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聖女あわ雪

聖女あわ雪は、教わった通りきっちり背筋を伸ばし頑張ってほほほとお淑やかに笑っていたが、テーブルを挟んで目の前に座る美女の美女加減に心の中は大騒ぎだった。


(いや美!美が人の形してる!!はぁ、ミルドレッド様尊い。さすが異世界、貴族の皆さんの美しさったら本当尋常じゃないわね。ディバルバイド様も発光してるのかと思うイケメンだけど、ミルドレッド様ったら!ミルドレッド様ったら!!恐れ多くて同じ人間名乗れないレベルだよ…。

くっ、それなのにこの国の皆さんてば、“ミルドレッド様ってお美しいわよねぇ” じゃないのよ!何故平然と受け入れてるのよ!もっとガクガク震える程の美しさよ彼女は!!三次元なのに二次元の人おる!!

そりゃあ婚約者のガルガイア公爵子息様が守りに守り抜くはずだわ、納得だわ)


聖女あわ雪とミルドレッドのお茶会はとても和やかな雰囲気で進んでいた。

王宮の1番奥まった場所にある王族用庭園の四阿にテーブルが置かれ、王族付きの料理人が作った小さな薄焼きパンの上にロースト肉や果物をのせた軽食、さくさくのクッキーやケーキも用意されていた。2人は美しい芸術品の様なそれらに瞳を輝かせ話も弾んだ。


そんな中、どうしても気になるので、聖女あわ雪はミルドレッドの後方をちらりちらりと見てしまう。

そこには、渋々テーブルから少し離れてはいるがそれでも一瞬の隙も見逃さないと圧倒的な圧力をかけてくる、これまた圧倒的美形の護衛騎士が微動だにせず佇んでいた。

リゲルである。


リゲルがミルドレッドの望む事に反対なんて出来るはずもなく、歯をギリィ…と鳴らしながらお茶会でのミルドレッドの護衛騎士役を買って出た。

護衛として側につく許可が無ければ認められないと言うリゲルにディバルバイドも折れ、“絶対に茶会の邪魔はするなよ”と釘をさしながらも了承した。


はじめの挨拶の時にミルドレッドから、「本日の護衛騎士は私の婚約者なのです」と紹介して貰ったので、“ああこの方があの有名なリゲル・ガルガイア公爵子息様なのね”と聖女あわ雪は思った。


(この国についてのお勉強で先生が真っ先に真剣に教えてくれた、“リゲル・ガルガイア公爵子息様には近づかない方が宜しいでしょうね”の、あのリゲル・ガルガイアさんね!)


まだこの国に転移してきて2ヶ月ほどだが、その初めの頃には既にこの国の要注意人物としてリゲルの名前を教えて貰っていた。

国の宰相補佐を務め、頭脳明晰、容姿端麗、魔法の能力も過去イチのスペックもりもりのお方らしい。

そんなパーフェクトマンだが、婚約者をとにかく大事にしていて、彼女に少しでも火の粉がかかりそうになると、千倍返しの報復が待っているそうだ。


(怖すぎワロ)


「聖女あわ雪様。こちらの生活は如何ですか?私どもは心から喜び歓迎致しておりますけれど、その…元の世界にも大事なものがあったのでは…?」


ミルドレッドが気遣いながら聖女あわ雪に尋ねる。


「優しいお言葉ありがとうございますミルドレッド様。でも大丈夫なんです。私家族がいなくて、働きながら学校に通ってたんですけど日々の生活に精一杯で。毎日疲れたなーって思っていて、唯一の楽しみがただで読める異世界に行くお話を読む事だったんです」

「まぁそんな…大変だったのですね…。楽しみにできるお話があって良かったです」

「そうなんです。それで、私も異世界転移出来たらなーってずっと思ってたんです。まぁ現実問題あり得ないと分かってましたが、ほのぼの平和な国でのんびり暮らしたいなーって。

そうしたらこんな事になって私もビックリですけど、でも嬉しいです!」

「そう言って頂けるなら私達も息がつける思いですわ。私達にとって聖女あわ雪様は得難く大事な存在ですが、聖女様は突然別の世界に連れてこられてしまうんですもの、申し訳なく思っていたのです」


眉毛が下がり、憂いのある表情でミルドレッドがあわ雪を見つめる。

優しい人だなぁとあわ雪はじんわり温かく感じた。


「そんな。こちらこそ急に現れた怪しい人間を手厚く保護して下さって感謝しかないです、どうもありがとうございます。

それと、私ただの貧乏労働学生で聖女様なんてとんでもないと言うか…良かったらただのあわ雪と呼んでいただけたら嬉しいです!」

「まぁそんな」

「いや本当に!私この世界にまだお友達がいなくて、あの、もし大丈夫だったらミルドレッド様とお友達になれたら嬉しいです」

「そんな、宜しいのですか?私達にとって聖女様は神や精霊に次ぐ尊きお方ですから」

「いえ!私本当にそんな凄い方達とは別物なんで!皆さんの言う平和と安定を連れて来るっていうのも出来て無いかも知れないので…」

「まぁ、もしそうでも、私達は聖女あわ雪様にお会いできただけでも幸せなのですわ。突然異世界から来て頂いた客人なのですから、聖女あわ雪様が元気にお過ごしくださるだけで私達は頑張れるのです」

