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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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優勢劣勢

 明け方の奇襲を迎え撃つべく、朝日が心許ない中、王都軍は果敢に戦っていた。

 そして俺は、アンデッドの大群と化した帝都軍前衛の中で、最も危険と思われるレギオスと相対していた。


 帝都軍の思惑が予想通りだとするなら、今回の戦で王都軍は何が何でも勝たなくてはならないだろう。

 というのも、今回の戦いで帝都側が勝利を収めてしまえば、調子づいた帝都は他の大都市にも戦を仕掛けることになるだろう。そしてその度に、アンデッドが投入される事態になってしまう。そうなれば、一体何人の命が弄ばれることだろう。

 そんな最悪な未来は回避しなくてはならない。そのためにこの戦いでは勝たなくてはならない。


 勝つために、アンデッドとなったレギオスは俺が倒す。


 そう意気込むのは簡単だが、実際のところは簡単ではない。

 死霊術によって蘇った者が生前より力をつけていることを、俺はディールと戦った時に理解している。昨日、レギオスとの戦いで満身創痍だったのだ。今度はそれ以上の苦戦を強いられることになるだろう。死ぬことだってあり得る。


 それでも、レギオスは俺が倒す。昨日の戦闘で奴の命を奪った者として、この意思が揺るがない。


 思考を整理し、レギオスに肉薄する。

 切りかかると同時に、相手の出方を伺う。

 流すか、それとも真っ当に防御か、もしくは避けるのか。

 すると、レギオスの体が僅かに右へ傾いた。


「右か・・・!!」


 回避されると踏み、レギオスの動きに合わせて剣を振った。

 次に剣から伝わってきたのは、肉を切る感覚。

 結果、レギオスは呆気なく斬られ、地に伏した。


 自らの予想とは正反対の結果に俺は動揺した。


 アンデッドとなり、レギオスは強くなっているはずだった。自らの命を失うことも覚悟して、レギオスの前に飛び込んだ。

 仮に生前のレギオスであれば、流すにしろ防ぐにしろ躱すにしろ、すかさずカウンターを仕掛けたはずだ。しかしい目の前で起こったことは違った。

 カウンター云々の話ではない。それ以前に避けることすら敵わなかったのだ。

 これでは生前より強いどころか、むしろ弱体化している。


 そうすると、自ずと一つの推論が導かれる。

 帝都の死霊術は完璧なものではない、というもの。

 あり得ない話ではない。俺やノアが追っていた死霊術師も、実験に実験を重ねて、ようやく死霊術をものにした様子だった。それを完全に会得するには、それ相応の時間が必要になるというのは想像に難くない。


 であれば、希望が見えてくる。

 帝都の思惑を潰すこと、果てはこの戦いに勝利することも難しくないかもしれない。

 味方の様子を見たところ、苦戦しているわけでもない。現状、こちら側が優勢だ。


 王都軍の優勢はその後も続いた。

 太陽が完全に顔を出したころには、王都側には余裕が出てきた。

 やがて余裕は油断となる。俺も例外なく、この奇襲を返り討ちに出来ると思っていた。




 しかし、それは一つの音によって覆った。




 聞こえたのは、パン、という破裂音。

 俺にとって、その音は聞きなじみのない音だった。しかし、その音が銃声だということはすぐに分かった。

 敵の後衛は銃を構え、銃口を王都軍へと向けていた。

 そしてそのことに気付いたときには遅かった。次々鳴る銃声、それに続くように倒れていく味方。

 その光景を前に、俺は無意識のうちに声を張り上げた。


「バルゴ!伏せろ!!!」


 コユキは銃なんかに傷つけられるほど柔ではない。

 しかし騎士団連中や志願兵たちはそうはいかない。鉛玉を撃ち込まれたら終わりだ。

 すでに辺りは阿鼻叫喚の渦となってしまっている。

 全員無事というのは叶わなくとも、せめて近しい者たちだけでも・・・。


 しかし俺の声は意味を成さず、バルゴは既に倒れていた。


「バルゴ!」


 声と共にバルゴの元へ近寄る。

 あと三歩、あと二歩踏み出せばバルゴに辿り着く。

 そんな時、鳴り響く銃声の一つが俺の足を貫いた。


「ぐ・・・!」

「アルマ!」


 勢いよく転倒した俺を見て、コユキが声を上げた。

 コユキは俺の方へと駆け寄り、続けて声をかけ続けた。


「大丈夫か」

「コユキ!氷の障壁を張れ!すぐに!」

「分かった」


 コユキは俺の言ったとおりに氷で壁を作り出した。長さも厚みも十分。弾を防ぐには申し分ないだろう。


 それを確信し、俺は匍匐前進のような形でバルゴに近寄った。

 バルゴは苦悶の表情を浮かべ、痛みに喘いでいる。

 胸元から大量の血が滲み出していた。


「バルゴ!おい、大丈夫か!?」

「ア・・・アル、マ」

「コユキ、俺は後でいい。バルゴを後方に下げてくれ」


 バルゴの命は、まさに一刻を争う。

 今すぐにでも治癒魔法をかけなければ、手遅れとなってしまうに違いない。


「だが、妾はアルマを捨て置けん!」

「それで言うなら、俺だってバルゴを見捨てたくない!頼むコユキ!」


 コユキは数秒の間、躊躇いつつも、最後には頷いた。


 コユキのその態度に安堵した瞬間、俺たちの目の前に何かが落ちてきた。

 一見すると、ただの石のようなソレには何やら魔法陣が描かれていた。


 ソレを見た時、俺の脳裏にはある思い出が浮かんだ。


 死霊術師を追って、帝都に滞在していたあの時に俺はこの石を目にしていた。

 石の名前は魔導石。そしてその名前から呼び起こされるのは、コルナとの会話。

 コルナが俺にこの魔導石を見せてきた時、俺は魔導石を用いれば爆弾を作れるかも、と提案したのだ。その提案にコルナが乗り気だったことを今でも覚えている。


 仮に完成品が帝都軍に流れていたとしたら。

 もしくは設計図やらが帝都軍に渡っていたとしたら。


 そんな思考は後からやってきた。

 しかし今はただ、目の前の危険が爆発することに身構えることしかできない。


「まずい・・・!!」


 そう口にした時には、魔導石は既に限界まで熱を帯びていた。

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