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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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開戦

「やりぃ!一人撃破ァ!!」

「へっ!あめえな、俺なんてもう二人やってるぜ?」


 同じ志願兵の奴らが、近くで戦果を自慢しあってやがる。

 そんな悠長なことしてる暇があったら、さっさともう一人ぶっ倒してもらいてえ。


「おいお前ら!喋ってねえで動けや!気ぃ抜いた瞬間死ぬぞ!」

「分かってるバルゴ!でもよ、今俺ら負ける気しねえんだ!」


 正直、そう思うのも分かる。

 実際、俺ら志願兵は思った以上に敵を倒せてる。


「だったらなおさら戦えよ!」

「分かったよ!」

「お前も死ぬんじゃねえぞ!」


 志願兵の馬鹿二人組は、そう言って戦闘に戻った。


「ふぅ・・・」


 くっそぉぉぉぉおお!

 俺も戦果自慢してえ!五人倒したって、自慢して回りてえ!そんでエルリアル様に褒めてもらいてえ!


 でも、それは違う。

 確かに俺たち志願兵は活躍出来てる・・・はずだ。


 アルマなんか俺らとは比べものにならねえ。

 いつだったか見せてもらった風魔法を使った移動。あれを使って敵の懐に一気に潜り込んで、一発で仕留めてる。俺が一人やる間に、あいつは三人やってる。

 それだけじゃねえ。アルマは囲まれても、切り抜けるだけの技術がある。

 やっぱあいつすげえ。


 でもそれも、騎士団の連中が厄介な奴を引き受けてるからできることだ。

 志願兵が目の前に集中できるのも、そのおかげだ。


 厄介な奴、それは中央に居る奴のことだ。

 同じ人間とは思えねえほどデカい、そんで強い。


 なんなんだよ、あのデカブツ。

 あの馬鹿でかい斧を一回振るだけで、何人持ってかれてるんだ?あの男の足元、血で真っ赤になってやがる。

 他の奴らが帝都の戦力削っても、あの化け物がいる限り、そう簡単には有利にならねえ。それどころか、むしろこっちが負けてるんじゃねえか?

