男は美しさよ。美しさ。欲しい物は手に入れろ。強欲皇女の恋物語。
この物語は、欲しい物は何でも手にいれたジルド大帝国の女帝ヘルディーナの若い頃の物語である。
ヘルディーナは幼い頃から、我儘放題に育てられた。
ジルド大帝国の皇帝ガイドルの唯一の娘であり皇女ヘルディーナ。
皇帝ガイドルは皇妃ユリーヌの事をとても愛しており、側妃を持たなかった。
皇妃との間に出来た唯一の子がヘルディーナだったのである。
だから、周りは皆、ヘルディーナの事を甘やかした。
未来の女帝ならば、本来は厳しく育てねばならないはずなのだが。両親共々ヘルディーナが可愛くて可愛くて。何でも買い与え、それはもう可愛がった。
「お父様。わたくし、あれが欲しいわ。わたくしの結婚相手はあれよ。」
小さい頃から、行事がある時に警護に当たってくれた憧れの男性を父である皇帝に強請り続けた。
父であるガイドル皇帝は笑いながら、
「お前が年頃になったら考えてやろう。」
子供の我儘と片付けて本気にしてくれなかった。
どうも護衛騎士たちの話によると。隣国の第二王子を結婚相手に考えているとの事。
帝国に何度か遊びに来たことがある第二王子。
背の低くて口下手で冴えない同い年の彼の事を好きになれなかった。
そんなヘルディーナも16歳になった。ヘルディーナは今日もうっとりと夜会に現れた憧れの男性を見つめる。
ジルド帝国の騎士団長ディーアルト・ハレギウス公爵。男でありながら帝国の華と言われている位の美しさを持つ騎士団長であった。
長い金髪を腰まで伸ばして、竪琴を奏で、学問にも秀でていて、帝国の全女性の憧れの的だった。
ヘルディーナは茶色の髪の冴えない容姿である。それ程、美人と言う訳ではない。そばかすが顔にあって気になる年頃だ。
そんなヘルディーナでも、ディーアルトの事を見るとドキドキする。
欲しい物は何でも手に入れる事が出来た。
ディーアルトだって手に入れたい。
ディーアルト・ハレギウス。未だに独身である。
皇宮主催の夜会の大広間。
そこで大勢の女性達に囲まれてにこやかに応対しているディーアルトの傍に行き、ヘルディーナは命令する。
「ディーアルト。わたくしと婚姻しなさい。」
小さい時からの憧れだった。
もう、我慢出来なかった。
ディーアルトは柔らかな微笑みを浮かべて。
「これは皇女様。申し訳ございませんが、私の一存では。どうかそのようなお話は皇帝陛下に申し出て下さいませんか。皇帝陛下の命とあれば、従おうと思っております。」
ディーアルトを囲んでいた令嬢達が口々に、
「ディーアルト様を皇族の権限で結婚を強要するだんなんて。」
「本当に冴えない皇女の癖して。」
「まったくねえ。」
色とりどりのドレスで濃い化粧をした高位貴族の令嬢達は不敬極まりない事を堂々と言ってくる。
ヘルディーナは怒り狂って。
「わたくしは皇女よ。将来は女帝になるのだわ。貴方達、わたくしが女帝になった暁にはただではおかないんだから。」
すると、一人の公爵令嬢エレンシア・ミッティリエルクが豪華な真っ赤なドレスに身を包み、扇を手に近づいて来た。
金色の髪が波打って、それはもう美しき容姿の令嬢で、ヘルディーナは自分より背が高く、
スタイルのいい令嬢を見上げていれば、扇を口元に当ててエレンシアは笑いながら、
「オホホホホ。お子様は嫌だとディーアルト様はおっしゃっておりますわ。」
あああああっ…悔しい。悔しいわ。
自分はちびだし、ドレスも古臭いデザインの…濃い茶のドレスで。
ド派手な色のあまり品のないドレスを着る事は反対されて…
わたくしだって華やかなドレスを着たいのよ。
負けじとエレンシアに言い返す。
「今はお子様かもしれないけれども、すぐに大人になるわ。」
「あらそう?ディーアルト様。竪琴を聞かせて頂けませんか?」
ディーアルトは微笑みながら、
