路地裏の出会い
まさか、迷子になったのか?
いや、疑問に思うまでもない。大勢の人々が行き交う王都で迷子になるのはおかしくはない。
自分が置かれた状況を理解したところで、次はどうやって二人と合流するかを考える。
俺は王都の地理に詳しくない。それゆえ、もし迷子センターのようなものが設置されていたとしても、どこにあるか分からない。
できることは、俺が両親を探すことだろうか。動かずに待つという方が良い気もするが。
とりあえず直観に従って親を探すことにした。
人ごみを抜け、路地裏に入る。大通りにいては、人の波に流されるばかりで、人を探すことなどできない。
しばらくこの路地裏を進んでから、もう一度大通りに出よう。
路地裏は先ほどまでいた大通りとは対照的に薄暗い。
道端にごみが捨ててあったり、ボロボロの服を着た人が座り込んでいる。
少し歩くと、道の真ん中でうつ伏せになっている人がいる。
よけて通ろうとすると、体から血が流れていることが分かる。
やがてその血は通路を覆い、俺の足元まで広がった。
怪我をしているのか。
というか、これほど出血して大丈夫なのだろうか?
分からないが、このままにしておくわけにはいかない。
道の真ん中で倒れこむ人に近づき、触れようとする。
「あんた、やめときな。そいつは死んでるよ。なに、王都じゃ珍しいことじゃない」
その声に驚いた俺は、倒れた人の手に触れてしまう。
俺の手には人の体温は感じられなかった。
道の中央に倒れこむ「それ」は、驚くほど冷たく、驚くほど堅い。
声のした方を見やると、道端に座るみすぼらしい風貌の老人が薄気味悪い笑みを浮かべている。
なんて言ったんだ?死んでる?この人が?
いや、確かに冷たかったし、堅かった。死んでいるのだろう。
ショートしそうな頭を使って、考える。
だとしたら死体をそのままにするのはおかしいだろう?
なぜ人が死んでいるのにそんな風に笑えるんだ?
そう思い、倒れこんだ人を見る。
光のない濁った眼がこちらを見ているような気がした。
視界が青く光る。
目の前で起きていることに自分の常識が追い付かない。
動揺が呼吸が荒くする。肺が酸素を欲しているのにうまく息を吸うことが出来ない。
パンクしそうな頭が導き出した行動は、その場から逃げることだった。
*
死体があった場所から離れるために走っている最中、前から走ってきた人に気付かずぶつかってしまう。
「す、すみません!」
死体を見たこと、そのことを意にも介さない人がいたこと、それらがさも当たり前のようにあの場所に在ったこと。
それらに恐怖していた俺は、何も考えず素早く頭を下げる。
「ええ、構いませんよ」
幸い、許してくれたらしい。
ほっとした俺が頭を上げると、俺の視界は華やいだ。そこには美しいドレスに身を包んだ黒髪美少女がいた。
「どうかなさいました?」
あまりの可憐さに目を奪われてしまった。
この路地裏に不釣り合いなドレスを着た美少女。
走っていたのか、頬は上気し、少しばかり息を切らしている。
というより、前世の記憶から行くと、この展開はもしかすると。
「失礼でなければ、お名前教えてくれませんか?」
自分の想像があっているか、確認のため名前を聞いてみる。
目の前の少女は口をぽかんと開けている。軽く深呼吸をし、息を整え、咳ばらいをした後、彼女はその名を明かす。
「私は、王都ガルス、第四王女。ソフィア・ティルフロア。以後お見知りおきを」