 騎士団の奴らが束になっても、あいつには敵わねえ。勘だけど、アルマだって無理だ。


 正直なところ、志願兵が戦場の右側に寄せられてよかった。そう思っちまう。

 もし中央に寄せられでもしたら、みんな仲良くあの斧の錆になってるとこだった。


 でも、誰かがあいつを止めねえと、俺たちはいつか負ける。

 それだけははっきり言える。


「だけど、あいつ倒せる奴なんているのかよ・・・・っておいおいおい!」


 その時、俺は見た。

 何人も殺しまくってる、多分この戦場で一番の危険人物に真っ向から歩み寄っていく真っ白いガキの姿を。

 あいつはアルマの横にずっと引っ付いていた奴。コユキだ。


「おいおいおい、何やってんだあいつ!勝てるわけねえだろ!」


 今すぐコユキのところまで行って、連れ戻そうか。

 そんなことを考えた時だった。


「死ねぇ!!!」


 背後から忍び寄ってきた帝都の兵士が、俺の脳天めがけて剣を振り下ろそうとしていた。


 死んだ。

 そう思った時には目を瞑っていた。


 だが、何秒待っても剣は振り下ろされない。


 恐る恐る目を開けると、帝都兵は俺の足元に力なく横たわっていた。

 そしてその横には、アルマがいた。


「この移動方法はお前を助けるために習得したんじゃないんだが?」


 移動方法、風魔法を使うあれのことだろうな。

 相変わらず生意気なこと言いやがる。


「お前のガキ、大丈夫なんだろうな?」

「言っとくが、あいつはこの戦場の誰より強い。きっとあいつは勝つ」


 アルマは言い終わると、すぐに戦闘に戻った。


 俺もよそ見してる場合じゃねえ。

 今はアルマの言葉を信じるしかない。


* * * * *


 約四時間前。


 風が通り抜けた。ヘイリム平野を覆う見渡す限りの緑が、照り付ける太陽に喜んでいるかのように踊っている。

 そんな長閑なヘイリム平野には、王都騎士団によって設置された天幕が並び立っていた。あの中で、ギルダやクレシオなど、騎士団の上層部が会議を行っている。


 帝都との戦いが二時間後に迫り、これまでにない緊張感が場を支配していた。

 他ならぬ俺もその緊張感を抱えていた。そしてコユキも緊張を感じているのか、無口だった。


「コユキ、大丈夫か?」


 返事は無い。

 俺の言葉に耳を傾けてすらいない。


「のう、アルマ。嫌な予感がする」


 ようやく口を開いたかと思えば、緊張感をさらに煽るようなことを言いだした。


「それはみんな同じだ」

「そうではない。向こう、おそらく帝都の軍がいる方向。あそこには妾と似た、だが全く違う何かがおる気がする」


 指差す先には何もない。いや、遠くて見えないだけで帝都の拠点がある。

 そこにコユキが危険視する何かがいる。


「アルマ、無理だけはするな。この予感の正体が現れれば、その時は妾が倒す」


 コユキの真面目な顔つきに、俺は呆気にとられてしまった。


 しばらくして、ギルダたちが姿を現した。

 それに合わせて、今回の戦争に参加する者達が整然と並ぶ。


 ギルダは用意されたお立ち台に上がり、場にいる者達全ての視界に、その姿を映した。


「諸君、数刻で帝都との戦いが幕を上げる。承知しているな?」


 ギルダの声が、広大な草原に響く。


「我々は本来、それぞれの帰る場所があり、生きる場所があり、そして死ぬべき場所がある。だが今は、今だけは違う!この戦いこそが我々が生きる場所であり死ぬべき場所だ!」


 ギルダの言葉が、一人一人の心を奮い立たせる。

 息苦しい緊張感の中に、僅かな闘志が生まれる。


「生き延びる!それもいい!ここで死ぬ!それもいいだろう!ここに立つ勇士たち、その一挙手一投足全てが是である!全霊を賭して、民草の思いに報いるのだ!我らが王都に勝利を!!」


 生まれた小さな闘志は、一気に燃え広がり、緊張感を焼き尽くした。


 そして、戦が始まった。


* * * * *


 開戦から一時間半。


 俺は一心不乱に敵を切り伏せていた。

 何かあった時、すぐに駆けつけられるようエルとの距離を保ちながら、一人一人を確実に、迅速に倒していた。

 すでに倒した数は、両手両足では足りないだろう。だが帝都の兵士は倒せど倒せど押し寄せてくる。


 さすがにキツイ。身体的な限界はまだまだ先だが、終わりの見えない戦闘と言うのは精神が疲弊する。

 そう内心で弱音を吐く俺の隣では、涼しい顔で敵を圧倒するコユキがいた。コユキはいつもの氷魔法は使わず、その身一つで敵をなぎ倒している。倒した数も俺より格段に多いだろう。

 

 相変わらず規格外な奴だ。

 まさかというか、当然というか、肉弾戦でも強いとは。


 そんな時だった。

 俺たちとは反対側から戦場を横断するようにして、奴が姿を現した。


 無類の巨体、人間の身長を優に超える大斧。見るだけで人を殺せそうなほど凶悪な眼光と、常人を震え上がらせる凶悪な笑み。

 例えるのなら、戦いの化身というべきだろうか。


 そいつを見た瞬間、俺は直感で理解した。コユキの嫌な予感の正体とは奴なのだと。


「コユキ!」


 目の前の帝都兵を処理して、コユキに声をかける。

 俺の声に気付いたコユキはこちらに駆け寄ってきた。


「お前が言ってたの、あいつのことか?」

「・・・おそらくはそうだろうな」

「勝てるのか?」


 戦いが始まる前、コユキは言った。嫌な予感の正体が現れた時、その相手をすると。


 だが今、奴が現れて、俺の中に不安が生まれた。それはコユキが負けてしまうという不安。

 あいつは戦場を横断してきた。その間、何度も接敵したはずだ。にもかかわらずあいつの力は有り余っている。その底知れなさが、不気味に思えた。


「勝たねばなるまい。妾は行く、お前は無理をするな」


 そう言い残して、コユキはあの化け物の元へ向かった。


 コユキ一人で戦わせず、俺も付いていきたい。

 そう思う気持ちもあるが、あの化け物とやり合ったところで瞬殺されるのは目に見えている。


 この場はコユキに任せるべきだ。

 そう結論付け、俺は戦闘に戻った。

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