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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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修復

 朝。何か忘れているような、どこか腑に落ちない感覚と共に目を覚ました。

 横になったまま、一度伸びをして、上半身を起こす。


 なぜだかベッドが狭い気がする。

 ふと傍らを見ると、そこにはコユキがいた。

 コユキは俺が起きたことに気付いたのか、目を覚まし、ゆっくりとその体を起こした。


「起きたのか、アルマ・・・」

「お前、なんで居るんだよ」


 コユキにも部屋は割り振られているはずだ。それがなぜ、自分の部屋ではなくここに居るんだ。


「今更照れるな。お前と妾は何度も共に寝ているでは無いか」

「語弊がある言い方をするな」

「お前、昨日妾を置いて帰っただろう?随分と不機嫌だったからのう、話くらい聞いてやろうと思ってな」


 そうか、何か忘れていると思ったらそのことだったか。俺はバルゴと言い合いになって帰って来たんだった。

 そのまま不貞寝するとは、俺は子供か。


「気遣いは嬉しいが、寝るなら自分の部屋に行ってくれ」

「分かった分かった」


 そろそろ朝食の時間だ。

 俺は立ち上がり、部屋を出ようとした。

 そんな俺の背中に、コユキが声をかけた。


「悔いは残すなよ」


 いたって真面目な声音で、コユキは言った。


「なんのだよ」


 その言葉にとぼけて返すと、コユキは深くため息をついた。


「早く飯食いに行くぞ」


 俺は酒場へと足を向けた。


 コユキの言う悔いの正体が、この胸に残る罪悪感なのだとすれば、きっと俺は最後まで自分が悔やんでいること自体に気付かないのだろう。


 そんなことを思うと、踏み出す足が僅かに重くなった。


* * * * *


 酒場に行くと、大勢の志願兵たちで賑わっていた。

 そんな人の海とも呼べる光景の中で、俺の目は一人の男に留まった。


「昨日の男、あそこにいるでは無いか。確か・・・バルゴだったか」


 俺の個人的な印象からすれば、バルゴという男の周りには常に人がいるイメージだった。

 だがそのイメージとは裏腹に、バルゴは一人で黙々と朝食を口にしている。


「他に空いてる席はないのう」


 そう、コユキの言う通り酒場はほぼ満席。

 俺たちが食にありつくにはバルゴと相席になる必要がある。


 出来ればどこか別の席が空くまで待ちたいが、訓練までの時間に余裕はない。


「はあ~、あそこで食うか」


 背に腹は代えられない。

 渋々バルゴの元へ向かった。


「よう」


 何も言わずにバルゴの前に座ると、バルゴは俺の方を見ずに言った。


 無視するのは容易いが、相手から声をかけられた以上、こっちからも何か言った方が良いだろうか。

 なんとなくそう思い、このまま会話を続けることにした。


「意外だな。お前が一人で黙々と食べるような奴だとは思わなかった」

「俺は騎士団に入りに来てんだ。その前の戦いで死なないよう、この二週間は真面目にするって決めてんだよ」

「そうか」


 どうやらこいつは俺が思っている以上に真面目らしい。

 騎士団に入る動機がエルというのは不純だが、それにかける思いの熱量は馬鹿に出来ない。


 などと考えていると、バルゴは席を立ち、宿舎へと戻ってしまった。


「お前も口下手よのう」

「黙ってろ」


 そんなのは俺だって痛感してる。


 そのまま俺とコユキは朝食を食べ終え、その日の調練が開始された。


「うおっ!くっそ、負けた!」

「勝者、アルマ」

「あいつまた勝ったぞ」

「たしかエルリアル様の幼馴染だとか・・・」

「さすがだな・・」


 その中の実践訓練。

 今回は決闘形式で行われた。

 そんな訓練で、俺は志願兵の中でも優秀な成績を上げていた。


 最初は全員が訓練を受けていたはずなのだが、いつの間にか周りにはギャラリーが出来ていた。

 俺は次から次へと決闘を申し込んでくる志願兵をすでに十回以上相手している。おそらく今ので十七人目だ。


 挑戦者側は楽しんでいるようだが、俺の方は疲れるばかりだ。そろそろ訓練に戻ってほしい。


 騎士団の連中に止めてほしいところだが、俺がエルの幼馴染ということもあるのか、ギャラリーに混ざって俺を品定めしている。


「次は俺だ」


 その何度も聞いた言葉にうんざりしながら、声のした方を向くと、そこにいたのはバルゴだった。


「バルゴ、お前かよ」

「いいから構えろよ」


 有無を言わさぬその雰囲気に、俺はそれ以上何も言わずに剣を構えた。


「始め!」


 その言葉に合わせて互いが踏み出す。

 バルゴが一歩一歩向かってくるなか、俺は風魔法を使って一気に距離を詰めた。


 バルゴは驚いたように、焦りながら剣を振った。

 速度を維持したまま、バルゴが振り抜いた剣の下に潜り込み、同時に足を払って体制を崩す。尻餅をついたバルゴに立ち上がる隙を与えず、すぐさま彼の首に剣の切っ先を向ける。


「勝者、アルマ!」


 その声に、再び周りがざわつき始めた。

 俺を称えるような声がちらほら聞こえるなか、俺は目の前のバルゴに目を向けていた。


 数秒の間無言を貫いたバルゴ。しかし、次第にその肩が震え始めた。

 昨日のように唐突に怒鳴るかもしれない。そう身構えたその時。


「はっはっはっはっは!!勝てねえ!」


 バルゴは大声で笑った。

 その瞬間、俺の頭の中は困惑で支配された。朝は機嫌が悪いと思ったら、今は笑っている。バルゴが何を思っているのかが良く分からない。


「おい!お前ら、こいつにはそう簡単には勝てねえよ!分かったら散れ散れ!」


 バルゴが周りの連中にそう呼びかけると、その中に混ざっていた騎士団の男がハッとしたように指示をし始めた。その指示に従い、志願兵たちは訓練へと戻った。


「あ、ありがとう・・・?」


 地面に腰をつけたままのバルゴに、適当か分からない感謝を述べてみる。


「いや、俺がしたかったことだ。感謝はいらねえよ」

「なんでこんなことしたんだ?」

「俺だけ真面目にやってても、周りがああだとどうも身が入らねえというかなんというか」


 それで行動に起こせるこいつは、なんというかすごい奴だな。見直した。


「そうだ。このことエルリアル様に言っとけよ、なるべくカッコよくな」


 見直すのは少し早かったかもしれない。

 と、ここまでいやに饒舌だったバルゴがいきなり口をつぐんだ。若干躊躇いつつも、おずおずと次の言葉を口にした。


「・・・・・まあ、なんだ。お互いつまんねえことで微妙な空気になってもあれだしよ。仲良くやろうや」


 恥ずかしそうな口ぶりから、こいつの意図が読み取れた気がした。

 つまりこいつは、これを言いたかっただけなのだ。


 そう思うとなぜだか可笑しくなって、吹き出してしまった。


「な、なんだよ!!」


 バルゴがまたも気恥ずかしそうに声を出した。

 俺はひとしきり笑った後、呼吸を落ち着かせてから、バルゴの言葉に答えた。


「ああ、分かったよ」

 

 その日の調練では、俺はバルゴに戦い方を教えた。

 昨日の今日でバルゴに好印象を持つことは出来ないが、こいつのことは嫌いではないと、そう思った。

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