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私はとびきり格好良い、んふふ。


「ミルフィ!」


ミルドレッドに駆け寄ると、女性騎士2人はリゲルに礼をとり、ミルドレッドに挨拶をして王宮に戻っていった。

2人に丁寧にお礼を伝えたミルドレッドはその姿を見送ると、にこにこと微笑みながらリゲルに話しかけた。


「リゲル。急に来てごめんなさい、びっくりしたかしら?」

「ああとても。どうしたんだい?まさかミルフィが演習場に来るなんて思っていなかったから。護衛騎士はディバルバイドが付けたのかな」

「ええそうなの。実は先日王太子殿下から研究成果に対して何か欲しいものがあれば褒美としてって伝書魔紙を頂いて。何でも良いって書いて下さっていたから、ではリゲルの騎士団の稽古をこっそり見学させて下さいってお願いしたの。私が普段知らないリゲルを見てみたくて」


(無欲!!ああ、星のカケラの褒美なら、ミルフィは金塊だって宝石だって望めたのに!あれの対価がまさか私の指導見学だと…!ああミルフィ、君が愛おしくて、私はどうしたらいいのかも分からない…無欲…無欲ミルフィの尊さよ)


「見学場じゃ直ぐに見つかってしまうでしょう?だから木の影に隠れたつもりだったのだけど、ふふ、結局すぐ気付かれてしまったわね」

「私はミルフィが何処にいるか直ぐ分かってしまうんだ」

「ふふふ。でも王太子殿下が王妃殿下の護衛騎士様を付けて下さった時は恐れ多くてどうしようかと思ったの。私には不要ですってお伝えしたのだけど、私の為にも、ディバルバイド王太子殿下の身の安全の為にもどうか連れて行って欲しいと仰られて」

「ディバルバイドにしては良い判断だったな」


そこまで話して、リゲルはそっとミルドレッドをエスコートする。

長い間演習場にいてミルドレッドは疲れているだろう。そう思ったリゲルはここから1番近い事務塔のカフェテリアに移動する事にした。



カフェテリアでお茶を頼み席に着くと、ミルドレッドがきらきらした瞳でリゲルを見つめていた。


「だめね、リゲルはもうこんなに冷静なのに、私まだちっとも興奮が収まらないの」

「興奮?」

「リゲルって本当に強いのね!私、知っているつもりだったけれど、知ってなかったんだわ。戦う姿にこんな言い方はいけないのだと思うけれど、でもとても素敵だったわ!」


うっとりとした笑みを浮かべリゲルを見つめるミルドレッド。

ぴし、とリゲルのお茶を飲む手がとまった。


「剣を振るう姿も流れる様で、とても美しいの。リゲルは魔力だけで誰よりも強く戦えるのに、剣技もきっと多くの鍛錬を積んできたのね。私あなたのそういうところ、心から尊敬しているわ。努力したのね」


「ああああありがとうミルフィ」

リゲルはいつもよりぎこちない動きで、何とかティーカップをソーサーに置いた。


「それに、真剣な瞳で騎士様1人1人に指導するリゲルは、魔術も剣もだめな私から見ても頼もしさが伝わってきたわ。1人であんなに沢山の騎士様に、しかもそれぞれの特性に合わせて指南していくなんてとても大変な事だわ。

リゲルは毎日すごく忙しいのに、疲れているでしょうに、でも真摯に指導を続けるリゲルの素晴らしさに、私ずっと感動しっぱなしだったわ!あら、リゲルどうしたの、大丈夫?」

「問題ない、大丈夫だよ」


リゲルは片手で口元を覆い天井を見上げていた。


(あばば歓喜、そうこれは歓喜。どうする嬉しいたまらない何だかミルフィにずっと褒められている気がするがどうだろうかこの解釈は合っているだろうか。落ち着け、血の流れを意識するんだ流せ、さもなくば顔に血が集結するぞ。ミルフィは何と言った?私が素敵だと、そう、そうか、ミルフィにはそう見えたと。ふふ、ふふふふふふふ)


「でも、強いって事は、それだけ皆から頼りにされるって事だわ。以前の私だったら、今日のリゲルを凄いと思いながらも心配で苦しかったと思うの。星のカケラの研究が上手くいって本当に良かったわ。あなたが何ものからも傷を受けないという事実に、心から感謝してる」

「ミルフィ、私は君のおかげで何よりも強くなったと思う。本当にありがとう。君に心配をかけないようこれからも精進するつもりだよ」



「あのねリゲル…」

ミルドレッドが少し考えるように、そして周りに人がいないか小さく確認してから話しだした。


「リゲル、私、難しい事を何も考えず、ただ私もリゲルを守りたくて星のカケラの研究を続けてきたの。

でも、本当はもっと慎重になるべきだったのではないかと思って」

「そんな事はないが」


ミルドレッドにしては珍しく、少し俯きがちに話を続ける。

リゲルはミルドレッドが何か憂いているならそれを取り除くべく、まずは邪魔をしない様、聞き役に努めることにした。


「星のカケラの今後の取り扱いについては、リゲルと王太子殿下にお任せするけれど、あの、星のカケラについて公にするのは悪用の危険性があるわよね?でも騎士団や王族の皆様には飲んで頂くの?

