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婚約破棄? いいですよ。黒薔薇は魔王様が大好きですから!

作者: にのまえ

 ――困りましたね。


 黒薔薇が咲く魔王城の庭園での、お茶会の席で執事は困っていた。


 使い魔たちがせっせと薔薇が一番キレイにみえる場所に、セッティングしたテーブル。それに座るお二人の会話と、先程からお二人は一度も目を合わはない。


 我が主人――魔王は恋した彼女を前にして、照れてしまい真っ赤な顔で下を向く。


 ――魔王様のはじめての恋ですから仕方ありません。


 そして、向き合って座るお嬢様もまた真っ赤な顔ですね。


「あ、あぁ……あの」


「うっ、うう……はい」


 ーー魔王様、お嬢様それはモールス信号ですか?


 かなり重症のようです――かれこれ一時間はこの調子のお二人。私が入れたお茶はとう冷めてしまっているし。用意した高級茶菓子は庭園に住む、小悪魔と小魔物が美味しく食べてしまいましたよ。


 主人の側に立つ私は一呼吸おきこう思う。どっからどう見ても、魔王とお嬢様は両思いですよ、と。


「……あ、ああ、ノーク嬢」

「は、はい……魔王アーク様」


 ――仕方がありませんね。主人思いの私が助け舟を出しますか。


「魔王様、黒薔薇が綺麗に咲いております、お嬢様と散歩などいかがでしょうか?」


 私の提案に「それだ!」と思ったのか顔を上げたお二人。目と目があっただけで、さらに顔を赤くした。


「魔王様。私…………く、黒薔薇が見たいです……あう」


 ナイス! ノークお嬢様!


「そ、そうか? では散歩に行くか?」


 魔王がエスコートされて、庭園の散歩に行かれましたが――ガッチガッチのお二人。これは先が思いやられます。

 

 まあ、先は長いので徐々にでいいですかね。




 ♢




 ――時は遡る十年前。


 地下部屋の部屋にロウソクの灯りがともる。その地下の部屋の床には己の血でか書かれたのであろう、魔法陣が描かれていた。その前には頬が痩せこけ、目の下には真っ黒なクマのある男がいた。男の側にはいまから何が起こるのか分からず、お互いを抱きしめるように寄り添う、震える双子の姉妹がいた。


 この男は古びた魔導書を開き、己の血と爪を捧げ術を唱えた――その途端にバチッ、バチッと赤黒い稲妻が走り、魔法陣の中央に黒い霧が立ちのぼる。


「……術は成功したのか?」


 その煙の中――魔法陣の中央に絵画などで描かれる悪魔にひとしく似た。黒く整った髪と頭にねじれたツノを生やし、黒いタキシードと背に羽の赤目の男がいた。



 呼ばれた男――悪魔は赤い瞳を細めて呼んだ男に問うた。



「【我を呼んだのはドルドネス――お前か?】」


「はい、わたくし目がロマンス・ドルドネスでございます」


 ドルドネスは悪魔の前にひざまづく。


 この伯爵ロマネスク・ドルドネスは――多額の資金を株に投資したが失敗をした。金の切れ目が縁の切れ目というのか、金がなくなったと同時にドルドネスの妻は宝石、ドレス、金目の物を持って若い男と逃げ――伯爵には多額の借金だけが残った。



 妻に逃げられて、金もなく、ドルドネスは悩んでいた。何枚もの借用書が屋敷に届いたのだ。この男には金を貸してくれる親族もおらず、親しい貴族もいなかった。


『これからどうしたものか?』


 死ぬか、双子の娘を貴族に売るか悩んでいた。ある日――フラッと寄った街の古びた古本屋で見つけた魔導書。そこに書かれていた『なんでも、一つだけ願いが叶う』魔術――悪魔を呼ぶ方法が記されていた。呼んだ悪魔に願いを叶えてもらう代わりに、贄がいると魔導書には書かれていた。


