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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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戦場の夜

 暗い。

 どこまでも深い闇が一面を満たしている。

 どこか冷たくて、そしてどこか懐かしい。

 過去に、俺は似たような景色を目にしたことがある。

 あれはいつのことだったか。

 前世の記憶ではない。かといって今の、アルマ・エンブリットとしての記憶ではない気がする。


 そうだ、思い出した。

 俺が転生する瞬間、こんな景色を見たことがあった。

 あの時、俺は誰かに何かを言われた気がするが・・・。

 そこまで細かくは覚えていないな。


 それにしても、なぜ俺はここに居るのだろう。

 確か、帝都との戦争に赴いた。それで敵を倒していって、そしたらレギオスと戦うことになったんだ。


 あぁ、そうか。

 俺は死んだのか。

 レギオスとの戦闘にはギリギリ勝てたが、俺も傷を負い過ぎたからな。無理はない。


 俺にしては頑張った方じゃないか?

 『申し子』持ちに勝利を収めたんだ。これ以上ない成果だろう。


 だけど何だ?

 何か忘れている気がする。


 そういえば、お父さんとお母さんに会ってないな。会いたいな。

 ここまで頑張ったんだ、きっと褒めてくれるに違いない。


 ・・・・・いや、両親は死んだ。魔物に殺されたんだ。


 そうだ、俺は魔物を殺さないといけない。

 殺して殺して殺して殺して、殺し尽くさないといけない。


 でもエルがいる。

 いや、エルは確か騎士団に入るために王都に行くんだった。


 エルが乗った馬車が遠ざかっていく。

 馬車が向かう先に広がる光が、徐々に馬車を飲み込んでいく。


 待ってくれ、まだ行かないでくれ。


 手を伸ばしても届かない。

 どれだけ走っても追いつけない。


 ならせめて、声だけでも届いてくれ・・・!


「エル!!」

「わ!何!どうしたのアル!?」


 気づけば、俺は天井に向けて手を伸ばしていた。

 

「あれ?俺死んでない?」


 天井に向けた手で、レギオスに刺された箇所に触れた。

 しかしそこに傷はない。まして穴なんて開いてなかった。


 未だ現実を把握しきれていない俺の視界に、横からエルが顔を出した。


「アル?生きてる?生きてるよね?」


 エルはその瞳に涙を湛えながら俺を見つめた。

 その心底不安そうな表情に戸惑いながらも、俺は小さく頷いた。

 するとエルはゆっくりと俺の胸部に顔をうずめてきた。


「よかったぁ~・・・」


 そんな安堵をエルは吐き出した。


 そしてエルが落ち着いたころに、俺の状態について聞いた。

 俺が今いる場所は負傷者用の天幕。簡易ベッドらしきものが並び、その一つ一つに負傷者が眠ったいる。俺もその簡易ベッドの一つを使用している。


 エルの話によると、俺はレギオスとの戦闘の後に気絶。無防備なまま戦場に晒された俺を、コユキが担いで後退、その後即座に治療を行ったという。治療と言っても治癒魔法による簡易的かつ短時間の処置だったわけだが、それでも受けた傷は問題なく塞がった。

 しかし傷が塞がった後も俺の意識が回復することは無く、そのまま眠り続けていたらしい。


「途中で帝都軍が撤退したんだ。多分、コユキちゃんとアルが倒した相手が主戦力のひとつだったんだろうね」


 王都軍は帝都軍が撤退したのを前に、判断を迫られた。このまま戦闘を続けるか、こちらも撤退するかの二択だ。

 その中で騎士団、もといギルダが出した結論は撤退だった。


 理由としてはこちら側の消耗が激しかったこと。コユキが倒したあの化け物が好き勝手暴れまわったこともあり、負傷した者達が多かったためだ。

 そしてもう一つの理由としては、それ以上に帝都軍の戦力は十分すぎるほどに削れていることだ。王都軍は俺やコユキ、そしてそれ以外の場所でも帝都の戦力を削ぐことが出来ていた。

 故に、無理に深追いして無暗に負傷者を出すことも無いと考えたのだ。


 この判断が正しいのかどうか。それを見極めることは出来ない。これまでに戦争に参加した経験が無いのは言うまでも無く、戦争を一般人として経験したことも無いのだ。俺にはこの判断が正しいと思うと同時に、どこか致命的な判断だったのではないかとも思う。

 ただ漠然と、あらゆる戦争はこういった判断の積み重ねで勝敗が決まるのだろう、とひしひしと感じていた。


「そうだ、志願兵たちはどうなったんだ?」


 ここ数日の短い付き合いとはいえ、二週間の間同じ屋根の下で生活した奴らだ。そんな彼らの安否が心配になった。


「半分くらい・・・かな」

「そうか・・・」


 俺が戦っているうちはまだ生き残りはいたはずだ。

 だとすると、俺が気を失ってから多くの志願兵がやられたということだろう。


 全ての志願兵と深い関係にあったわけではないが、それでも胸中には悲しいという感情が生まれた。


「・・・待て。じゃあバルゴ!バルゴは!?」

「失礼しまー・・・ってエルリアル様!?そんでアルマ!目ぇ覚ましたのか!!」


 ふとバルゴのことが頭に浮かび、エルに生死を問おうとしたその時。

 バルゴが姿を現した。


「おいおい、大丈夫だったのかよ?あ、エルリアル様、こいつは俺が見ときますんでご安心ください」

「え、でも・・・」


 エルが俺の方にゆっくりと視線を向けた。


「俺は大丈夫」

「なら、お願い。バルゴ君」


 エルの一言にバルゴは硬直した。

 そんなバルゴを気にすることなく、エルは天幕から出ていった。


「おい、バルゴ」

「は!悪い、ちょっと嬉しすぎてよ」

「で、何の用だ」

「心配で見に来てやったんだよ。それとも何か、特に用事が無かったら来ちゃいけねえのかよ」

「そういうわけじゃないが・・・」


 バルゴはその場にしゃがみ込み、俺を見上げた。


「こういうこと言うべきじゃねえのかも知れねえけどよ、お前なら大丈夫だと思うから言っとく。他の奴らよぉ、お前を後方に下げるために死に物狂いで戦ったんだ」


 肉体が重くなるような、そんな感覚があった。

 志願兵たちが、負傷した俺を、死んでいてもおかしくないであろう俺を、後方に下げるために戦ったというのだから。


「なんで俺を・・・?」

「ボロボロになっても戦ってたお前に焚きつけられたんだろ」


 それだけの理由で俺を生かしたのか。

 そんな言葉は喉の奥にとどめた。口に出すと、死んだ志願兵たちを貶してしまう気がしたからだ。


「アルマ、簡単に死ぬんじゃねえぞ。お前の命救うのに何人も命張ったんだからよ」


 バルゴの表情は真剣だった。鋭い視線が俺にまっすぐ突き刺さった。


 まるで脅迫のようなその言葉は俺に重くのしかかる。

 思わず俺という人間にそこまでする価値があったのか、などと野暮なことを考えてしまう。

 そんな考えを飲み込んで、俺は答えた。


「ああ」


 その短くも強い決意を胸に、短い夜は明けていった。

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