「喜んで。」
夜会に用意されている席に座り、手に竪琴を持ち弾き始めた。
大勢の令嬢達がうっとりとその竪琴の音色に耳を傾ける。
あああ、さすがディーアルト。素晴らしい音色だわ。
しかし、しかしよ。なんて絵になるあの二人。
ディーアルトの隣にしっかりと陣取り座るエレンシア。
美男美女の二人は絵画のようで。それはもう、きぃいいいいいいっとなる程の悔しさを感じヘルディーナ。
ともかくともかくよ。
父上に頼んで、どうにかしてもらわないと。
ヘルディーナは父であるガイドル皇帝に、
「父上っ。どうしてもディーアルトと結婚したいのです。」
ガイドル皇帝は首を振って、
「お前は隣国から第二王子を迎える事に決めてある。」
「ええええっ。小さい時からディーアルトが欲しいって言っているじゃないですかっ。父上っ。」
「隣国との関係を良くするためにも、第二王子をお前の王配に迎え入れるしかないのだ。」
「嫌ですっ。わたくしは絶対にディーアルトと結婚するのっ。」
翌日、耐えられなくなって騎士団事務所へ顔を出してみる事にした。
どうしてもディーアルトと結婚したい。
こうなったら、強引に関係をっ。きゃっ…
わ、わたくしだって、そういう方面の知識は少しはっ。うきゃっ…
護衛騎士に頼み、馬車を出して貰い、騎士団事務所へ行って貰った。
王宮の近くに騎士団事務所がある。騎士団長はそこでいつも勤務しているはずである。
事務所へ行けば、ディーアルトは隣接する騎士団演習場で騎士団員と共に鍛錬をしていると言う事なので、そこへドレスの裾を翻し、急いで行ってみる事にした。
護衛騎士の二人が慌ててついて来る。
「ヘルディーナ様っ。転びますよう。」
「本当に、足だけは速いっ。」
ぶちぶち言う二人より先に演習所へ行ってみれば、沢山の騎士達が馬を駆って、剣を合わせて、戦いさながらの訓練をしていた。
ディーアルトはどこにいるのかしらっ。
きょろきょろと探してみる。どこどこどこ????彼はどこにいるのっ?
見つけられない。あの美しき長い金の髪は目立つはずだ。
どこよどこよどこよっ。
長い金髪の男性なんて見当たらない。まるで解らない。
演習が終わって騎士団員達が馬を引いて出口へ向かって歩いて来る。
ちらりとヘルディーナの方を見る人もいるが、皇女だと解らないのか。
確かに、ただでさえ冴えない容姿に今日は化粧も慌てたのでしていない。
ファンの一人だと思って気が付かないのであろう。
護衛騎士達が追い付いて来て、一緒にディーアルトの姿を探してくれた。
「どれでしょうねぇ?」
「解りませんね。あの…ディーアルト・ハレギウス騎士団長に用があるのですが?」
ナイスっ。護衛騎士ジャック、良くぞ聞いてくれた。
騎士団員の一人が後ろを向いて、
「ディーアルト騎士団長。お客様ですよ。」
すると。黒髪の精悍な顔立ちの男性が近づいて来た。え???あれ?あれれ?
「お待たせしました。私がディーアルトだが。どちら様かな?」
ヘルディーナは自分を指さして、
「私私私っ。わたくしよっーーー。ヘルディーナ。今日は化粧していないから解らないかもですけど。」
「ハハハハハ。解りますよ。化粧してもしていなくてもヘルディーナ様はあまりかわらな…」
「ちょっとっ。無礼でなくてっ。アンタ誰っ?ディーアルトを出しなさいよっ。」
「俺俺俺っ。いや。私だ。私がディーアルトだが…」
「違うっーーーー。ディーアルトは、金髪でそれはもう美しいすみれ色の瞳の…竪琴が似合う美男であってアンタじゃなーーーいっ。」
すると男は困ったように髪を掻いて、
「今日は化粧をしていないからな。」
「えええええっ?け、化粧っ?」
「カツラも被っていない…」
「カツラっ???カツラだったの????」
驚いた。あの美しき顔も…長くて綺麗な金の髪もカツラ???