 物は試しと――ロマネスクは金のかかる双子の姉妹を贄にすればいいと、神頼みではなく悪魔頼みをしたのだ。



 ――全ては己の野望のために。



「【して、お前は何を私に願う?】」


「どうか、このわたくしめに富と名誉をお与えください」


「【その願いの代償は? お前は私に何をよこす?】」


 ドルドネスは状況がわからず怖がり、嫌がる。双子の姉妹の手を掴み、この悪魔の前に引きずり出した。


「「きゃあ!!」」


 悪魔の前に連れて行かれた妹は泣きじゃくり、姉の背中にかくれる。姉は足を震わせながらも、妹を背に守りながら悪魔を睨みつけた。


「悪魔様――この双子の姉妹を貴方様に差し上げます」


「【ほほう】」


 悪魔は姉と妹を吟味するように、赤い瞳を細めて見据えた。


「奴隷でも愛玩具にでも、貴方様が思いのままにお使いください」


「お父様?」

「いやぁ!」


 悪魔は一人の少女を見て、笑みを浮かべた。


「【うむ、奴隷か、愛玩か……お前は中々に良い瞳をしておるな――わかった、主と契約をしよう】」


 ドルドネスは自分の娘を生け贄に悪魔と契約した。

 悪魔はその契約の証として姉の右手の甲にキスをおとす。その途端に姉の手の甲には、真っ黒な黒薔薇の紋様が浮かんだ。


「【これで、お前は我の妃だ】」


 震えながら、己の手の甲をみる姉を悪魔は見据え。


「【しかし――お前はまだ子供だな。いまのままでは、我は楽しめそうにないな。お前が大人になった暁に迎えにこよう。それまで大人しく待っていろ】」


 そういうと悪魔は魔法陣の中に消えていった。


 悪魔と契約後から数十年もの間。公爵ドルトネス家の事業は順調に財をなして――指折りの公爵家となった。


 ――お前、良い瞳をしておる。


 あの日。悪魔にそう言われて手の甲にされたキス。黒薔薇の紋章と赤い瞳の悪魔、あの男を好きになってはならない。


 しかし、少女はあの悪魔に心奪われていた。







 八年後――富と名誉を手に入れ伯爵から、公爵にくらいが上がったロマネスク・ドルドネス家。その双子の姉妹ノーク・ドルドネスとリーネ・ドルドネスも十八歳、年頃となった。



 春の花が香る庭園のテラスに姉ノークはいた。バサバサと羽の音が聞こえて、ノークは空を見上げ微笑んだ。

 

「フフ、お前はまた来たの?」


 読書中のノークの前に一羽の赤い瞳のカラスが、テーブルの上に置かれた、紅茶とクッキーを避けて舞い降りた。





 このカラスと会ったのは――今から一ヶ月前のこと。その日もノークはテラスで本を読んでいた。何処からかバサバサと羽音をだして、一羽のカラスが今日の様にテーブル降る。


『カラス?』


『はい、カラスです。お初にお目にかかりますノークお嬢様。ボクは魔王様の使いのカラスです』


 ――魔王?


 魔王の使いと名乗ったカラスは、悠長に人の言葉を話し、羽をつかい丁寧な会釈をした。


『あなた様の父――ドルドネスと契約して、はや十年の時が経ちます。年頃となったノークお嬢様を魔界に連れて行き。契約通り魔王――アーク様の妃になっていただきます』


 と、カラスは話した。


 突然のことに驚きながらも、ノークは赤目のカラスに問う『あの、私でよろしいのでしょうか?』と。


 カラスはニッコリ微笑み、コクコク頷き。


『ええ、アーク様はノークお嬢様がいいと申されております。右手の手の甲に黒薔薇の紋様がその証です』


 ――私の右手の黒薔薇のアザ。あの日のことは覚えている。お父様が地下室で呼んだ、悪魔に選ばれてキスをされた後に残ったアザ。このカラスが言うことが正しければ、あの悪魔は魔王……お会いしたいけど。


 私は。


『カラスさん、ごめんなさい。いまの私はマリンサ国――第一王子カイザン・マリンサ様の婚約者なのです……魔王様の妃になるのは無理な話です』


『いいえ、ノークお嬢様、無理ではありませんよ。魔族には幾らでもやり方があります』


 カラスはカラカラ笑った。ほんとうにロマネスクお父様が術で呼んだあの人の妃になれるの。暗いシルバーの髪、暗いブルーの瞳。舞踏会で相手にされず壁の花――このアザのため。不吉の黒薔薇嬢と呼ばれるノークが?


