを妨げるための処置だった。


「団長!大丈夫ですか!?」


 クレシオはギルダに声をかけた。

 それから数秒して、ギルダが薄く目を開いた。


「クレシオ・・・・」

「団長!後退しましょう!あなたが負けるということは王都軍の敗北と同義です!」


 臆することなくクレシオは告げた。

 後ろ向きな提案ではあるが、クレシオの発言には一理ある。そのことをギルダは理解した。

 しかし、ギルダが首を縦に振ることは無かった。


「なぜ!?」


 その問いかけにギルダは答えない。意図的に答えなかったのか、それとも答える余力が残されていないのかは定かでは無かった。


「なぜ・・・・」


 再度問いかけようとして、クレシオはギルダの意図を理解した。


 今のギルダに、退くという選択肢は無い。

 敵陣地に潜入し、目前に敵将の首があるこの状況を無駄にすることは出来ない。

 そしてギルダは、クレシオならば他の打開策を見出すことが出来ると考えていた。


 それを読み取ったクレシオは、諦めたように息を吐いた。

 ギルダのわがままに付き合うことを決めた。


「簡単に死なないでくださいね」


 そうギルダに伝え、クレシオはアルマの元へ向かった。


「私が行く」


 ツキと対峙するアルマにクレシオは言った。

 その様子を見て、ギルダは口の端を僅かに釣り上げた。

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