「ミルドレッド様…ありがとうございます…」

「とても恐れ多い事ですが、ではこれからは“あわ雪様”と呼ばせてくださいませ。私のことはミルドレッドと呼び捨て下さいね」

途端、後ろの壮絶美形護衛騎士がギンッとあわ雪に目を合わせ、そして細めた。


「ヒェ」

あわ雪の足元にピリピリした冷たい何かがじわじわと流れ込んでくる。そーっとミルドレッドの背後を伺ってみると、凄みのある美形が装飾の美しい護衛騎士の制服に身を包み、無表情でこちらを見つめている。とても怖い。


「あ、ありがとうございます。でも呼び捨ては難しいので、私はミルドレッド様と呼ばせて下さい」

「ふふ、ではもっと仲良くなりましたらその時は呼び捨てにして下さいね」

「はい、私も是非!ありがとうございます」


(ここここわ!こわぁ!!え、呼び捨てのくだりにキレた感じ?呼び捨て絶許?超美形の真顔って怖いんだなぁ初めて知ったわ…)


「そうだわ、私研究所で働いているのですが、先日新しい配合の薬草茶を作りましたの。とても爽やかで今の季節にぴったりのお茶なんです。あわ雪様宜しければいかがでしょうか?」

「え良いのですか、是非飲んでみたいです!」

「良かったですわ、王宮に献上してあるので直ぐ用意出来ます。私が淹れたいのでちょっと侍女長に確認しますね」


そう言うとミルドレッドは離れた場所で待機している使用人の側に自らが赴き何か話し始めた。にこにこと楽しそうだ。そんなミルドレッドを眺めていると、


「…聖女あわ雪殿」


あわ雪はびっくりして危うく椅子から落ちるところだった。

(声低ぅ、え、今の声って)


恐る恐る声のした方を見ると、美形護衛騎士リゲル・ガルガイア公爵子息様が見下ろす様にあわ雪を見ていた。


「改めまして、ミルドレッドの婚約者、リゲル・ガルガイアと申します」

「あ、てて丁寧にありがとうございます。あわ雪と言います、宜しくお願いします」


「先ずは聖女あわ雪殿、王立図書館でミルドレッドを見かけて茶会の相手に希望されたそうですが、何故ミルドレッドに目を付けられたのかお聞かせ願いたい」

「目を!?いや目を付けるとかそういうのでは決してなく、あの、あの、最初はとても美しい方だなと思って、ヒェ、いえ違います、やましいアレは全然全く無く憧れとか綺麗なものを見れて嬉しいとかそういうアレです本当です。そうしたらいつも熱心にお勉強されていて、それを見てお話してみたいな〜なんて、ヒェ、違います、本当にただ純粋にお友達になって貰えないかなと思っただけでして、ええ」

「純粋に?」

「ええそうですはい」

「ミルドレッドと友達に?」

「はいそうです!この世界で友達がいなくて寂しかったので」

「……フン」


(フンって言った!フンって鼻鳴らしたよこの人!!めっちゃ馬鹿にされてる!虫ケラ位に思われてそう!!)



「……聖女あわ雪殿にお伝えしたい事はただひとつ。

ミルドレッドに悪意を持って近づいたらそれ相応の対応を私がさせて頂く。ゆめゆめお忘れなきよう」


なんという事だろう、真っ向から脅されている。

普通はもうちょっと、なんかこう包むんじゃないのか。いやこの国にオブラート無いだろうけども。

ヒェエェと出かけた音を慌てて飲み込む。


(ファーストコンタクトでここまで敵意バリバリの人いる!?!?今にも消し炭にされそうなんですけど!!)


あわ雪は先生に聞かされた千倍返しを思い出し、お茶会に誘うというのはこんなに詰められる程の悪行なのかと疑問に思いつつも、今喋るのは危険だと察知して黙った。


親のない環境で粛々と日々を乗り越え、異世界を渡るという常ならぬ体験をしながらも生き抜く事の出来た天性の勘が、聖女あわ雪をリゲルから守っていた。



お読み頂きどうもありがとうございます。

ブックマーク、星の評価、拍手を下さった皆様に感謝です。


誤字報告下さった方、大変助かりました、

どうもありがとうございます。

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