ほんの少しだけ情緒がおかしい、ほんの少しだけ。
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4話までは短編と同じ内容、5話から新しく連載版のストーリーが続いていきます。
リゲル・ガルガイアは誰よりも美しい男である。
濡れ羽根のような艶のある黒髪に、海を思わせる深い瑠璃色の瞳は、貴族学校を歴代最高点で卒業した知性を確かに感じさせた。
すっと通った鼻筋は彫刻の様だし、少し薄い唇は動く度、いや引き結ばれていようとも人目を惹きつけた。
厚みのある肩は彼をより力強く見せ、しなやかな筋肉を纏った長身はさながら高貴な黒豹のように厳かな美しさを見せた。
「リゲル」
その上公爵子息である。
令嬢達は皆リゲルに憧れた、そう、一度は。
「ミルフィ、遅くなってすまない」
皆憧れ、そして諦観のこもったため息をついた。
なにせリゲルの目には、たった1人の女性しか映らない。
「遅くなんてないわ、いつもと違う場所をお願いしてごめんなさい、どうしても今日中に借りたい本があったものだから。お迎えに来てくださってどうもありがとう。」
「当然だよ、私はミルフィと共にある為に生きているのだから」
「まぁリゲル、今日も絶好調ね」
王立総合研究所の北と南を繋ぐ大廊下、そこに沿うように作られた王立図書館の扉の前で、リゲルは守るように1人の令嬢を迎えた。
リゲルの婚約者、ミルドレッド・ティリード公爵令嬢。
流れるようなさらさらとした銀髪と、けぶるまつ毛の下には菫色の瞳、小さな艶のある唇はいつも穏やかにほんの少し弧を描いている。
リゲルのガルガイア公爵家と並ぶ3大公爵のうちのひとつ、ティリード公爵家の長女ミルドレッド。
彼女こそが彼の最愛であり唯一である。
(ああ、今日も私のミルフィは可愛いな。今朝迎えに行った時の「朝ミルフィ」も最高だったが、今目の前にいる「お迎えミルフィ」もまた至高。私の愛の言葉を絶好調って、絶好調ってどうなんだミルフィ。だが愛や恋に疎いミルフィもまた良し。そんなミルフィに近付かんとする虫ケラ共には死を。気安く私のミルフィに近づけると思うなよ青二才どもがぁ!!!)
若干瞳孔が開きかけているリゲルを、ミルドレッドを除いた全ての人達はそっと見て見ぬふりをした。
リゲルが心の中で勝手に作り上げた仮想敵に圧倒的殺意を持って対峙している今、彼の周りには漏れ出た魔力が広がっている。
だが、彼の溺愛・執着を知らない者は、この国にミルドレッド以外いなかった。
だから魔王のような圧で周りを威嚇しなくて大丈夫ですよ、誰も取りませんよ、と周りの人間達は内心思う、でも言わない。触らぬ魔王に祟りなしだ。
同い年のリゲルとミルドレッドは、7歳からの婚約者同士である。
その頃から雪の妖精の様に可憐なミルドレッドの隣には、こどもながらに見目麗しいリゲルが、まるで護衛騎士さながらに常に在った。
そう、ちょっと、そんなに?というほど常に。
勘の良い者はこの時点で既に2人の、特にリゲルの邪魔をする事はなかった。
それでも勘が悪めの者や、貴族学校に入学したばかりの頃は、幾人かの男女がリゲルに、そしてミルドレッドに、あわよくば恋仲になれないだろうかと命知らずに挑んだ事もあった。
結果、その全ては瞬殺であった。
リゲルに言い寄った令嬢達は絶対零度の公爵子息スマイルで一蹴され、それでも諦めず言い寄った令嬢は、一月もせず他国への嫁入りが決まった。
ミルドレッドに下心をもって近付く男達は例外なくリゲルの圧倒的殺意ダダ漏れ魔力を浴び、その後二度とミルドレッドに近寄る事は無かった。
ただ、一度だけ、リゲルの殺意魔力を浴びる前に行動に移そうとした者がいた。
甘やかされて育った地方子爵のひとり息子で、妖精の様なミルドレッドに貴族学校で一目惚れした結果、金に物を言わせ集めた傭兵達でミルドレッドをさらい、子爵領地に隠してしまおうとしたのだ。
その計画はまさに実行に移さんとしたその日、突如現れた非常に統率の取れた戦闘集団によって完膚なきまでに叩き潰さた。
今もミルドレッドは何も知らない。
そしてその翌日、子爵家がひとつ、この国から消えた。
文字通り、子爵の邸宅ごとごっそりと消えた。
子爵家跡地となった、まだうっすらと土煙の上がる地べたには、執事以下全ての使用人達が何が起きたのかも分からず、呆然と座り込んでいたらしい。
そう、リゲルはまた、過去まで遡っても類を見ない程のこの国最高量の魔力も有していた。
どこから漏れたのかまるでさっぱり分からないが、消えた子爵家はどうやらティリード公爵令嬢の誘拐を計画していたらしい、と貴族達の間に静かに、けれど確実に早急に、何なら王家にも全ての平民にも伝わっていった。
その悪事を、ガルガイア公爵子息リゲル・ガルガイアは決して許さないだろうという事も。
皆思った。「あ、これあかんやつだ」と。
その事件を最後に、リゲルとミルドレッドに言い寄る者はピタリと居なくなった。
余談だが十数年後、この国のある貴族夫婦が旅行先の遠く離れた異国の地で、この子爵一家によく似た家族を見たらしいと、貴族の間では一時その話題で持ちきりになった。
何でもある日突然、その異国の街外れの空き地にまるで貴族のような立派な家が建ち、これまた貴族のような立派な服装の3人家族が現れたらしい。
文化の進みが緩やかで魔力を持たないその国の人達は、まるで魔法のようだと驚きながらも、大らかに彼らを迎えた。
その後彼らはその異国の地で穏やかに暮らし続けたそうだ。
ただ街の人に、魔力や魔術があるのなら是非見せて欲しい、と事あるごとにお願いされても一家は披露することは決して無く、特にその家の息子は、魔力と聞くだけで顔面蒼白になっていたらしい。
そしてこの異国の一家とはちっとも関係のない話だが、昔リゲルに断られても言い寄った後、あっという間に他国に嫁いでいった令嬢がいたが、彼女も急な嫁入りであったにも関わらず良い伴侶に恵まれ、同じく穏やかに過ごしたそうだ。
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