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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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宴会

 ノアとの会話は新たな不安を残して終了した。

 俺とコユキは、夕食を済ませるべく酒場へと向かった。

 その短い道中、会話が生まれることは無かった。俺の頭の中では、ノアとの会話の内容がぐるぐると巡っていた。


 帝都上層部が死霊術師の存在を知っていたとして、一体何が目的だ。

 そんな答えが出ない問いかけを何度も繰り返していた。


 しかし、途中で考えるのを辞めた。

 自分ではどうにもできないことに頭を悩ませるのは俺の悪い癖だ。それよりも、今備えるべきは迫る戦についてだろう。余計なことを考えて、戦場で命を散らすなんてことがあっては笑い話にもならない。今は自分にできることに専念するべきだ。


 そうして歩いていると、視線の先に酒場が見えてきた。

 外からでも酒場の中が賑わっているのが分かる。そんな男たちの屈強な笑い声が響く酒場へ足を踏み入れる。


「お!アルマじゃねえか!」

「どこ行ってたんだ、早く食え!」


 酒場に入るや否や、俺は総出で歓迎された。ほぼ全員との交流が無い俺は戸惑いを隠せなかった。しかし、戸惑う俺を意にも介さず四方八方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


 目が回る状況下で、バルゴを見つけた俺はすぐさま彼の元へ向かった。


「どうなってんだよ、これ」


 意図せず強い口調で質問する。


「お前が今日の訓練ですげえ強いってことがバレたからじゃねえか?」

「だからってこんな騒ぐことは無いだろ」

「いや、味方に強い奴がいるってのは素直に嬉しいだろうが」


 確かに、こと戦闘において頼りになる味方が居るのはそれだけで心の平穏に繋がる。俺だってコユキが居るおかげで多少は安心を得ているから、よくわかる。

 しかしこんな風にもてはやされるのはごめんだ。性に合わない。


「バルゴ、何とか出来ないか?」

「仕方ねえな」


 そう言ってバルゴは席を立ち、その場にいる全員の目に付きやすいよう、カウンター付近に立った。


「お前ら!一つ提案なんだが、俺たちの頭にアルマを据えるってのはどうだ!?」


 バルゴの呼びかけに、男たちは賛同の声を上げる。

 そんな中、俺はバルゴの元へ駆け寄った。


「お前どういうつもりだ?俺はこの騒ぎを止めてくれって言ったんだ」

「だから、お前がこいつらの上に立って止めればいいだろ」


 屁理屈を言うな。


「お前、楽しんでるだろ。真面目に騎士団目指すんじゃなかったのかよ」

「たまには息抜きも必要だぜ、頭。ほら連中もお前からの言葉をご所望みたいだ」


 そう言って、バルゴは志願兵集団に目を向けた。

 つられた俺も志願兵たちに視線を向ける。すると、そこには先ほどまで騒いでいたとは思えないほど静かな男たちが、俺に目を向けていた。


 このまま何も言わず退散してしまおうか。

 いやしかし、そうすることで士気が下がることもあり得る。

 そもそもこの場をやり過ごしても、明日も明後日もこんな騒ぎが続きそうだ。それは個人的に勘弁してもらいたい。


 ここは何か言っておいた方が良さそうだ。


「俺がエルのためにこの戦争に参加したように、ここに居る全員がなにかしらの理由を持ってるはずだ。そのために戦果を挙げたいと思ってるに違いない。だけど、それも全部生きてこそだ。だから全員、生きて帰ろう」


 そう締めくくると、男たちはいっせいに声を上げた。


 しまった。一番言いたかったことを言うのを忘れてしまった。


「よっしゃ!それじゃ一人ずつ志願兵になった理由言ってこうぜ!ちなみに俺は騎士団に入るためだ!」


 しかしそんな暇はなく、男たちは喧騒を作り上げる。

 しかもよりによってバルゴが焚きつけるようなことを言いだした。


「お前、真面目に行くって言ってだろうが」

「今夜は無礼講だ、けったいなこと言うなよ」


 調子のいい奴だ。

 などと言っていると、各々が自分の目的を語りだした。

 金のため、家族のため、戦うため。それぞれの決意を打ち明け、それを全員で大いに讃える。士気を高め、戦に向ける気合いを入れる。

 大げさとも取れるこの喧騒は、はたして意図的なのか。一人一人が胸に秘めた不安を掻き消すため、わざと大げさに騒いでいるのではないか。

 そんなことを考えながら、志願兵たちの話を聞いていた。


 そして三時間が経過した。


「いい時間だし、最後に頭に締めてもらうか」


 宴のような何かが終わりを迎えるころ、誰かがそんなことを言った。

 皆に急かされるように立たされた俺は、その場の全員に目を向けた。

 そして口を開く。


「俺をもてはやすのは今後控えてほしい」


 沈黙が訪れた。

 その後、そのまま誰一人話すことなく帰路に就いた。

 あまりに迅速な帰宅に、俺とコユキは取り残されてしまった。


 これで明日からは平穏に過ごせるに違いない。

 そう確信していた俺にコユキは声をかけた。


「お前は空気を読むということを覚えろ」

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