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海が何個あろうとだからどうした

うっかりミスで、書き途中のほとんどを消してしまったショックで、なかなか書き直し出来ませんでした…。

読んでくださってありがとうございます。

「おい、私の執務室で転がるな」

「私のミルフィが可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」

「私は怒っているんだ」


研究所の改装許可の署名を貰いにディバルバイドの執務室に来たリゲルだったが、ワナワナと震え出したと思ったら突然床を転げ始めた。


ディバルバイドは驚いた。間蝶間者のたぐいに毒あるいは精神攻撃でもくらったかと直ちに王宮内の影と騎士と魔法術士を呼び寄せた。まさかリゲルがと思いながらも、心底心配して助けようとした。


それがまさか、婚約者を抱きしめた事を思い出して馬鹿のように悶えていただけと知った時のディバルバイドの心境たるや。


王の資質を存分に受け継ぎ、既に賢王の片鱗を覗かせ、クルルッカ氷洞並みに広い心を持つディバルバイドだが、流石にこれには怒った。

心配が大きかった分、立腹の度合いも上がってしまったのだった。


さすがにほんの少しだけ申し訳なく思ったリゲルは「すまない」と謝罪し起き上がったが、ものの数分でまた転げた。

何とか起き上がりながらリゲルは真面目な顔をして言った。


「私の腕の中にミルフィがいると、祝福の鐘の音が聞こえるんだ」

「それはよかったがいいか、私は忙しいんだ。書類を持ってさっさと帰れ。全く、まだ昼にもなっていないのにこの疲れようは全てお前のせいだぞリゲル」

「すまなかった。次からは何故か告げてから転げよう」

「お前何も分かっていないな、この部屋で転がるのは金輪際禁止だ」

「それは困る。私が気を抜けるのはミルフィ以外だとディバルバイド、お前の前だけだ。信頼する者の前だからこその行動なんだ。」

「良い話風にまとめて誤魔化そうとしても無駄だ」


そこに外からノックの音が響き、席を外していた事務官が入ってきた。


「おお、ガルガイア公爵子息様、先日の再結界の際はお世話になりました、国民一同心より感謝申し上げます」

「ああ」


宰相補佐という立ち場のリゲルは、本来ならいつも王太子執務室にいておかしくないのだが、その他の職務も兼任するリゲルはいない事の方が多かった。

それでも昔から王太子の元で働く事務官も多く、幼い頃からのリゲルも知っているので巷の人間ほどリゲルを前にしても緊張せず、割合どの事務官も気軽にリゲルに話しかけてくる珍しい場所でもあった。


「殿下、なかなか興味深い報告が上がってまいりました」


事務官はディバルバイドの方に向き合い、このまま話し続けても大丈夫か返事を待つ。それに対しディバルバイドが頷くのを見て話し始めた。


「どうやら始まりの海の果てに我が国の冒険家ジル・ランカスターと調査団が辿り着いたようです」

「ほう」


この世界には幾つもの国があり、内陸の各国の位置関係に関する地図はほぼ完成していた。だが内陸の果てや海の先がどうなっているのかは分かっておらず、海に接する国土を持つ国はそれぞれ冒険家や探査船を出していた。


それが今回、この国の有名な探検家ジル・ランカスターが幾度もの航海失敗・断念を経て、とうとう始まりの海の果てに未踏の陸地を発見したと連絡がきた。

しかもランカスターと調査団はそこで終わりにせず、その未踏の地に上陸し横断し始めた。三月ほど横断を続けていると、なんと潮の香りがしてきたらしい。

これは2の海があるに違いないと、私はそう確信しているという報告で伝書魔紙は締めてあった。


「ジル・ランカスターは始まりの海の果ての発見にとどまらず、2の海があるかもしれないという可能性まで見つけて参りました。これは非常に大きな発見です、多くの国が我が国の調査結果を是非にと希望してくる事でしょう」

