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悪い悪い笑顔


国や地域によって王族の敬称は変わるそうですが、この国では、国王陛下、王妃殿下(国王の配偶者)、王太子殿下、となります。

どうぞ宜しくお願い致します。


今日のリゲルは、魔法術士として騎士団に稽古をつけに来ていた。

騎士団長は地方視察で不在の為、副団長のバーバリと挨拶を交わす。


「先月ぶりだなリゲル殿。お忙しいところご指導感謝する。本日も宜しく頼む」

「バーバリ副団長もお変わりなく。こちらこそ宜しくお願い致します」

 

演習場に着くと、すでに団員達は模擬戦を行っていた。

バーバリ副団長が声を張る。


「模擬戦を一時中止!今からガルガイア殿に魔術の稽古を付けて頂く。全員 礼!」


バーバリ副団長の声にぴたりと動きを止めていた団員達は、一糸乱れぬ動きでリゲルに向い騎士の礼をとった。

それに頷く事で答えたリゲルは、「本日はまず、」と団員達をぐるりと見回した時に、気付いた。


(ミルフィ!?)


演習場の入り口近く、見学場の隣にある大きな木の幹に隠れる様にして、ミルフィがこちらをそっと覗いていた。

直ぐ隣に1人、そして後方に1人、女性の護衛騎士が付いていた。


(何故ミルフィがここに!?側にいるのは王妃殿下の護衛だな、という事はディバルバイド絡みか。訓練の見学に来たのか?)


リゲルがじっと見つめていると、それに気付いたミルフィは少し困った様に笑って、リゲルに向かって小さく手を振った。


(可愛い。はにかんで私に手を振るミルフィの趣深さよ。私に何か用事だろうか?ああ、このままミルフィの元に駆け寄り連れ去っても構わないのでは?今日はバーバリ副団長の100人斬り決闘大会に変更したら良いんじゃないかそうだそれがいい)


だが、自国の騎士団の強さは、そのままミルドレッドの平穏に繋がる。リゲルが騎士団の魔術指導を引き受けているのは、まさにミルドレッドの安全の為だ。

(本当は今すぐミルフィの所に行きたいしミルフィの事しか考えられないし何なら騎士団にはもう自分達で勝手に強くなってもらいたいし邪魔しないでほしい迷惑だ)


脳内はぐるぐると忙しかったが、リゲルはふうと息を吐くと、意識を切り替え団員達に向かい合った。



キィン!と硬質な音を立てて魔力を纏わせた剣を振るう。

指先をすっと前に向け、的に向かってそれぞれの属性で作り上げた礫を叩きつける。

演習場のあちこちで、得意分野に合わせた鍛錬が行われていた。


中央に作られた大きな半円の結界の中では、リゲルが一対一で順番に稽古をつけていた。

それぞれの団員の特性によって剣を合わせたり、魔術の雨を降らせるリゲル。現在リゲルに稽古をつけてもらっているのは、雷属性に特化した団員だった。


「小さいな、一瞬に雷を集めさせろ。全力で構わない、来い」

「はっ!」


団員が胸の前で組んでいた両手を勢いをつけて大きく開く。

するとその間から、唸り声の様にバリバリと音をたてながら獅子の形をした雷が一直線にリゲルに向かった。

それはかなりのスピードでリゲルに迫った。黙々と鍛錬していた団員達も思わず動きを止めて見入る。


すると、あんなに勢い良く迫っていた雷の獅子が、パチっという音と共に煙の様に消えてしまった。

リゲルが手の甲で軽々と払ったのだ。


(…ふむ。)


リゲルは呆然とする目の前の団員に目をやった。


「お前、ツイズルと言ったか」

「は、名を覚えて頂き光栄です」


リゲルはこの団員に見覚えがあった。

精鋭揃いの騎士団の中で魔力量はそれ程でもないが、戦闘感覚が高く、遠征討伐にも良く選ばれている団員だった。


「お前別の事を考えながら戦っているな、集中していない」


ツイズルはハッと表情を変え、頭を下げた。


「ガルガイア様に稽古をつけて頂いている最中に大変失礼致しました、申し開きのしようもございません」

「実際の戦闘でそれをやってみろ。お前はもう生きていない」


頭を下げたままのツイズルは、リゲルの言葉に肩を揺らした。


「言え。戦闘訓練中に何を考えていた?」

「それは」

「お前達がより騎士道に集中出来るよう慮るのは上司の務めだ。部外者の私では言いにくいのであれば、騎士団長・副団長共に喜んで相談に乗るだろう」

「いいえ!」


叱責されても仕方ないと身を固くしていたのに、言い方はキツいがこちらの事情を組もうとしてくれるリゲルの言葉に、ツイズルは背を伸ばした。


「実は…実は来月、心から愛する婚約者との結婚を控えております」

(ふざけるなよ羨ましいのだが?羨ましいのだがあ?)


