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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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奇襲、凶弾

「敵襲!!!」


 その声が響いたのは、明け方のことだった。

 俺はベッドから飛び起き、身支度をして天幕から出た。

 その後、ギルダの指示に従い、各々決められた位置に配置された。俺の近くにはバルゴと、コユキがいた。

 大まかな作戦は、拠点から少し離れたところで帝都軍を迎え撃つ、というもの。相手は俺たちの不意を突くべく、進軍している。それを待ち構え、返り討ちにするという考えなのだろう。

 しかし拠点が近いというのは厳しい状況だ。仮に拠点を制圧された場合、王都側は敗北が決まる。そう言った側面から見ると、この敵襲は痛いところを突いたものと言える。

 だが悪いことだらけではない。拠点が近いことから、武器の補充や負傷者の治療が迅速に行うことが出来る。

 とはいえ、拠点が近いのは、やはりデメリットの方が大きいと考えられる。


 そんな後ろ向きな思考は無視して、コユキに話しかけた。


「コユキ、無事だったか」

「誰がお前を運んだと思っておる」


 それもそうだ。俺を後方まで運んだのがコユキというのはすでに聞いた話だった。

 バルゴは昨夜会ったから大事無いというのは分かっていた。エルも同様だ。

 自分と近しい関係の者たちが未だ生きているという事実は喜ばしいことだ。

 しかし、いつまでもこんな浮かれた気持ちではいられない。今まさに帝都軍がこちらに向かってきている。つい昨日死にかけた身として、一層気を張ってしまう。


「そうだ、俺の剣も回収してくれたのか?」

「うむ」

「そうか。ありがとう」


 その一言でコユキとの会話を終え、迫る戦いに向けて気を引き締める。 

 やがて、遠くにこちらへ近づいてくる集団が見えた。

 その様子を見て、俺は違和感を覚えた。いや、俺だけでなく他数名もその違和感に気付いただろう。


 帝都軍の進軍速度が異様に襲いのだ。


 まだ日が完全に上がりきっていないこの時間帯、王都軍の中には奇襲を受けずに夜を明かすことが出来ると思った者も多いだろう。だからこそ、この奇襲は戦の勝敗を決する有効打に繋がる可能性がある。

 しかし、その奇襲を敵に知られ、あまつさえ待ち伏せられるなどあってはならない。故に速さが勝負になるにもかかわらず、帝都の軍勢はゆっくりとこちらへと向かってきている。


 だが思考ばかりしていても仕方ない。敵軍は目と鼻の先。戦いはすぐ目の前だ。

 敵軍は前衛と後衛。見た限り、後衛の数が多いか。相対的に前衛が少なく見える。

 数は王都軍が多いか。しかし、数の有利にかまけて敵の前衛を叩きに行けば、後衛に囲まれてしまうなんてこともありそうだ。


 切り替えて、戦闘に集中しようとしたその時。


「・・・なあ、アルマ。あいつってよぉ」


 バルゴが俺の名前を読んだ。

 視線をバルゴに向けると、バルゴは愕然とした顔で何かを指差していた。

 その指の先に視線を移すと、そこには居るはずがない男が居た。


「お前、昨日あいつを倒したよな?」

「あ、あぁ。そうだ、あいつは俺が、確かに殺したはず・・・」


 そこに居たのは、レギオスだった。

 レギオスの風貌からは、まるで生気を感じられず、無気力に両腕をぶら下げていた。

 レギオスだけではない。他の帝都軍の前衛たちも同様に、無気力だ。


 その光景を見て、脳裏に浮かぶのはたった一つ。

 死霊術のことだった。

 そして同時に、帝都軍の思惑を感じ取った。

 今回の戦争の目的は、アンデッドの投下にあったのだ。帝都は死霊術師を黙認し、死霊術の恩恵を享受していた。全ては軍力の向上のために。

 となれば、死霊術師を殺した俺やノアに多少の怨恨もあるだろう。帝都内部で戦闘行為に及んだという事実は確かにあるのだから、死霊術師のことをうまいこと伏せておけば、戦争に発展させることも可能だろう。


 だがしかし、そんな思惑を簡単に受け止めるわけにはいかない。


 この戦争で何人も死んだ。この後も死ぬことになる。それは王都軍も帝都軍も関係ない話だ。

 俺は自分のことを善人ではないと思う。しかし、人の命を弄ぶことを黙って見過ごせるほど腐ってはいないつもりだ。

 それに何より、エルに危害が及んだ。それは許されないことだ。


「コユキ」

「ああ」


 苛立ちが怒りに変わり、込み上げる。

 そして、戦闘が始まった。


* * * * *


「オラァ!!」


 嘘みてえな経験だ。

 昨日死んだはずの奴と、なんでかもう一回戦うことになるなんて。

 アルマとコユキは何か知ってる風だったけど、聞く暇も無かったからな。とにかく今は戦うことに集中しねえといけねえ。

 でもまあ、見当がつかないわけでもねえ。死んだ奴が蘇る。そんなのは死霊術にしかできねえことだ。

 問題は、どうして帝都が死霊術を使ってんのかってことだが。そんなの、頭が悪い俺には分かるわけねえ。考えるだけ無駄だな。ただまあ、気分が良くねえってことは確かだ。


 しかし、すっかり明るくなってきた。これならさっきより戦いやすくていい。

 それにこいつら昨日より弱くなってやがる。元々死んでる奴らだからか知らねえが、好都合だ。


 昨日よりも順調に敵の数を減らしてる。昨日のデカブツも居ねえ。これなら返り討ちも余裕だぜ。


「オラ!」


 こいつら、戦果に数えてもいいのか?一応数には入れておくか。


 突然、パン、と聞きなれない音がした。

 音の出処は帝都軍の後衛部隊。

 それをバルゴが確認した時、味方があちこちで倒れ始めた。

 音は鳴りやむことなく、響き続ける。時間が経つにつれ、味方だけでなく、敵兵までもが次々に倒れていく。

 その状況に、バルゴは理解が及ばなかった。


「おい、何だ!?」

「バルゴ!!伏せろ!!!」


 アルマのその声がバルゴの耳に入った瞬間、バルゴは傷を負った。

 強烈な痛みを感じながら、バルゴはその場に倒れ込んだ。

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