 次から次へとダンスの申し込みがある。フワフワなピンクの髪、パッチリした琥珀色の瞳、妹リーネではなく?


 社交界では夜空の月と真昼の太陽。

 ひくて数多の妹リーネと、壁の話の姉ノーク。


 妹のリーネはカイザンの婚約者、ノークがそば居ても大胆なドレスで彼を誘惑した。はじめからリーネに気があるカイザンは。可愛くて、甘え上手のリーネが好きだ。


『アーク様はノークお嬢様が良いと申されております』


 ――それが本当なら魔王様にお会いしたいわ。





 ほどなくしてノークは王城で働く、メイド達の噂を聞いた。王城の庭園をカイザンとリーネが仲良く散歩していたと。また、別の日には仲良く寄り添い、二人はカイザンの部屋に入っていく姿を見たと……


 二人が抱き合いキスをする姿を、見た者までいるのだとか。そして、カラスまで言い出す「あいつらは部屋で睦み合っているぞ」とあたかも見てきたかなように言った。


「……カイザン様とリーネが仲がいいことは、知っております」


 たくさんの噂を聞いても、ノークは悲しくなかった。お会いしてからカイザンはリーネを見ていたのだ。しかし――姉が先ということで陛下はカイザンとノークを婚約者とした。




『我らが主人、アーク様を好きになればいい』


「はい、好きですわ」


 と、言葉がスルッとでてしまい、真っ赤になるノーク。それを聞いてみて、カラスは驚きつつ話すのをやめなかった。


『そうか、そうか、アーク様は優しいぞ』


『これはアーク様からの贈り物だ』


『お前はアーク様の妃になる』


『アーク様は会いたいって、言っていたぞ!』


「……はやく、お会いたい」


 ――フッと、カラスは嬉しげに笑った。









『ノーク、喜べ。アーク様から黒薔薇の贈り物だ。この薔薇はアーク様の庭でしか咲かない珍しい薔薇です!』


 カラスから黒薔薇の花束をもらった。


「ありがとう、さっそく部屋に飾るね。とても嬉しい、凄く綺麗」


『そうか、喜んでいたと伝える』




 



 ――またある日は。


『ノークお嬢様、今日のプレゼントはドレスだ!』


 興奮したカラスに黒薔薇の刺繍とレースの真紅のドレスをもらった。そのドレスのお礼にと黒薔薇を刺繍したハンカチと、作ったパウンドケーキを作った。魔王に渡してとお願いしたのに、カラスはお腹すいたとパンケーキを全部食べしまった。


 あまりの見事なカラスの食べっぷりに、食べ終わるまで見惚れてしまった。


「カラス!」


『ボクの好きな味! このパウンドケーキ美味い』


 味を褒めて、可愛く笑うから何も言えない。


「そ、そう……良かった。このハンカチは持っていってね」


『わかってる』




 初夏を迎える頃には、カラスと過ごす日々が楽しくて、部屋の中でも一緒に過ごしていた。


「「ノークお姉様!」」


 とつぜん部屋の扉が乱暴に開き、妹のリーネが断りもなく部屋に押し入ってきた。とっさにカラスを自分の背に隠したが、見えたはずのリーネは言わず話しだす。


 ――あれ、妹にカラスは見えていないの?


「聞いてる? ノークお嬢様!」


「ええ、聞いているわ」

 

 この様子だと、リーネにカラスは見えないみたいで、ほっとした。


『面倒なのが来たな。ノーク嬢、いまからボクとの話は心の声で話せ』


『わかりました』


 一応は姉として、妹の行動は"淑女らしかぬ"として注意をする。リーネが外でもこのような行動をすれば、他の貴族の反感をかってひまうから。妹のことを思いノークははっきりという。


「リーネ、いきなり扉を開けてはダメよ――扉の前で一旦落ち着いてノックしなさい」

 

