結団式
志願兵の調練が開始して、早くも十日が経過した今日。騎士団による結団式なるものが開かれるということになった。結団式には騎士団以外にも、志願兵が出席しなければならないらしく、俺たち志願兵たちは闘技場へと来ていた。
俺はコユキとバルゴという、ここ最近ではすっかりお馴染みとなった三人で固まっていた。退屈そうにしているコユキとは対照的に、バルゴは辺りをキョロキョロと見まわしている。
「闘技大会の選手ってこんなとこで試合してたのか~。なあアルマ、あのすげえ豪華な椅子は何だ?」
バルゴは無骨な闘技場には不釣り合いに飾られた椅子を指差した。いや、椅子と言うより王座と表現した方が良いのかもしれない。
というのも結団式には志願兵と騎士団だけでなく、王族も参加する。王からの言葉を戴き、士気を上げることが目的らしい。あれは王様が座るためのものだろう。
しかし俺には王からの言葉はどうでもよかった。
それよりも重要なことが他にあったからだ。
それはソフィアだ。今回の式には、ソフィアが参加するのだ。
彼女に固執する理由は一つ。
俺の偽物が騎士団に忍び込んだ時、エルですら俺のことを忘れていたというのに、ソフィアだけは俺を忘れていなかったからだ。
このことについては、偽物が王族に手を出すことを避けた、と考えることもできる。俺もそうであって欲しいと思う。
だが彼女に対する懐疑心が一切無いわけではない。
だからこそ、彼女に直接聞くことで真実を知りたい。そう思った。
しかし、王族と話すという機会は全くと言っていいほど巡ってこない。
今回のようなチャンスが今後あるかも分からない。絶対に逃したくはない。
などと噂をすれば、王様ご一行が姿を現した。大勢の護衛の中心にいる彼らは、皆が美しい金色の髪をしていた。そのなかで異彩を放っている黒髪の第四王女、ソフィア・ティルフロア。
志願兵たちは彼らの登場に騒めきはじめた。王族を口々に讃える声が、あちらこちらで聞こえる。
その声に俺は疑問を持った。大勢が王様だの、女王様だのと口にする中で、明らかにソフィアについて何か言う者は居なかったのだ。
その疑問を俺はバルゴにぶつけた。
「なあ、みんななぜか第四王女のことを口にしてない気がするんだが、気のせいか?」
「・・・第四王女様は妾との間にできた子らしくてな。そのせいか、世間での風当たりは良くねえ。そのせいだろうな」
「お前もそういう連中・・・ソフィアを差別する連中と同じか?」
あまり快い質問では無いが、聞いておくべきだと思った。
「いや、俺はそうでもねえ。俺もスキルが無くて差別されまくりだったからな。なんかこう、共感できるんだよ。まあ、俺みたいな奴に共感されても嬉しくねえだろうけど」
俺は、バルゴの答えに安心した。
「皆のもの、静粛に!これより結団式を執り行う!」
バルゴの会話の直後、結団式が始まった。
その一瞬、ソフィアと目が合ったような気がした。
* * * * *
結団式は約二時間ほどで終わった。
志願兵たちは闘技場を去り、宿舎へ戻るよう指示が出た。
しかし俺はソフィアとの接触を図るため、移動する志願兵の集団から抜け出した。
そのままソフィア含む王族が居ると思われる場所まで向かった。
この機を逃すまいと、一心不乱に足を動かす。
一歩遅かった、ということにはならないように走った。
揺れる視界の先に、王族の護衛と思われる集団が入る。
「止まれ!」
護衛の一人に制止された。
「何者だ」
「俺はソフィア・・・様と話がしたいんだ!通してくれ!」
「無礼者が!咎められたくなければ立ち去れ!」
「頼む!少しでいいんだ!」
俺の要望は当然通りはしない。
それどころか俺を不審者として取り押さえようと、護衛が躍起になってしまった。
彼らは俺の脚や腕を掴み、拘束を試みようとする。俺はそれに抵抗し、護衛達を引きはがそうとした。
俺を中心に場が騒然となり始めたその時。
「やめなさい!」
聞き覚えのある声が耳に入った。
その声に、護衛達は俺を取り押さえるのをやめた。
声のした方に目を向けると、そこにいたのはソフィアだった。
「彼は私に話があるのでしょう?であれば構いません。貴方たちは下がっていてください」
「し、しかし」
「下がりなさい」
ソフィアは護衛にそう指示を下した。
護衛は他の王族の元へ着き、やがて辺りは俺とソフィアだけになった。
「久しぶりですね、アルマ」
彼女はどこか寂しげな笑顔を俺に向けた。
どうも、馬鹿な作者です。
突然ですが、修正のお知らせです。
第106部『志願兵』で、帝都との戦は”二週間”後行うとありましたが、”五十日”後に変更しました。それに合わせて第107部『衝突』でも一部修正を加えています。
距離的に、どう考えても二週間では戦場に着くことは出来ないですね。馬鹿です。
今後もこう言ったミスが出てくると思います。その度に、どうか寛大な心で読んでいただけたら幸いです。拙作ですが、今後ともよろしくお願いします。