私、自分達だけ一定の安全を得た事が申し訳ないと言うか、後ろめたい気持ちがあるわ…。いえ、でも私にとってこれはリゲルを守る為の物だから、そこに一切の後悔は無いの。ただ、これからどう扱う事が正しいのか分からないわ」


ミルドレッドはそのまま考えこんだようにカフェテリアの外の景色を眺め始めた。


リゲルは、自分の体内の魔力に意識を向けた。

ゆっくりと渦を巻く膨大な量の魔力を感じる。

リゲルは他の人がやった事がないような厳しい魔法訓練もしてきたが、他の人のように魔力切れを起こした事はない。

自分でもどれだけ魔力があるのか分からない。まさに無尽蔵という表現がリゲルの魔力には当てはまる。


定期的に、そして大々的に騎士団が行っている遠征討伐だが、

実は本当のところ、リゲル1人で事が済んでしまう。

国を超えた範囲をリゲルの探魔法で索敵して、そこにかかった魔獣全てをリゲルが消してしまえばいい。遠征にいく必要もない。

リゲルも、王太子ディバルバイドも本当はそれを知っている。


だが、それではダメなのだ。


リゲルとて永遠の命の持ち主ではない。

たとえリゲルの命続く限り世界中の魔獣・魔物を屠ったとしても、何処からかまた必ず現れる。魔物とはそういう生き物だ。

その時にリゲルが生きていなければ、この国は大変な事になってしまう。誰か1人の力に依存する国家など未来がないに等しい。

だからこそ国防の要、騎士団は常に磨かれなくてはならない。


実際の戦いを経験しない騎士団はどうしても弱体化してしまう。

リゲルだけが強くても意味がない。

騎士団も鍛え続けて魔獣を倒す経験を積んでいかなくてはならない。


強さを手に入れる為、騎士団全員に星のカケラを飲ませ傷のつかない身体を手に入れさせる事は簡単だが、予備隊を合わせ全体で数千の人数がいるのだ、慢心し鍛錬に気を抜く者も出てくるだろう。


この国の行く末の為、何より皆自分の大切なものを守る為、

騎士団1人1人全員が、強くならねばならない。

星のカケラで強化するのは今ではなく、凶暴な大型魔獣が出現する限り、遠征討伐は騎士団にとっても必要なものだった。


「先日この件についてディバルバイドと話したよ。さまざま検討する必要があるとは思う。今のところはこの件について知るのは私達の他はディバルバイドだけだね」

「そう、そうね」

「王族がどうするかは彼らに任せるとして、私は騎士団に星のカケラは必要ないと思っている。彼らは彼らの魔力と鍛錬で強くならなければならない。何からも傷を受けないとなったら、慢心から訓練を怠る者がどうしても出てきてしまうだろうからね」

「ええ」

「それと、自分達だけが安全を得たと後ろめたく思う必要なんて全くないんだ。ミルフィ、君の長い時間を捧げて成し得た成果だ、当然の権利だと私は思う」

「リゲル」

「ミルフィの努力の結晶を私にも与えてくれてありがとう。君もこの国も私が守ると誓おう。勿論、遠征討伐の時の騎士団も守るから何も心配はいらない」

「ああ、リゲル。あなたは強くて優しい人だから、きっと本当に私達みんなを守ってくれるんだわ。でもお願い、決して無理はしないでね。私が1番安全でいて欲しいのはあなたよリゲル」


一生懸命にリゲルの心配をしてくれるミルドレッドに嬉しくなったリゲルは、優しく瞳を細めて答えた。


「私が1番安全で幸せでいて欲しいのはミルフィだよ。でも、ふふ、了解した。無理はしないと私のミルフィに誓おう」


その時、悲鳴のような歓声のような声が上がり、リゲルはそちらに顔を向けた。

すると、行儀見習いにきているのであろう貴族の令嬢達が、突然自分達の方に視線を向けたリゲルに頬を赤くしながら“きゃあ”と声を上げた。


令嬢達は随分前からリゲルが婚約者とカフェテリアに来た事に気付いていて、皆で噂をしながらうっとり鑑賞していた。

そんな時滅多に見られないリゲルの優しい微笑みを盗み見てしまい、思わず黄色い悲鳴が出てしまったのだった。


(ただの有象無象か)


ミルドレッドに害がないのならどうでもいい。

リゲルがミルドレッドに視線を移すと、少しだけ口元を膨らましたミルドレッドが令嬢達を見ていた。


「ミルフィ?どうかしたかい?」

「行儀見習いの方達よね、皆さんとても可愛らしいわ」

「そうなのかい?私には分からないな」

「気付いていて?彼女達はリゲルを見て頬を染めていたわ」

「そうかい?ミルドレッドの可憐さにではなく?」

「もうリゲル、それに彼女達だけじゃ無いわ。あちらのテーブルの方達だって、今だけじゃなくて普段リゲルとすれ違う人だって、こっそりあなたの事を見てるわ」

「ああ、通路や食堂で視線を感じる事はあるね。ミルフィに害がなく、悪意を感じる物以外は反応する事もないが」

「悪意じゃないわ、むしろ好意よ」

「好意?」

「リゲルってとても人気があるのよ。私達の事とてもお似合いだわって、皆さん言ってくださるの。それで、その後皆うっとりため息をつきながら仰るの、ガルガイア公爵子息様みたいな素晴らしい婚約者が私にもできないかしらって」