「ごめんなさい。ノークお姉様にどうしても見せたかったの」


 反省したのかしていないのかはわからないけど。リーネは可愛く笑い、近々開催される王子誕生祭の、舞踏会で着るピンク色のドレスを見せた。


「まあ、素敵なドレスね」


 そうノークが言えば、リーネは花が咲いたように笑い。


「そうでしょう、お姉様。――フフッ、このドレスはね、カイザン様が私のために作ってくれたの。このネックレスも指輪もプレゼントしてくれたの。お姉様、羨ましいでしょ?」


 と、見せびらかすように見せてきた。


『クックック、王子からのプレゼントだって』


『そう見たいね』


 リーネの魂胆はみえみえ――落ち込む私の顔が見たいのね。悪いのだけど、はじめから王子をお慕いしていないので――ご期待に添えない。


『よっ!』


『ちょっと、カラス!』


 いくらカラスの姿が見えないからって、リーネの頭に乗って踊らないで――面白い。手を口にあてて、笑うのを我慢してうつむいたら、勘違いしたリーネはニヤニヤ笑い自信満々に聞いてくる。


「ノークお姉様、羨ましいでしょ?」


 ――ああ。この子は……いうまで帰りそうもないから、カラスがまだ頭の上で踊るなか言ってあげた。


「えぇ、とても羨ましい」


 リーネは待っていた言葉を聞けて、瞳をキラキラさせて嬉しそうに「お姉様、ごめんね。私の方がカイザン様に愛されてしまって」ですって。


 満足して部屋を出ていくリーネを見送った、姿が見えなくなってからカラスは嘲笑い。


「ありゃ、あほだな。周りがちっとも見えていない」


 呆れた声を出すから、


「そうね、弁解の余地がないわ」

  

 と、本音がスルッとでた。




 またまた別の日。カラスとテラスでお茶をしていた。ところにリーネが頬を赤らめて走ってくる。


 ――その顔、また何か言うのね。


「そんなに慌てては転んでしまうわ。リーネ、どうしたの?」

 

「ノークお姉様、どうしたらいいの? カイザン様にキスされてしまったわ!」


 ヘッ、キス? ――今さらキスの話? ……あなた達はそれ以上の事も、カイザンの部屋でしているでしょうに。


「……そう」


 と、だけ言って、目を伏せた。その悲しそうにする姿を見てリーネは満足そうだ。カラスは呆れた瞳と呆れた声で。


『お前の妹はありゃ、頭の中、お花畑だな』


『えぇ、お花畑ね』


 二人が愛し合うのなら、婚約者を交代すればいいのだけど。しかし――この婚約は国王陛下に決められた、いわば勅命での婚約。そう簡単に婚約破棄は出来ない。二人がそろって『自分達は愛し合っている』と、陛下に物言いをしてくれればいいのだけど。




 あれから毎日のように訪れるリーネに、カラスはイライラしたらしく。


「ええい、毎日、毎日うっとうしい! ノーク、全部を捨ててアーク様の所に行こう!」


 と言いだす。


「私だって行きたいけど。行くのは王子の誕生祭の後にね。あの二人がその日に向けて、何か考えているみたいなの」


 屋敷でリーネとすれ違うたびに「カイザン様の誕生祭楽しみね」という。はたまた食事のときも「早く来ないかなぁ」と私をみながらいう。その席にいるロマネスクお父様は興味がないらしく、なにも言わない。


「じゃー、その日で決まり。アーク様に伝えておく」


「うん、カラス。よろしくね」




 そして迎えた――カイザンの誕生祭。


 この日。魔王に頂いた黒薔薇のアクセサリーと、黒いドレスを着付け、エスコートもなく会場に一人というか(肩にはカラスがいるのだけど)名前を呼ばれて入場した。先にカイザンにエスコートされて、入場していたリーネは、一人のノークをみて勝ち誇ったような顔をした。