「ですが…気付いたら俺の中に恐れが生まれていました」


ツイズルの話によると、2人は婚約者の頃からとても仲が良く、お互いを心から大事に思っていた。だが、その大事な彼女と結婚を控え、ツイズルはふと、騎士である事に不安を感じる自分に気付いた。


この国の騎士は、他国にも最強軍団と言われる程に強さを誇る。

大型の魔獣に対してもそれぞれの役割と高度な連携を保って集団で戦うので、怪我をする事はあっても命を落とす者は滅多にいない。

だが残念ながら全くいない訳でもない。


ツイズルは、今までどんな敵と対峙しても塵ほども感じた事のなかった恐れを、初めて抱いた。

騎士という職業が持つ隣り合わせの危険が、愛する者と自分を別つかもしれない。


そう、

自分はこのまま騎士を続ければ、彼女をおいて先に逝くかもしれないと。


「情け無い事に、それに耐えられないんです。

彼女を絶対に全てから守りたいのに、俺が彼女を1人にしてしまうかも知れない、彼女をおいていく訳にはいかないんです。

小さな頃からずっとずっと騎士に憧れて、今まで皆を守ろうと、強くあろうと思ってきたのに、今俺の中に恐れがあって、戦いに全てをかけられないんです」

「お前は何を言っているんだ」


胸元をぎゅっと掴みながら告白するツイズルに、リゲルは静かに言った。


「確かにそういう守り方もあるだろう、はっきり言葉にするなら、自分の命とひきかえに大事な者を守る戦い方だ。

残念ながら魔力のない者が魔獣を倒すのには限界がある、それはもうどうしようもない事実だ。

だが私達はどうだ?私達には魔力がある。恵まれた環境もある。

魔獣は倒せるし、何よりも強くなれる、私達なら」

「……。」

「お前は魔力を持って生まれた事を天に感謝するべきだな。努力さえすれば、強さを得る事が出来るのだから。愛する者を守る事が出来る、その力をお前は持っているんだ。

大事な者がいると言うなら、死ぬ気で己の力を磨け。血を吐くほどに魔力を使い込め。魔力は磨けば磨くほど高まっていく。

命をかける、それはいい、お前の自由だ。だが決して死ぬな、死ぬくらいなら強くなれ、それだけだ」

「ガルガイア様…」

「いいか、私は己の大事な人に、ミルフィに危険が迫れば、生命をかけて必ずミルフィを救う為戦う。だが、決して私は死なない。

私は何があってもミルフィを悲しませないし、守ると己に誓ったんだ」


「はい…。それは俺もそうです、そうでありたい…」

ツイズルは苦しげな表情で呟く様に返事をする。


「お前は、お前の婚約者を守りたいのだろう?絶対に」

「その通りです」

「彼女の為なら己の命をかけられる位大事なのだろう?彼女を残して死ぬのが怖くなる程に」

「はい」

「ふっ、誰かを守る為に命がかけられるなら、その為の訓練にも命をかけられるだろうな、ツイズル」

「は…」


ミルドレッドの前以外では珍しい、リゲルは笑顔を見せた。

悪い悪い、笑顔だったが。

ツイズルは嫌な予感がした。


「あの、ガルガイア様…」

「死の一歩手前まで鍛えてやろう」

「ヒェ」

「まぁだが、訓練にしろ戦闘にしろ、だめな時は死ぬだろうな 」

「ええ…」

「だから“だめな時”を作らなければ良いんだ。私はそうしたぞ。

訓練が過酷で血を吐いた事も身体がちぎれた事もある。だが私は何よりも強くなると決めた。その結果、私に“だめな時”は無くなった」

「だめな時」

「そうだ。要するに“だめな時”がない程強くなればいいだけの話。

心配するな、死のギリギリは何度も経験した、うまく鍛えてやれるだろう」

「ヒェ」

「その度にお前の生存能力も戦闘能力も上がるだろう。良かったな、生きろ」

「ヒェェ」

「心配するな、治癒魔法も得意だ」



その後、ぼろきれの様になったツイズルは仲間の団員に運ばれていった。

死の鍛錬を面白そうに眺めていたバーバリ副団長は、既にツイズルの魔力量が増えている事に感心していた。


「流石だなリゲル殿!こんな短時間で魔力量が増える訓練など見た事もない。是非、全ての団員にもお願いしたい」

「そうですね、今回は一対一でしたが30人程でもまとめて行えば1日で終わるでしょう」


聞こえてしまった団員全員に戦慄が走ったちょうどその時、終了の鐘が鳴った。


(終わったぞ、もう爪の先ほども働かん!結局私のミルフィは最後まで見学していたのか。疲れていないだろうか、心配だ、護衛騎士がずっとべったり側にいるのも気に食わない。そこは私の場所だ貴様らは今すぐ持ち場へ戻れミルフィの騎士は私だ)


バーバリ副団長に礼を言われ、団員達の敬礼を受けたリゲルは、

もうすっかり気持ちが切り替わっており、一瞬でミルフィの元へ駆け寄っていった。





お読み頂きどうもありがとうございます。

面白かったよ続き早よ!と思って頂けましたら、

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誤字報告下さった方、大変助かりました、

どうもありがとうございます、感謝です。

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