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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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作戦開始

「コユキ」

「アルマ。話は終わったのか」


 ギルダとの作戦会議を終えた俺は、コユキに奇襲の囮役となる大規模部隊に加わるよう話をつけた。


「そうか。分かった」


 俺の要求に、コユキは頷いた。

 もし断られでもしたら、と若干不安だったがそんな心配は無用だったらしい。


「それで、エルリアルはどっちに入るのだ?」

「コユキと同じ部隊だ」


 小規模部隊に割り振られたのは俺、ギルダ、その他近接戦闘を得意とする師団長と騎士団員数十名。総勢で百にも満たない部隊が、今回の作戦成功の鍵を握ることとなった。

 それ以外は全て大規模部隊。ノアやエルなどは囮として役割を全うすることとなった。


 俺が今回この戦争に参加したのはエルを守るためだ。

 それなのに、エルとは異なる部隊に配属された。それを悔しく思う気持ちと、直接敵軍を叩くことが出来る喜びとが混じり合い、形容しがたい感情が渦巻いていた。

 コユキを大規模部隊に加えることを提案したのは作戦の成功を考慮してのことだが、同時に自分がエルを守れない分、せめてコユキに任せたいと思ってのことだった。


「そう思いつめた顔をするな。そんな様子では足元を掬われるぞ?」

「分かってる」

「出来なくなったことを考えるな。出来ること、したいことを考えろ。戦いに意識を向け続けるためにな」


 俺が小規模部隊でしたいこと。

 そう考えて、真っ先に浮かんだのはバルゴのことだった。

 そして自然と拳に力が籠った。


「コユキ、エルを頼む」

「妾を誰だと思っておる。そっちこそ死ぬなよ?」


 そして、奇襲作戦は開始された。


* * * * *


 今朝、帝都軍の奇襲に遭った。

 王都軍は大幅に戦力削られて、アルは最近仲が良かった友達を亡くした。

 昨日は王都軍が優勢だったけれど、奇襲を受けたおかげで戦力は再び五分の状態に戻った。

 もしかしたら五分どころか佳境に立たされているかもしれない。王都軍の士気は明らかに低下していた。

 でもやられてばっかりじゃいられない。敵は死霊術を使って攻めてきた。禁忌に手を染めた帝都軍を見過ごすわけにはいかない。


 奇襲作戦開始直前。

 団長から言葉があった。


「我ら王都軍は試されている!手痛い奇襲を受け、戦力は低下した。士気が下がるのも頷ける。だが帝都は堕落した!禁忌に触れ、誇り高き兵士の死を軽んじた!なればこそ勝たなけらばならない!戦士よ奮起しろ!堕ちた帝都に目にもの見せてやろうではないか!正義は我らに在り!!」


 その言葉は、団員の士気がこれ以上低下するのを防いだ。

 しかしそれでは足りない。

 特に大規模部隊に振り分けられた者の中には、自らが囮役であることに納得がいっていない者もいた。

 そんな中、意外な人物が壇上に上がった。

 アルだった。


 アルは『申し子』持ちで無いながら、『申し子』持ちを打ち倒した者として昨日から話題になっていた。

 アルの姿を見た団員達が、僅かに騒がしくなった。

 騒然とした場を意に介さず、アルは口を開いた。


「俺は志願兵だ。そして今朝、志願兵になって出来た友人を失った。だが俺が特別悲惨だとは言わない。同じように今朝、もしくは昨日、親しい者を亡くした者がいるはずだ。その無念をどうか俺たちに預けてくれ。必ず報いてみせる」


 騒がしかったのが一転、静まり返った。

 アルの言葉に反応する人はいなかった。けれどアルの言葉は、一人一人の胸に闘志を宿した。


 そして進軍が開始した。

 大規模部隊はその足で進軍し、小規模部隊は馬に乗って進んだ。

 二つの部隊は、敵陣に踏み入るまで一緒に進軍していた。


 思えば事の始まりは、騎士団の洗脳だった。

 アル達のおかげで騎士団の洗脳は解けたけど、洗脳した張本人が死霊術師とつながりがあったことが判明した。

 その死霊術師も、アル達のおかげで成敗することが出来た。

 でも良いことばかりじゃなかった。何かを成し遂げる度、アルは辛い思いをしていた。どんな辛いことがあったのか、詳細なことは分からない。でも顔を合わせる度に、瞳の奥の陰りが増していた。

 そして今。またアルの手に運命が掛かっている。アルが何かを成し遂げるために辛い思いをするというなら、既にアルは友達を亡くした。もう辛い思いは経験してる。

 バルゴ君の死を喜ぶわけじゃない。ただ、アルは成し遂げてくれると思った。


 そして部隊が別れる直前、アルがあたしのところにやってきた。


「エル、死なないでく・・・」

「アル、待って。言わないで」


 あたしはアルの言葉を遮った。

 だって死なないで、なんて言われたらむしろ悪いことが起きそうだったから。

 だからあたしはアルに死なないでなんて言わない。

 代わりに、普通のことを言うだけ。


「いってらっしゃい」

「・・・・行ってくる」


 短いやりとりを終えて、小規模部隊は迂回を始めた。

 それと同時に大規模部隊もまた、行動を始めた。


 まずは敵に見つかって、警戒されて、気をひかないと。

 じゃないと囮にならないもんね。


「『ボウラマギア』!!」


 火の超級魔法『ボウラマギア』。

 あたしが唱えると、空から一筋の光が降りてきて、そして巨大な爆発が起こった。

 大規模部隊は咆哮と共に進軍した。


 しばらくして、帝都軍から破裂音が聞こえた。

 銃が銃弾を放つ音、銃声だ。

 前衛が帝都軍と接触する前に、帝都軍は迎撃準備を終わらせたらしい。最前線にはコユキちゃんの氷の壁が出現した。

 しかし前衛の方で爆発が起こった。おそらく、アルが言ってた爆弾だ。

 後衛は氷の壁の向こうの帝都軍に魔法を放ち続けた。


 奇襲作戦は始まったばかり。

 アルの無事を願いながら、ひたすら魔法を詠唱し続けた。

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