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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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衝突

 集まった全ての人々が志願兵の手続きを済ませた後、騎士団からの指示に従って移動していた。俺とコユキ、そしてなぜか一緒のバルゴの三人は、移動する集団を後ろから追うような形になっていた。

 ゆうに二百を超えるであろう集団の足音は、まるで地鳴りのように王都に響いていた。


 しかし、妙に閑散としている。建物の窓からこちらを覗き見ている人がいる辺り、外出に規制が掛けられているのだろうか。もしかしたらこれだけの大人数が移動しやすいように、騎士団が呼びかけたのかもしれない。


「なあ、お前ってエルリアル様のなんなんだよ」


 などという考えを巡らせていると、ガラの悪い声が隣から聞こえてきた。無論、バルゴだ。


「俺はエルの・・・」

「ああ!?エルだぁ!?失礼だろうが!!」

「喧しい。静かにせんか」


 コユキの言う通り、うるさい。発言一つ一つに突っかかられては、まともに話すこともできない。


「ただの幼馴染だ」

「てことは、お前が本物のアルマか」


 本物の、と付けたことから大体のことは理解をしていることが分かる。説明する手間が省けて助かる。


「ま、まあ。幼馴染だからなんだって話だけどな。た、多分エル・・・リアル様はお前みたいなナヨナヨした男より、俺みたいな奴が好きに違いないし?」


 頑張って取り繕おうとしているのだろうが、要所要所に動揺が見えるな。


「お前には無理だろうな。エルリアルは既にアルマに執心しておる」

「な!?おいアルマ、この生意気なガキは何だよ!」

「アルマ、この男に身の程を分からせてやれ」


 コユキとバルゴは相性がいいのかもしれない。

 そんなことを思いながら、コユキについて軽く紹介してやることにした。


「こいつはコユキ。俺の仲間だ。言っておくが、多分世界で五本の指に入るくらいには強いぞ」


 俺の紹介に、コユキは満足そうに笑みを浮かべている。


「こいつがかぁ?アルマ、お前俺が何でも信じると思ってんだろ」


 だが、バルゴはそれを冗談だと思ったみたいだ。


「何だと!今ここで氷漬けにしてやってもいいのだぞ!?」

「はいはい、俺はガキには興味ねえんだ」


 正直、コユキの見た目で強いと言われても信じない人の方が多いだろう。俺だって初対面の時は戦えるとは思ってなかった。


 それからはコユキとバルゴの言い合いを傍目で眺め続けた。やっぱり相性よさそうだ。


 すると、前の集団が足を止めた。どうやら目的地に着いたようだ。


「今日から二週間!ここで過ごし、調練を受けてもらう!たとえ志願兵だとしても容赦はしない!命が惜しいものは今なら引き返せるぞ!」


 ここからではその姿は見えないが、騎士団の者が話している内容が聞こえてくる。


 俺たちの目の前にあるのは、巨大な宿舎。それが、これから二週間帰る場所となる。


 引き返すチャンスはこれが最後、という呼びかけに空気が変わったのが分かる。コユキと言いあっていたバルゴでさえ、顔を強張らせている。

 誰もがここで引き返したら、死ぬかもしれない未来を回避できるのでは無いかと考えているのだろう。そして一瞬、葛藤をしたに違いない。

 しかし、誰一人として踵を返す者はいない。それぞれの思いは死という未来に揺るがされるほど弱くはないということだろう。


「よし!では今日から調練を行う!荷を下ろしたら訓練場に来い!」

「よし、行くぜ。俺は絶対騎士団に入るんだ」


 隣のバルゴが小さく呟いた。

 そして俺やバルゴを含めた全員が、宿舎へと入っていった。


* * * * *


「ッか――――!疲れた!」


 時間は即座に過ぎ去り、夜。

 俺とコユキはバルゴに連れられ、酒場へと来ていた。酒場には同じく志願兵たちが飲み食いをしている。

 というのも、この酒場はこれから帝都との戦いの日までの二週間、志願兵専用の食堂として利用されるらしい。全てのメニューが無料と言うことで、コユキは食べることに専念している。


 それにしても、毎度のことながら良く食うな。多分この無料の裏では騎士団の財布が悲鳴を上げているのだろうが、コユキが食い過ぎて破産という結果になったり・・・。

 まあ、そんなことは無いか。いくらコユキが大食いだからといって、こいつの胃袋一つで騎士団を潰せるはずがない。・・・ないはずだ。


「なあ、お前って俺のこと嫌いか?」


 バルゴからそんな質問をされた。

 随分と唐突な質問だ。しかしここは正直に答えよう。こいつ相手に歯に衣着せても仕方ない。


「好きか嫌いかで聞かれたら、間違いなく嫌いだ」

「なんでだよ」

「お前、初対面の時に俺の両親をけなしただろ。だからだよ」


 けなした、という表現が正しいか分からない。主観的な捉え方ではあるが、俺があの時のバルゴの態度に嫌悪感を抱いたのは本当だ。だからバルゴのことは好きになれそうにない。


 そんなバルゴは何も言わず、バツの悪そうな顔をするだけだった。


 少し気まずい空気になってしまった。

 飯の時間にこの空気は嫌だな。

 そう思い、話題を変えることにした。


「バルゴにも仲間がいただろ。あいつらはどうしたんだ?」


 確かバルゴの周りには、同じくチンピラと言った風な連中がいたはずだ。しかしあの連中は志願兵の中には居ないのだ。


「あいつらはここには居ねえよ。志願兵になったのは俺だけだ」

「つまり騎士団に入りたいって言った結果、あいつらから仲間外れにされたってところか」


 そう言って、俺は鼻で笑ってやった。

 無意識のうちに、俺はバルゴにされたことをやり返そうなどと考えていたのかもしれない。


 すると突然、バルゴは勢いよく立ち上がり、俺の胸倉を掴んだ。互いの呼吸音が聞こえるほどの距離まで顔を近づけ、大きく息を吸った。


「あいつらはそんな奴らじゃねえ!!!!」


 あまりの大声に、俺は顔をしかめた。

 騒然としていた酒場に響いたバルゴの声は、一瞬の静寂を招いた。

 バルゴは掴んでいた胸倉を離し、今度は勢いよく腰を下ろした。それを見た他の連中は、再び騒然とした。


「あいつらは人の夢笑うような奴らじゃねえ」


 気まずい空気を払おうとしていたはずが、より重苦しくなってしまった。


 それからは無言で飯を食い進め、食い終わればすぐさま宿舎へと帰った。

 自分の部屋に入り、即座にベッドに体を投げ捨て目を瞑った。


 そうして、後味の悪い感覚と、胸に引っ掛かる罪悪感に似た何かに気付かないふりをして朝を迎えた。

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