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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
七章 王都戦争
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志願兵

「いいか!本日から五十日後、ヘイリム平野にて帝都との戦が行われる!よってこれより、志願兵を募る!腕に自信のあるものは名乗りを上げよ!戦果を挙げることが出来たものにはそれ相応の褒美を与えよう!」


 そんな声が王都に響いたのは、宣戦布告から一か月後のことだった。

 声高く志願者を募った騎士団の男の前には、多くの屍が積み上げられるであろう戦を前に爛々と目を輝かせる者や、恐れ慄く者が入り混じる志願者の群れが出来ていた。その群れの中に今、俺は居る。


 つい一昨日のこと。


「アルマ君、開戦の詳細が決まった」


 その日の鍛錬を開始しようとしていたその時、ダグラスから告げられた。

 日時は約一ヶ月半後の正午。

 場所はヘイリム平野。王都と帝都のちょうど中ほどにある平野で、王都から帝都に向かう際にこの目で見たことがある。あの場所に木などの障害物はほぼ皆無。合戦にはうってつけと言えるだろう。


「志願兵は明後日募集するとのことだ」

「だとすると、明日には王都に向かわないといけませんね」

「そう。だから今日は最終調整だ。これまでのことを満遍なく復習するつもりで鍛錬しよう」


 そんな会話を繰り広げていると、台所の方からスミシーがやってきた。

 ここのところスミシーは憔悴気味だったため話す機会が無かったが、その日は違った。

 不安が彼女の顔に影を落とし、瞳の奥には生気が全くと言っていい程に見えなかった。そんな彼女が俺の前に立ったと思うと、すぐさま抱きしめられた。


「アルマ君。こんなお願い、酷なのは知っているけれど。それでも・・・」


 耳元でスミシーの声が聞こえる。その声は震えていて、そして泣いていた。

 きっと、絶望にも似た感情が彼女の中には渦巻いている。それが涙となって流れ落ち、彼女の声をか細くしているのだ。


「お願い・・・エルを守って・・・・・!」


 その言葉が強く脳裏に刻まれた。

 彼女の言葉に報いなければと、そう思った。


 そんな回想をしている間に、志願兵の群れは動き出し始めた。前の方で手続きが始まったのだろう。


「アルマ、今なら引き返せるぞ?」


 隣にいたコユキがそんなことを言ってくる。


「ダグラスさんとスミシーさんにあれだけ言われて引き返すわけあるか。それにお前がいるなら怖くない。頼りにしてるぞ、神様」

「頼まれては仕方ない。供え物は美味いものを頼むぞ?」

「食いきれない量をやるよ」


 話している間に群衆は次々と前へと進み、いよいよ俺の番となった。


「こちらに名前を記入してください」


 騎士団所属の男は俺にペンを手渡して言った。

 即席で用意したと思われるカウンターの上には、一枚の用紙が置かれていた。用紙には志願兵の名前が羅列されている。

 その用紙に自分と、コユキの名を記入する。そうして志願兵としての手続きは完了。俺とコユキは人の群れから少し離れた場所に移動し、次の指示を待つことにした。


「結構集まるもんなんだな」


 今一度、離れたところで群衆を見て思った。


「これを機に騎士団に入ろうという連中も、なかにはおるだろうな。それ以外ならば職を無くし、褒賞という餌に食いついた者かのう」


 後者の奴には同情するが、前者は相当腕に自信があるか、ただの間抜けだな。


 そんな時、こちらに近づいてくる男がひとり目に入った。

 男は俺たちの前に辿り着くと、口角を吊り上げた。


「久しぶりだな、てめえ」


 眼光をぎらつかせ、威勢よく喋るその様はまさにチンピラだ。

 どこか引っ掛かる気もするが、しかし俺が返す言葉は一つしかなかった。


「誰?」

「な!?」


 俺のその言葉に、男は驚いたような声を上げた。


「ざっと一年前!ギルドの前で俺に手出したのはてめえだろうが!」


 ああ、思い出した。

 俺が冒険者であることに散々大笑いして、最後には俺に懲らしめられたチンピラだ。


「あの馬鹿みたいな髪型は辞めたのか?」

「馬鹿・・・!?」


 こいつの印象は一言で言えばモヒカンだ。それが俺の海馬に深く刻みつけられていた。

 しかし俺はこの男があの時のチンピラであることに気づかなかった。その理由は、こいつの唯一のアイデンティティと言っていいモヒカンが、ただのストレートヘアになっていたからに他ならない。


 モヒカン、いや元・モヒカンは咳払いをして口を開いた。


「いいか、俺の名前はバルゴだ!この戦を機に騎士団に入団し、ゆくゆくはエルリアル様と・・・へへっ」


 間抜けは見つかったようだ。

 一人で妄想に耽るバルゴを他所に、俺は再び視線を群衆へ向けた。


「お~い!」


 そこに飛んできた黄色い声。

 声の方へ視線をやると、そこにエルが手を振りながらこちらに向かっているのが見えた。


「エ、エルリアル様が・・・俺に手を・・・・・!?よっしゃ!」


 そう言って、バルゴは両手を大きく広げた。抱きしめる準備は出来ていると言わんばかりの態度だ。

 そんなバルゴのことなど気にも留めず、エルは俺の方へ駆け寄ってきた。


「アル、それにコユキちゃん!久しぶり!」

「久しぶりでも無いだろ」

「コユキちゃん酷い!」


 バルゴは両手を広げたまま硬直している。


「アル、パパとママは元気だった?」

「そんな心配するほどでも無い」

「ならよかった」

「エルの方も大丈夫だったのか?」

「最近は忙しくてさ、困ったよ。書類仕事は苦手だよ~」


 エルは肩を落として、仕事内容を嘆いた。

 しかしすぐさま背筋を伸ばし、俺の目を貫くような視線で見つめた。


「でも戦いは任せて。絶対二人を死なせないから」


 エルの瞳の奥には、燃えるような決意が秘められている。それがひしひしと感じ取れた。


「俺だって、ダグラスさん達にエルを頼まれてんだ。ただ守られるだけでいるつもりは無い」

「妾はそもそもお前より強い」

「うん!それじゃあ、そろそろ戻らないと。まだ仕事がたくさんあるし」


 そう言ってエルは背を向けた。

 そのまま二、三歩進み、振り返った。しかし彼女の視線は俺たちを見ていない。


「志願兵のあなたも、よろしくね!頼りにしてるから!」


 硬直していたバルゴにそう言い放ち、エルは去っていった。


「今・・・エルリアル様が、俺に声を・・・・・。よっしゃー-!!!」


 硬直から解き放たれたバルゴを他所に、俺は三度群衆に目を向けた。

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