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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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神たる所以

 レギオスと名乗った男は、俺の前に立ちはだかった。

 その佇まいからは、かなりの実力があることが分かる。

 加えて、帝都兵から厚い信頼を得ている。

 その証拠に、レギオスが俺の前に立った瞬間、俺を食い止めようと押し寄せる兵士の波が途絶えた。それはつまり、この男ならば俺を倒すことが出来ると、帝都の兵たちが確信しているということだ。


 だが、俺としてもこんなところで足踏みをしていられない。

 エルのためにも多くの敵を倒さなくてはならない。

 それにコユキが相対しているあの化け物。仮にコユキが窮地に陥った際、すぐにでも駆けつけられるようにしておきたい。

 そういった場合のことを考えれば、このレギオスと言う男は厄介な相手だ。


「戦う前に、一つ聞いていいか?あの化け物は何者だ?」

「あいつのことか、悪いが知らん」


 あらかじめ、コユキが戦う巨漢について聞いておこうとしたが、レギオスの返事は期待外れの言葉だった。

 いや、期待外れどころかありえない返答だった。


「知らないってなんだ。同じ帝都軍だろうが」


 単に味方の戦力を把握しきれてないだけか?

 だとしても、あんな強力な男を事前に把握していないなんてことあるのか?

 考えにくい。味方の、それも特筆すべき戦力を見過ごすなどというのは不自然だ。


「あれは帝都軍なんかじゃない。突然姿を現して、突然この戦いに参戦したんだ。俺としても、あの斧の向かう先が自分にならないことを願うばかりだ」


 俺の予想通り、レギオスは本当に知らない様子だ。

 だとしても不自然すぎる。

 この戦に一切関係のない男が加わっている。それもおそらくこの戦場において最強といえるであろう奴が。


「さて」


 と、レギオスは空気を切り替えた。

 不測の事態に戸惑う俺とは別に、レギオスは依然冷静だ。


 精神状態でハンデを負っている今、戦闘が始まってしまえば俺は即座に敗北するだろう。

 そう考え、俺は疑問を捨て置くことにした。


「君は強いからね、ここで倒しておけば全体の士気向上につながるだろう。恨まないでくれよ?」

「それは俺だってそうだ。お前は一秒でも早く倒す」


 その会話を最後に、互いが言葉を交わすことは無かった。

 次に二人の間に響いたのは剣同士が衝突する音だった。


* * * * *


「にしてもよぉ」


 デカブツがその大きな口を開いた。


「お前ってホントに母さんの腹ん中から出てきたのか?」

「何が言いたい?」


 このデカブツの考えていることは全く予想がつかん。

 ただ一つ分かるのは、ろくでもないことを言おうとしているということか。


「だからよぉ、俺は力分け与えてもらって神になった。なら、お前も同じようなもんなんじゃねえのか?お前に、親なんか、いないんじゃねえのか?なあ?」

「・・・」

「だってそうだろ!?てめえの兄貴は今どうなってんだ?文字通り負け犬ってか!?」

「口を閉じろ」


 想像通り、ろくでもないことだった。

 しかし想像以上なのは、それが妾がもっとも嫌うことだったこと。


「お前は勘違いしている。妾は両親のことなどどうでも良いのだ」


 自分は、本当に母が腹を痛めて産んだのか。

 自分は、両親に愛されていたのか。

 自分に、両親がいたのか。


 そんなことは総じて、取るに足らない些事でしかない。


 しかし。


「しかし、兄だけは違う」


 兄は居たのだ。確かに妾に兄は居る。

 妾は兄の温もりを知っている。

 兄が妾を撫でてくれたことは現実だ。


「その兄をよく知らぬものに軽々しく口にされるのは許せぬ。特にお前のような下品な者には」


 兄を汚すものは許さない。


 その思いが妾を支配していく。

 沸々と湧き上がる怒りが、心を色濃く染めていく。