ディーアルトは頷いて、
「あんな長い髪で戦場に立てるか。私は嫌だったんだが、皇家の命でな。騎士団の代表たる騎士団長は美しくなくてはいかん。どうも他国で美しくて有名な騎士団長がいるらしい。それを聞いた皇妃様がそのような法律を作りやがって…いえ、作りなさったので、仕方なく。黒髪の上にカツラを被って変装して。竪琴も弾けるように、美しき騎士団長を演出していたのだ。」
「しょ、ショックだわ。」
自分の冴えない容姿を棚に上げまくって…ヘルディーナはショックだった。
小さい頃からの憧れの…あれ?ディーアルトって何歳よっ??
「ディーアルト、貴方、わたくしが小さい頃から騎士団長だったわよね。何歳よっ。」
「今年で30歳だが…騎士団長になったのは5年前だ。皇妃様の命で騎士団長は美しくなくてはいかんと、前の騎士団長は首になった…」
いいんかいっ。母上っ。そんなんで騎士団長を選んでっ…
しかし、しかしだ。
30歳になったらもう結婚していてもおかしくない年頃…
「まさか実はもう妻子がいるって事ではないわよね。」
「あああ…残念ながら、仕事が忙しくて、そろそろ結婚相手を探そうかと思っていた所で。」
「んなら、わたくしと結婚しなさーーーいいっ。」
ディーアルトにしがみつく。
ディーアルトの顔を見上げれば、困ったように、
「皇帝陛下が許さないでしょう。皇帝陛下の命とあれば従いますが。それに私は実際はガサツな男で…金髪で竪琴を引くのは演技であって、書を嗜むのは好きですけれども。」
「今の顔も好きっーーーーー。それにディーアルトはわたくしの警護の時、親切にしてくれたわっ。気遣ってくれたわ。だからだから、あああああっーーー。そうか。エレンシア様がいいんだ。ボンキュースポーーーンンだもん。わたくしは胸が無いし。ちびだしっ…あんまりだわっーーー。男はボンキュースポーーーンがいいんだ。うわーーーーーんんっ。」
「ヘルディーナ様っ。」
優しく抱きしめてくれるかと思ったが、ディーアルトは一言、
「ボンキュースポーーンでは脱げてしまいます。衣服が…」
「そこかーーーいっーーーー。」
ともかく、まずはディーアルトと婚約をしないと…
話は始まらない。
皇宮に戻ると、母であるユリーヌ皇妃に、
「母上っ。父上を説得して下さいませんかっ。わたくし、ディーアルトと結婚したいのです。」
ユリーヌ皇妃は、
「ディーアルトは化粧をしてカツラを被っているのよ。わたくしの命で。それは知っているのよね?」
「先程知りました。それでも、ディーアルトと結婚したいのですうっ。」
「仕方がないわね。ではわたくしからも皇帝陛下に頼んでみましょう。」
母と共に、父の元へ行けば、ガイドル皇帝は執務室で座って何やらゴソゴソと見ているようだった。
ヘルディーナは駆け寄って。
「父上っ。また、エッチな絵姿を見ていたんでしょう。」
ユリーナ皇妃も駆け寄って。
「貴方っーーーー。そんな下賤な絵姿を買って。どうして男ってボンキュースポーンがいいのかしら。」
あああーーー。ヘルディーナは思った。ボンキュースポーンって母上の言葉だったんだ。
するとガイドル皇帝は絵姿のカードをニヤニヤしながら、
「スポーンがいいのだ。スポーンが。しかし、レアカードがなかなか出ないな。無修正のレアカード。もっと規制を緩めてレアカードの枚数をふや…」
スコーンと音がして、ユリーナ皇妃がガイドル皇帝の頭を扇でぶっ叩いた。
「貴方っ。ヘルディーナの結婚の件なのですが、ディーアルトと結婚させますよ。宜しいですね。」
「隣国の第二王子は…」
「他の方法を考えて下さいませっ。わたくしもディーアルトのファンなのです。あんな素敵な息子が出来るのならそれはもう…」