リゲルは、少し拗ねたような声のミルドレッドをしっかりと見つめる。


(これはどうした事だろう。あまり見た事のないミルフィだな。少しだけ機嫌が良くないように見える)


「リゲルが私じゃなくて自分の婚約者だったら良かったのにって思っているのかもしれない」

「それは無理な話だね」

「リゲルが素晴らしい人だから、皆見てしまうんだわ」


(“素晴らしい”とは何についてだ?話した事もない人間達の言う事だから容姿か?そういえばミルフィが私の容姿について言及したのは聞いた事がないな。ミルフィの可愛さ美しさ素晴らしさについてはそれはもう1日じゃ終わらない程語り尽くしたいが)


「君から見ても?」

「え?」

「ミルフィから見ても、私がその素晴らしいとやらに当てはまっていたら嬉しいのだけれどね」


リゲルの言葉に、ミルドレッドは信じられないと言う風に眉を寄せた。

途端リゲルは心臓が凍りついた様に感じる。


(!まさか!まさか私はミルフィにとって“素晴らしい“ではないというのか!?いやでもさっき演習場の私を素敵だったって、素敵だったって!)


「やだリゲル、あなたもしかして分かっていないの?だめよ、これからは気をつけて欲しいわ。」


(何を?何を気をつけたら挽回できると言うのか)


「いいことリゲル。あなたってとびきり格好良いのよ」


(………ん?)


「あなたは知らないでしょうけれど貴族学校に入学したばかりの頃は、何人もの方にリゲルを紹介してくれないかしらってお願いされたのよ」

(知っている。全部知っているし全部排除済みだ)


「私、あなたのその綺麗な蒼い瞳を見ていると、海を覗いたような、世界で1番美しい宝石を知ったような、とても色々な気持ちになるわ。

リゲルは博識で穏やかで親切で、そして誰よりも勇敢だわ。それだけでも素晴らしいのに、艶のある黒髪も海色の瞳も、姿形までとびきり格好良いのよ。その上公爵家嫡男なんて、神様はこれ以上リゲルをどうしたいのかしら、私心配だわ」


眉間にシワを寄せ片頬に手を寄せて、ミルフィはふぅと息をはいている

(かわいい。これはなんと言う生き物だろう俺と同じ人間で本当に合っているのだろうか。これは囲って大切に大切に保護しないといけない生き物では?今すぐそうするべきなのでは?)


「…ミルフィは、私を格好良いと思っている?」

「まぁ!勿論だわ!私あなたより格好良い人を見た事がないもの。そして何より、あなた本人が素晴らしい人だわ。6歳のあの日、お庭で初めてリゲルに会ったあの日から、ずっとそう思ってるわ」


許されるなら、今すぐミルドレッドを抱きしめたいリゲルだったが拳に力を入れて耐えた。

頬が赤くなるのは耐えられなかった。


それを見たミルドレッドも、こちらは首まで真っ赤になった。


「そう思ってくれてとても嬉しいよ私のミルフィ。私もミルフィの美しさを毎日眩しく思っているし、私を守ってくれる強さも真っ直ぐに努力を続けるところも優しさも女神の化身なところも妖精の可能性があるところも全て愛しているよ」

「ふふふ、途中から何だかおかしいわ、リゲルったら。でもありがとう。どうかこれからもずっと一緒にいてね」

「もちろんだとも私の唯一。私の全てはミルフィの為に存在する」


お互いにいつもより赤みの多い表情で微笑み合う2人。

黄色い歓声をあげていた令嬢達も、私達一体何を見せられているのかしらと少し冷静になり、そしていつも通り、私達もあんなにお互いを思い合える婚約者に巡り会えますようにと羨ましく思いながら、ほうとため息をつくのだった。




数日後、ディバルバイドの執務室を訪れたリゲルは上機嫌で話し始めた。


「ディバルバイドの提案のおかげで、ミルフィは戦う私を素敵だと言ってくれた。んふふ、一応礼を言いに来た」

「そうか、良かったな」

「んふふふ、私はミルフィにとって、とびきり、格好良いそうだ」

「そうか、良かったな」

「護衛騎士といい、中々上々な対応をしたな。良いぞディバルバイド」

「上方から私に発言するのをやめろ不敬だ、帰れ」

「んふふふふふふふふふふ」

「おぞましい、その堪え切れない薄ら笑いをやめろ夢に出そうだ。誰か此奴をつまみ出せ」

「んふふふふふふふ」


ストックが無くなってしまったので次話から不定期更新となります。


ブックマーク登録や評価・拍手を下さった方、読んで下さった皆さま本当にどうもありがとうございます。


誤字報告下さった方、大変助かりました、

どうもありがとうございます、感謝です。


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