表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
117/148

対敵

 肌を撫でる不快で、邪悪な空気。

 おそらくこの場で、妾しか感じ取れていないのだろう。あの大男が放つ奇怪な気迫は、人間には感じ取れないものがある。アルマはそういう部分では妙に鋭いようだが。


「ギャハハ!おいおい弱ぇな!全然足りねえぞぉ!」


 しかし、品のない奴だのう。

 あやつを食い止めるために多くの騎士団員が躍起になっているが、その分判断力が掛けておるな。

 考えなしに突っ込んでは、あの大男の持つ大斧の餌食になるのは明白であろうに。

 だが、考えなしは団員だけでなく大男のほうにも言えること。ただ力任せに斧を振り、周囲の者たちを切り裂く。

 ただの力しか能のない馬鹿か、はたまたそれを装っているのか。気は抜けんのう。


「しかし見つからねえな。白くてちっこい奴を探せって話だったけどよぉ、まさか嘘の情報流されたか?」


 なんと、これは驚いた。

 奴もまた、妾を探しておるようだ。

 その理由を聞いてみたいところだが、アルマの奴を放っておくのは避けたい。アルマは知らんうちに命の危機に陥るからのう。

 デカブツには悪いが、妾に気付いていない今のうちに奇襲を仕掛けさせてもらおうか。


 地を蹴り、前へ。狙いはデカブツ、その脳天。

 ここまで好き勝手にやってくれた礼だ。


「その命、貰うぞ」


 渾身の踵落としが、直撃する寸前。


「なんだ、いるじゃねえか」


 男は頭を、その丸太のような両腕で防御した。


 これまた驚いた。

 完全に意識の外からの一撃だったと言うのに、まさか防がれるとは思わなんだ。


「ハハッ、まだ軽いが悪くねえ。この雑魚の中じゃ一番マシだ」


 妾の渾身の蹴りが軽いか。

 あの余裕そうな笑みは心底気に食わんが、力比べではあちらに分があるか。


「まったく。聞きたいことは山ほどあるが、その下品な笑みをやめんか」

「ここは戦場だぜ?品なんてどこにもありゃしねえんだよ、ガキ。いや、今はコユキだったか」

「何故それを!?」


 どこかで会ったことがあったか?いや、すれ違ったことすらない。あんな顔には一切心覚えは無い。

 ならば、いったいどこで妾の名を知っている。


「そう怖い顔すんなよ。質問があるなら、まずは俺を満足させてみなぁ!!!」


 大男は、その巨体からは想像しえない軽快さで飛び上がった。

 

 あれはまずい!


「周りにおる者はすぐさま離れろ!!」


 その忠告が周囲の者たちの耳に入るころには、すでに手遅れだった。

 高く飛び上がった大男は、自由落下し、そして地面に勢いよく着地した。

 男が着地したことで、地面は粉砕し、強烈な衝撃波を放射状に生み出した。

 防御の体勢を取り、衝撃波に備える。

 衝撃波は皮膚に辿り着くと、肉を伝わり、骨を軋ませた。

 無意識に歯を食いしばり、目を強く瞑ってしまう。


「グッ!!!」


 これほどの痛みを味わうのは久しぶりだ。

 しかし、これでは・・・。


 と、ようやく肌を打つ衝撃が消えた。

 それに合わせ、瞑っていた目を開く。

 視界には、大男と地面を伝う大量の血。

 先ほどまで周囲にいた者たちは、どうやら悉く命を散らしたらしい。


「敵味方関係無しか!?」

「味方ぁ?この程度で死ぬ奴のことを、俺は味方とは思えねえな」


 まさに闘志の塊、狂気とも呼べる気概。

 なるほど、ただの人間ではこやつには勝てない訳だ。


 しかし不幸中の幸いと呼ぶべきか、アルマに衝撃波は届いていないらしい。


「ま、今のを耐えた褒美だ。いくつか質問してもいいぜ」


 どこまでも気に食わんやつだ。

 妾に対し、上からモノを言いおって。

 だが、戦っている者たちには悪いが、これはいい機会だ。利用しない手は無い。


「では、妾のことをどこまで知っている?」

「そこまでは知らねえ。ただ、てめえが半獣だってことは知ってんぜ?」

「半神半獣だ、間違えるでない」


 しかし、それを知っているとは予想外だった。

 妾が半神半獣であることは、そこかしこで言いふらしているわけではない。それを知っているとなると、その情報源は一体誰なのだ。


 しかしその前に、妾と対等に渡り合うこの男は何者だ。

 人間と神では圧倒的なまでの差がある。

 だがこの男と妾の間には、その圧倒的な差が無いように思える。


 これではまるで・・・。


「神だ」

「な!?」

「そう驚くなよ、顔見りゃ大体何考えてるか見当がつく。ま、正確には神の力を分けてもらった元人間ってとこだな」


 神の力を分け与える?

 出来ないことでは無いが、聞いたことが無い。そんなことを好き好んでする神がいるのか?


「・・・その力、誰から受け取った?」


 核心に迫る質問。

 それを受けて、男は不敵に笑った。


「悪性の神だ」


* * * * *


 コユキの奴、一体何を喋ってんだ。

 それにさっきの異常なほどの衝撃。あれをやったのはあの男なのか?

 本当に大丈夫なんだろうな、コユキ。


 不意によぎるそんな不安。

 しかし次の瞬間には、そんなことを考えている暇はないと頭の中を切り替える。

 そして目の前の敵に集中し、剣を振り抜く。


「フッ!」


 俺の中に生まれた不安ごと切り裂くように、全霊を賭けて剣を振った。


 手に伝わるのは肉を断つ感覚・・・ではなく金属を打つ感覚。

 刀身から柄を伝わり、ついには腕までその衝撃が届く。そして最後には手がしびれる感覚が残った。


 一度後退し、何が起きたのかを整理する。

 今の瞬間、俺の攻撃が防がれた。

 そして視界の先に居るのは、細身だが相当の実力を漂わせる茶髪の男。


「悪いな、これ以上お前に好き勝手させるわけにはいかねんだわ」

「誰だよ、お前」

「俺はレギオス。こっから先は俺の相手してもらおうか、少年」


 レギオスと名乗った茶髪の男は、剣を構えながら言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