『嫌な奴』


『それも、今日でおしまいでしょう?』


 カイザンとリーネはワイン片手に前にくると。とつじょ、リーネはカイザンの後ろに隠れて怯え流ふりを始めた。



 ――リーネ、何か企んでいるのね。



 ノークは気にすることなくドレスを掴み、カイザンにカテーシーをした。


「御生誕おめでとうございます、カイザン王子殿下」


「ありがとう。ひとつ君に聞きたいことがある。君は屋敷で、私のリリをいじめていると言うのは本当か?」


 私のリリ? カイザンは公の場で妹を愛称のリリと呼んだ。王子と私はまだ婚約者――カイザンが妹を"私のリリ"と呼ぶにはまだ早すぎるし、誕生祭に訪れている貴族達に混乱を招く。


「妹をいじめる? カイザン王子殿下、私はリーネをいじめてなどおりませんが?」


 カイザンに向けて言えば。後ろに隠れているリーネは、バッと顔を出して反論した。


「嘘よ! ノークお嬢様は私のお化粧箱を隠したわ」


 化粧箱?


「ああ、アレね。隠すも何も、リーネがすぐに色々とお化粧品を無くすんじゃない。お化粧箱の中身もぐちゃぐちゃだから、いつも整頓しているのは私よ」


 ほんと困る。リーネはすぐ物を無くすから、いつも整頓していた――これは、本当のことだからリーネはグッと言葉につまってけど――すぐにニヤニヤ笑い。


「ゆ、夕食のとき、私の料理を勝手に食べたわ」


「それは……あなたが嫌いなものを私のお皿に入れるから。仕方がなく食べただけよ」


『何がいじめだ? 内容がアホすぎるぞ!』


『……ほんとう、そうね。頭が痛いわ』


 公で――何を言うのかと思えば、こんな幼稚な事。


(リーネの考えが浅すぎる、あほの子かしら? まぁ、二人は私の見ていないところで、色々とおイタしているみたいだし。このまま、くっ付いてくれればいいわ)


 カイザンとリーネ、ノークを貴族は囲み、ざわつく会場で。あ、っと。わざとらしく手を叩き。


「いいことを思いつきました、カイザン王子殿下に提案いたしますわ。――私は妹をいじめておりました。理由はカイザン殿下を妹のリーネに寝取られて、憎くて憎くてたまりませんでしたの。……で、どうでしょう?」


「なっ!」


 この時――誕生祭の会場にちょうど訪れた国王陛下と王妃は瞳を大きくして、貴族はザワザワざわめきだす。カイザンはリーネとの情事を両親に知られたと――事態の大変さを悟ったのか顔を青くした。


 リーネはそれに気付かず、カイザンの袖を掴み。


「ねえ、カイザン。私はいじめられていたでしょう? ノークお姉様を国外追放してよ!」


「馬鹿なことを申すな! ノーク嬢は何もしていない……簡単に国外追放など出来るわけないだろう!」


「なによ! 昨日ベッドで"お姉様を国外追放できるって"言っていたじゃない!」


 王座で二人を睨む陛下と王妃。もう後戻りのできなくなった二人――それを嘲笑う声が会場にこだました。


「【クックック。いつの余も――人間は浅はかで、愚かでバカすぎだな】」


 私の肩の上でカラスはあざけ笑い、翼を広げ、肩から飛び立つと。貴族達にもカラスの姿が見えたのか、会場内に悲鳴が上がる。会場を警備する騎士たちが集まり、カラスを捕らえようとした。

 

「【ノロマだな――我は捕まらんよ。ところでカイザン――本人がいじめていると申すのだから、良いではないか? 我はノーク姫を国外追放してくれると、ありがたい?】」


 凛とした声と会場に黒薔薇の花びらが舞い。カラスは真っ黒な角の生えた男性に変わり私を見下ろした。


「【ノーク姫、この姿で会うのは二度目だね】」


「…………っ!」


 お付きの者だと思っていたカラスは――実はあの日の悪魔に変わった。呆然と見つめているとカラスは笑い、手を取り手の甲にキスをした。


 ――ああ、ジワリと黒薔薇が熱い。




 ♢




 騒ぎ立つ会場で見つめ合うノークとカラス。その二人の間に割って入ってきたのは妹のリーネだ。


「あの、私の事も覚えていますか?」


 リーネも昔のことを思い出したのか? それとも――カラスの容姿がカイザンよりも美形だったからか、リーネは私を押しのけカラスの前にでた。


 そんな姿に、カラスはクスッと笑い。


「【うむ、お前の事は知っておるぞ!】」


 自分を覚えていたと知りリーネは頬を赤らめて、とびきりの男を落とす笑顔を向け。


「嬉しい! 私が貴方の妃になるリーネです」


 カラスに抱きつこうとしたが、表情を変えず避けられて、リーネは床に頭から落ちた。その姿をクッククと笑い見下ろすカラス。リーネは膝をついたまま、涙目でカラスを見上げた。