「そうだな。他国と現在協議中の案件は、これで一気に優位に進める事が出来るだろう。良くやった、戻ったら褒美をとらせよう」

「はい、では諸々手続きを進めておきます」


事務官はリゲルにも頭を下げてまた執務室を出て行った。

扉がパタンと閉まるのをリゲルは無表情に見つめた。


何処までも探魔法が使えるリゲルは、始まりの海どころか2の海も3の海もある事を知っている。

人々は紙の地図の様に世界が平面で出来ていると思っているが、実はまん丸の球の様な形である事も知っている。

でも言わない、面倒だから。

言えば祭りのように騒ぎ立て、ミルフィと過ごす時間を邪魔されるだろう。世界を揺るがす発見だろうか、リゲルにとっては瑣末な事だった。


「…おいリゲル」

「なんだ」


2人の視線がお互いを見つめる。


「お前何か知っているな?」

「些々たる事だ、気にするな」

「お前…話す気が無いのか」

「話しても良いが、それを公表しろだの立証しろだの言われると面倒だ。その冒険家にやらせてくれ、私は無関係だ」

「一気にジル・ランカスターが気の毒になったな。誰も知らないと信じきって、今もこの先を解明しようという使命感で道なき道を進んでいるところだろうに」


じっとりした目でリゲルを睨むディバルバイドだが、リゲルは気にしない。


「何も気の毒ではない。実際ジル・ランカスターと調査団は何の予備情報も持たず己の勇気と体力で始まりの海の果てと新大陸を見つけ出したんだ。今後世界にそれを知らしめるのも彼だ。彼が正しく第一発見者だ」

「真の第一発見者にそう言われる冒険家を憐れに思うのは間違っているんだろうか…」


ディバルバイドは疲れたように目のあたりを片手でぐいぐい揉んでいたが、ハッとしたように顔を上げた。


「待て、おいリゲル、その一応未開である陸地や2の海に命を落とす様な危険はないだろうな?始まりの海にいた古代大海ヘビは?せめてジル・ランカスターには無事に戻ってきてもらわないと、お前に踊らされる彼を私は憐れに思ってしまう」

「お前誰よりもジル・ランカスターに失礼だが大丈夫かディバルバイド。安全の保証された調査団など無いと冒険家であるなら分かっているはずだ。だが安心しろ、まぁ大丈夫だろう」

「まぁだと?」

「陸地は知られた魔獣しかいない。始まりの海を渡り切る能力が有れば問題ない。2の海にはいるな、巨大な誰も見た事ないのが」

「いるではないか!喰われるぞ!」


珍しく大きな声を出すディバルバイドだったが、リゲルは大丈夫だという風に片手をひらりと動かした。


「2の海には海洋生物でさえ近づけないほど深い海溝がある。どうやらそこに古代大海ヘビより大きなサメがいるようだ。だが滅多に動かない大人しい魔獣だな、冒険家が出会う可能性はほぼ無い」

「古代大海ヘビより大きいサメ…もはや王宮より大きいのではないか?背筋が凍るな、大人しい魔獣で良かった…」

「まぁ何にしろ良かったなディバルバイド。この発見はこれから他国と交渉事があった時有利に使える」

「お前が申告していればもっと早くから交渉の武器に使えたがな」

「私はミルフィを愛でるために忙しい。これ以上仕事量を増やす気はない」


堂々と悪気なく言い切るリゲルを見て、ディバルバイドに新しい疑念が生まれた。


「おいリゲル…お前他にも何か私に言っていない、世界に知られていない事があるのではなかろうな?」

「…」

「例えば、クルルッカ氷洞の中がどうなっているか…とか」

「私は嘘は言わない」

「嘘の話はしていない。知っているかどうかだ」

「私は忙しいしミルフィを愛している。それだけだ」


何を思い出したのか、また突然床に転がり出したリゲルを見て、温厚なディバルバイドの額の血管が一瞬ぴくりと盛り上がったが、直ぐにそれもなくなった。


「まぁ、この国が安泰であるならそれで良い」



その後、しっかりと2の海を見つけてから帰還した冒険家ジル・ランカスターと調査団一行は国王陛下・王太子殿下直々に賛辞を賜り、過分と思われる程の褒美を受けたという。


特に王太子殿下からは心からの労いの言葉をかけられ、彼らはとても感激し、これからもこの国に尽くそうと誓ったのだった。






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読んで下さった皆様どうもありがとうございます。

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誤字報告下さった方、大変助かりました、

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