表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
109/148

知られざる思惑

 本日の調練は終了し、俺とバルゴの二人は宿舎への帰路についていた。


「にしてもアルマ、お前すげえな。なんつーか、器用っつーか。足から風魔法を使うなんて、なかなか出来ねえぞ」

「それは多分、スキルのおかげだ」


 『戦闘能力向上』は、端的に言えば技術が身につくスキルだ。剣の振り、足捌き、魔法の使い方。テクニックが向上する。

 そのことに気づいたのは、大体七歳くらいの頃だったか。あの時は、向上し続ければいずれ『申し子』持ちにも届くのではと思ったが、そんなに甘くはない。

 

 俺のスキルと、『申し子』スキルとでは大きな違いがある。それは身体能力だ。

 俺のスキルで向上するのは技術だけ、それに伴う肉体は自ら創り上げなければならない。しかし、肉体にも限界がある。それはつまり、強さに限界があるという事だ。

 対して『申し子』スキルは技術を扱うに足る身体が自然と出来上がる。だからこそ強さに限界がない。まさに壊れスキルだ。


「いいなあ」

「バルゴはどんなスキルなんだ?」

「ん?俺は持ってねえぞ?」

「っ!すまん、嫌なこと聞いた」


 パッシブスキルを持たない者がいる、というのは聞いたことがある。非常に稀なケースで、そう言った者は軽蔑の対象になるとのことだったが。

 あまりに不躾だった。そもそも、スキルの話は進んでするものでもない。自らの手の内を明かすなんてのは、普通ならしたがらない。


「いいって。今に始まったことじゃねえ。何も無い自分ってのも悪かねえぜ」

「お前は強いな」


 バルゴとの会話の最中、前の方から見覚えのある顔が歩いてきた。


「アルマさん、久しぶりです」

「ノア」

「知り合いか?」

「ああ」


 バルゴの質問に簡素に答える。


「なんでお前こんなとこに?」

「アルマさんに用事があって」


 ノアの表情から、ただの雑談では無いことがわかる。それにこんな道端でする話でも無いだろう。


「バルゴ」

「ああ、いいぜ。お前んとこのガキの面倒は見てやるよ」

「まるで俺の子供みたいに言うな」


 そんなやりとりを交わして、バルゴと別れた。

 その後、俺はノアを自分の部屋へと連れて行った。


「ここ俺の部屋、だ!?」


 部屋の扉を開け、部屋の中を見渡すとそこにはコユキがいた。コユキはベッドの上で眠っていたが、俺たちが帰ってきたことに気付き目を覚ました。


「おう、アルマ。そしてノアではないか」

「お前、自分の部屋行けよ」

「いえ、コユキさんにもいてもらった方が良いと思います。僕たち三人は、一緒に帝都で調査した仲ですから」


 ノアがその方が都合がいいと言うのなら、今だけは何も言わないでおこう。


「ただ、寝る時は自分の部屋に行けよ」

「分かっておる」

「というか、お前ちゃんと調練出てんのか?」

「あんなもの、妾には不要だ」


 まあ、コユキらしいといえばコユキらしいが。


「あの、そろそろいいですか?」

「ああ、悪い。話の邪魔して。何の話かは大体見当がついてる」


 さっきもノアが言ったように、俺たちは帝都に調査に行った仲。なら話の内容もそれに準ずるものだろう。


「今回の戦争の原因、やっぱり俺たちなのか?」

「・・・おそらくは」


 予想していなかったわけでは無い。それでも、こうも真正面から突きつけられると、不思議な緊張感がある。

 しかしそうなると、俺やノアが責任を問われる可能性もあるわけだが。


「俺たちは、責任を取らされたりするのか?」


 自然とそんな疑問が口から出た。不安、と言ってもいい。

 戦争は忌まわしいものだ。それは前世での記憶がそう思わせているのだ。だからこそ、その原因が自分だとなれば、その重荷に潰されてしまいそうになる。


「それは無いでしょう。団長もそんな様子はありませんでしたし」


 とりあえず、一安心だ。この戦争で不利益を負う人を思えば、「安心」なんて気楽なことを言ってはいられない。それでもやっぱり、安心した。


「なら、俺たちは目の前の戦いに集中するだけだな」

「ええ。そうですね。死なないように頑張りましょう」


 心に影を落としていた不安は消えた。ならこれ以上余計なことを考えるのはやめよう。


「話はそれだけか」

「はい。それでは」


 ノアは俺から背を向け、扉の方へと踏み出した。


「待て」


 その足を、コユキの一声が止めた。


「どうした?」

「いやな、妾たちが戦争の原因だとして考えればおかしな事がある」


 コユキの言葉は、部屋に凛と鳴った。


「帝都の連中が妾たちに目をつけるとすれば、一体どの部分なのだろうな」

「どの部分?」

「もっと言えば、どの時点の、誰との戦いで」


 帝都で行った戦闘は三度。

 一度目は、俺と軍服のアンデッド。しかしあの場には他に人はいなかった。人の目につく事は無かったはずだ。

 それで言えば二度目の神父との戦闘も、三度目の死霊術師との戦闘も同じだ。誰かに気づかれるような事は無かった。


 待て、誰にも気づかれるはずがなかった?


「帝都の連中はどうやって気づいたんだ?」


 どうやって、俺たちが、王都の手先の者が死霊術師を倒したと分かったんだ?


 違う、分かったとかそういう話じゃ無い。


「事前に分かっていた・・・」


 おそらく、分かっていたのは帝都の上層部だ。

 その証拠に、帝都の一般人はアンデッドの影に怯える様子を見せていた。

 しかし、だからこそ問題だ。


「そうだ。おそらく帝都は死霊術師がいることなど承知の上だった。死霊術師の動向も探っていた。そう考えるのが自然だろう」

「すみません、僕戻ります!」


 コユキの話を聞いたノアは、急いで部屋を飛び出た。


「推理でしか無いというのに気が早いのう、ノアは。なあ、アルマ」


 俺はその言葉に答えることが出来ずに、立ち尽くしていた。

 この戦争の裏にある帝都の思惑に、俺は何かを感じずにはいられなかった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