「ひ、ひどい、私は貴方の妃なのに!」


 それに首をかしげるカラス。


「【ん、違うだろう? ……お前はノーク姫の婚約者を寝とった女だ】」


「そ、それは姉にやれと言われたんです」


 ――私? よくもまぁ、次から次へとリーネは嘘が思いつくわね…………呆れて物が言えない。それはカラスも同じだったみたいで、呆れた表情を浮かべた。



「【ノーク姫、こいつ大嘘つきだな。リーネがカイザンを誘い、部屋で裸のまま睦み合う姿を我は見た。また違う日には濃厚なキスもしていたぞ?】」



 カラスに指摘されて、顔を真っ赤にしてリーネは押し黙る。



「【ここに用はない。ドルドネス、約束の通り姫は貰う。さて行こうか、ノーク姫】」



「はい。――カイザン様、婚約破棄に必要な書類です。後はよろしくおねがいしますね!」


 

 書類を置くと二人は手を取り合い、黒薔薇の花びらと共に会場から消えた。



 騒ぎ立つ舞踏会の会場に残るリーネは。その場から逃げようとしたが、騎士に捕まり別室に連れて行かれる。リーネと情緒を働いた第一王子カイザンと――男性と共に消えてしまったノーク嬢は婚約破棄に必要な書類もあり、すぐに婚約破棄となった。


 しかし、陛下の怒りは消えず。ドルトネス公爵は国王陛下の勅命を破ったとして、爵位剥奪。父娘共に約一ヶ月、牢屋に監禁の後に国外追放された。第一王子カイザンはひとまわりも年上の隣国の姫と政略結婚した。

  




 魔界の黒薔薇の庭園。


「我がカラスで――魔王アークだ。ノーク姫、よろしく」


 魔王城に着いた二人はお互いの自己紹介の後。蔵薔薇が咲く庭園でテラス席についた。そのテーブルの近くには黒いツノと黒髪の、魔王の右腕の執事が立っている。


「ノーク姫、紅茶を飲むかい?」


「はい、いただきます」


 執事にお茶を入れてもらい、その後の二人の会話が弾むかと思ったが……まったく続かない。


「……あっ、あ、魔界にようこそノーク姫」


「魔王アーク様、お招きありがとうございます」



「「………………。」」



 二人のそばに立つ執事は思う。アーク様は使い魔のカラスとして、ノークお嬢様のそばにいた時は普通に話せていたはず。


 しかし、本来の――魔王としてのお姿でノークお嬢様と話す。と、なったときに、


 ノークに会いたかった。

 ノークが大好きだ。

 ノークをずっと思っていた。


 など、気持ちが昂ってしまったのですね。


 それに、ノーク様の笑った顔が可愛らしいのも原因ですね。



 十年前――呼び出しに興味本位で乗り、その場にいたノークお嬢様に一目惚れをなさった。まだ幼い彼女を妃に迎えたいと願ったが。この後数年――魔界でイザコザがあり向かいに行けず。その間に人間の王子と婚約してしまわれた。


 ――我は彼女の幸せを祈るよ。


 落ち込んだアーク様――しかし、彼女の妹リーネとの情緒を知り、怒り、彼女を迎えに行くと決められた。そして、愛してやまないノークお嬢様を魔族界にお連れになった。――なんと、おめでたいこと。


 いま黒薔薇の庭園を緊張し、辿々しく会話をして、歩くお二人。私と、周りの薔薇の中に隠れた魔族達は優しく見守っております。


 ――ファイトです、アーク様!

 

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