「・・・はぁ、兄だなんだと。まるで人間みたいなこと言いやがる。せっかく神の力を持ってんだ、もっと自由に行こうぜ!」


 荒れ狂う感情に溺れていく中で、唯一聞き取れたのはその言葉だけだった。




 戦場に強烈な破裂音が響いた。

 一つは軽快、しかし鋭い芯のある音。

 一つは豪快、そして重く強力な音。

 相対した両者は互いの拳を、脚を衝突させ、しのぎを削り合う。


 男が斧を振るえば、少女は斧を流れるように避け、攻撃を繰り出す。

 少女が攻撃を繰り出せば、男はその身一つで受け止め、余裕の笑みを浮かべた。


 終わりが無いかのように思えたその応酬は、一つの要因が少女の目に移ったことで均衡を崩した。




 怒りの色で染め上げられた視界に、ある光景が映った。

 人間離れした、いわば神がかった動きの中、視界に偶然に入ったのはそれだった。


「・・・アルマ!?」


 アルマが見知らぬ男と闘い、そして劣勢だった。

 苦しい表情を浮かべるアルマ。

 防御に徹するのに精いっぱいという様子だった。


 偶然目に留まったその光景は、どうしてか、燃え上がった怒りを忘れさせるに値するものだった。


「よそ見かぁ!!!」


 そんな怒号が耳に入ると同時に、斧が振り下ろされる。


 ぬかった。

 そして終わった。


 そう思ったその時。


「ぐぁ!!」


 男がそんな、情けない声を上げた。

 男の、斧を握る右手から煙が上がっていた。


 何者かが、男の右手に何らかの手段で傷をつけ、そして妾が殺されるのを防いだ。

 何らかの手段、それは魔法だ。デカブツの堅牢な外皮を越えて痛みを感じさせるに足るほどの、強力な魔法だ。


 そしてその魔法を撃った者。

 それは振り返った先に居た。


「エルリアル・・・」


 振り返ると、そこにはしたり顔のエルリアルがいた。

 命を救ってやった、と言わんばかりの恩着せがましい態度だ。


 まったく、感心する。

 半神同士の戦いに、まさか横やりを入れるとは。

 まして半神に傷を負わせるとは。

 エルリアル、底知れぬ才能の持ち主よの。


「ったく、あの女つええな。お前倒したら次はあいつだな」


 そしてこのデカブツには呆れる。

 どこまで行っても戦いばかりで、やはり品が無い。


「ん?おいおい、落ち着いたのかよ。さっきの方が良かったぜ。やっぱ獣は獣らしく本能に身を任せるのが一番だなぁ?」


 先ほどまでの感情を収め、ただ立ち尽くす妾にデカブツは言った。


「お前は神であることを誇りに思っているようだな」


 そんな他愛もない言葉を投げかける。


「ああ、強さは一番大事だぜ。その点、神の力は最高だ」

「わからんな。ただ寿命が長いだけのものを、どうしてそこまで威張ろうとする」

「なら、死んであの世で理解しな!!!」


 その言葉と共に、男は突貫を仕掛けた。

 それを上に跳躍することで回避する。

 しかしそれを逃さず、男は中空にいる妾めがけ斧を振った。

 斧を防ぐため、表皮に厚い氷を纏う。

 切り裂かれることは防いだものの、とてつもない力が上空へと妾を打ち上げた。


「ハハハ!!」


 甲高い笑い声と共に、男もまた跳躍。

 地上で戦う戦士たちの遥か上、妾と男は相対した。


「これで終わりだ!!!」


 空中で、男は斧を振るった。

 その顔は勝利を確信していた。


 しかし、男の腕は動かなかった。

 腕の動きを、厚い氷の被膜が妨害していた。


「全く、地上では迂闊に魔法は使えんからのう」


 万一、味方に被害が及んではアルマが悲愴な面持ちを見せるに違いない。


 だがそれはここでは別だ。


「おいおいおい、なんだその魔力・・・」


 余裕で満ちていた男の表情は、次第に曇っていく。


「妾の神たる所以だ」


 掌を男へ向け、そして拳を握る。


「やっぱさいこ・・・・!」


 次の瞬間、男の体内で氷が爆ぜた。

 男は巨大な氷塊となり、空で砕けた。

 砕けた氷塊は、やがて魔力の粒子となり、その一瞬戦場の空を彩った。

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