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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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「なあ、エル。ちょっといいか」


 エルから足の治療をしてもらった後、俺は銃について話そうとした。

 この世界の住人にとって、銃とは馴染みの無い武器だ。詳しいことを教えることは出来なくとも、銃という武器がいかにして人に傷を負わせるかを頭に入れておけば、少なくとも戦場で混乱状態に陥ることは無いだろう。


「帝都が使ってた武器のことなんだが・・・」

「待って」


 続きの言葉を口にしようとした俺を、エルは止めた。


「ちょっと来てくれる?」


 俺は彼女に連れられて一つの天幕まで案内された。


 そこはギルダやクレシオなど、騎士団の師団長クラスが集まり作戦を立案する場所。

 そんな選ばれた者しか入ることができない場所に、俺は連れてこられた。


「アルは帝都軍が使ってた武器のこと、知ってるんだよね?」

「ああ」

「その情報、作戦を立てるのに役立つはずだから」


 確かに俺がエルに情報を伝えて、言伝でギルダに伝えるよりも、直接伝えた方が早いか。そもそも今は悠長にしている暇はない。一分一秒がものを言う戦場だ。時間を無駄にしてはいられない。


「分かった」


 中に入ると、そこにはギルダとクレシオをはじめとした師団長たちが揃い踏みしていた。


「アルマ君、無事だったか」

「クレシオ、それにギルダも大事無さそうだな」


 クレシオやギルダは、騎士団の中でも指折りの実力者だ。こいつらの身を案じるなんてのは、いらぬ心配だろう。まして、ギルダが倒されたとあっては、その時点で王都軍の敗北となる。

 それでも何が起こるか分からない戦場で、誰かを心配せずに居られる者などいないだろう。


「で、エルリアル。アルマを連れてきたことには、意図があるんだろう?」

「アルは敵軍が使用した未知の武器について情報を持っています」

「伝えられることは少ないかもしれない。でも知らないよりはマシだと思う」


 エルと俺の言葉に、ギルダは深く頷いた。


「いいだろう、では話してくれ」


 それから、俺は銃についての情報を伝えた。

 銃以外にも死霊術のこと、そして爆弾のことも。


「ヘイリム平野では視界を遮るものが無い。この場では、銃の独壇場だな」

「加えて、死霊術も使ってくる。禁忌に手を出すなど、帝都も落ちぶれたな」


 思った以上に、アンデッドと銃の相性は良いらしい。

 ギルダの言うようにヘイリム平野には視界を遮る障害物はない。しかし、戦いの場では障害物が増える。それは味方だ。

 しかし、帝都軍はアンデッドとなった味方ごと敵を撃ち抜いていた。先ほどの奇襲では、味方を撃つことに一切の躊躇が無いように見えた。

 味方に銃弾が当たることを避ける必要が無い。それは狙撃手にとって大きなアドバンテージとなるだろう。実質、敵の狙撃手にとって障害物は無いということになるのだから。


「なら、奇襲に出るか」


 ギルダの言葉に、俺は驚いた。


「どうした、アルマ。奇襲が意外か?」

「昨日の撤退には、王都側の戦力が無暗に削られるのを防ぐっていう意図があったんだろ?ここでの奇襲は、その意図とは反するんじゃないか?」

「それは相手の戦力を削ることが出来た、という仮定があって下した判断だ。だが、相手が死霊術を使ってくるのでは話は別だ」


 死霊術があっては、数的有利を取るのは難しい。

 それどころかアンデッドが増えてしまえば、ますます銃の存在が厄介になる。


「ここで足踏みしていれば、必ず王都は追い詰められる。ここは仕掛けるしかない」

「でも、奇襲が成立するのか?」


 帝都軍は明け方を狙ってきた。その時間には王都軍には油断が芽生え始めていた。だからこそ、打って出たのだ。

 だがしかし、今の時間帯では油断などしないだろう。そんな中、はたして奇襲が有効打になるのだろうか。


「帝都軍は先ほどの奇襲で勝負を決めるつもりだった。不意を突いた攻撃とはいえ、敵陣に踏み入ったんだ。まず間違いなく勝利を収めるつもりだっただろう」


 クレシオが口を開いた。


「だが、その奇襲は失敗に終わった。そのことは既に帝都軍全体に伝わっているに違いない」

「なら、余計に相手は反撃を警戒してるんじゃないのか?」

「それはない。奇襲で勝敗を決することは出来ずとも、王都側の戦力を大幅に削ぐことが出来たんだ。帝都は確かに焦ってはいるだろうが、戦力を削がれた王都がすぐに攻めてくるとは思っていない」


 確かに、そうなれば奇襲は有効打になり得る。


「さらに言えば、次に帝都が攻めてきた場合、おそらく王都の戦力はさらに削がれる。積極的に考えても、消極的に考えても、我が軍は攻めに出るしかない」


 クレシオの言葉に、ギルダはそう付け足した。

 相手の戦力を削ることが難しい反面、王都軍の戦力は容赦なく削られる。時間が経てば、俺たちはさらなる苦境に立たされることになる。

 そう考えると、確かに攻めに出た方が良さそうだ。


「分かった。それで、どうやって奇襲を仕掛ける?」


 一連の話に納得した俺は、ギルダにそう質問した。

 その問いに、ギルダは迷いなく答えた。


 奇襲の流れはこうだ。

 最初に部隊を、小規模グループと大規模グループに分ける。

 まず、正面から帝都軍に向けて大規模グループが進軍。無論、敵はその奇襲を察知し迎撃しようとする。

 その隙を見て、小規模グループは大きく迂回。その後、敵拠点を叩く。

 奇襲作戦の中に、さらに囮を組み込んだ作戦だ。


「小規模部隊は主戦力級の人員を組み込むつもりだ。アルマ、お前もだ」

「俺でいいのか?」

「アルマ君。君は昨日、敵の主戦力を倒したらしいじゃないか。その甲斐あって、志願兵や騎士団は君を支持している。君を前へ送り出すためならば、他人員達の士気も上がるというものだ」

「とはいえ、囮とは言い換えれば捨て駒だ。相応の処罰を覚悟せねばならんな」


 ギルダはどこか哀愁漂う様子で、そう口にした。

 この作戦で、大規模部隊の方は大きな損害を受けることになるだろう。考えるまでも無く、多くが死ぬことになる。

 その責任はギルダが一人で背負うことになるのだ。


「なら、大規模部隊の方にコユキを入れよう。あいつなら氷の壁を作り出せる。大規模部隊が受ける損害を大幅に減らせるはずだ」

「しかし、いいのか?」


 俺の提案に対し、ギルダはそう言った。

 意図としては、コユキが危険に晒してもいいのか、という疑問だろう。

 ギルダはコユキの強さを知っている。あいつが銃程度では死なないことも知っているはずだ。

 だから多分、ここで聞かれているのは俺の意志だ。

 コユキを囮に使って、お前は本当にいいのかということを問われているのだ。


「大丈夫だ。それに大規模部隊が本命だと、敵に思わせた方が都合がいいだろう。そのためにも大規模部隊の方にもいくらか戦力を集めるべきだ」

「・・・・・分かった。大まかな作戦はこれでいこう」


 そして約二時間後、奇襲作戦が開始された。

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