「浮気ではないのかっ???」
「貴方だって、エッチなカードをっ。」
ヘルディーナはこっそりと部屋を出て行った。
父と母の喧嘩はものすごく長いのだ。
しかし、ディーアルトと結婚出来る事になって嬉しかった。
さっそくディーアルトに知らせに行こう。
護衛騎士を叩き起こして、(時間は夜遅かった。)
馬車を用意させ、ハレギウス公爵家にお出かけする事にした。
「皇女様っ。もう夜中ですよ。騎士団長だって寝てますって。」
「そうですよーー。」
「寝ていらっしゃるのなら、わたくしっ添い寝をばっ。」
ヘルディーナはドキドキしてしまう。あああっ。恋する乙女を止める物はいないのよっ。
ふと、目の前を見ると見覚えのある豪華な紋章が着いた馬車。あの馬車はっ…
ミッティリエルク公爵家の紋章。
あのボンキュースポーンのエレンシアの家の紋章だ。
おのれっーーー。エレンシア。夜這いをかけるなんて。人の婚約者をっ。(まだ婚約はしていない・注)
護衛騎士のジャックに声をかける。
「ジャァアアアアアアアク。あの馬車を追い越してっ。」
「いえいえ、馬車は安全運転で走らせることが法律で。」
「うるさぁーーい。ボンキュースポーンに負けてもいいと?命令ですっ。あの馬車を追い抜きなさい。」
「解りましたよ。」
すんごい勢いで馬車は走る。
隣に座っていたもう一人の護衛騎士チャールズが窓から顔を出して悲鳴を上げて、
「あちらの馬車もスピードをあげてますうううっ。」
ヘルディーナは叫んだ。
「負けるな。負けたら減俸っ。休みなしぃっーーーー。」
ジャックは馬に鞭をくれて、前のミッティリエルク公爵家の馬車を追い立てる。
ミッティリエルク公爵家の馬車もスピードを上げて、
(ちなみにあまり広い道ではない…・注)
凄い勢いで二台の馬車は夜中の道を疾走し、あっという間に目的地のハレギウス公爵家に到着した。
しかし、前を走っていたミッティリエルク公爵家の馬車は凄い勢いでハレギウス公爵家の前を通り過ぎて行った。
護衛騎士ジャックが馬車を止めて、
「着きました。ヘルディーナ様。」
馬車があまりにも早く走ったものだから気分が悪い。
「凄い勢いだったわーー。」
護衛騎士チャールズもフラフラして、馬車から降りて。
「本当に目が回った。」
ジャックが首を傾げて、
「しかし、ミッティリエルク公爵家の馬車は行ってしまいましたよ。」
ボンキュースポーンはどこに用事があったのだろう?ここではなかったのか。
いやいい。さぁ夜這いだ。夜這いっ。
しかし、黙って忍び込む訳には…中に入れて貰おう。
呼び鈴を鳴らす。
公爵家の使用人が出て来た。
「ヘルディーナと申します。ディーアルトに会いに来たって伝えて頂戴。あ、夜這いに来たので、部屋に通して頂戴。」
使用人は慌てたように、
「ご主人様に知らせてきます。」
と屋敷の中へ引っ込んで行った。
しばらくして屋敷の中へと言う事なので、客間へ通された。
護衛騎士達と椅子に座って待っていれば、ディーアルトが現れて。
黒髪で精悍な顔つきのディーアルトがガウン姿で、前の椅子に腰を掛ける。
胸元から覗く筋肉が…筋肉がっ…
美しいディーアルトもいいけれども、これはこれで又…スポーンしてほしい。いや何でも…
「ディーアルト。夜這いに来たのです。ベッドに案内しなさい。」
「はい????夜這いですか?」
「そうです。夜這い。それとも。ベッドに他の女が…もしかして、エレンシアっ。エレンシアがスポーン姿でっ。それとも男っ?それとも熊のぬいぐるみっ???」
「いやいやいやっ。どれも無いから。私とヘルディーナ様は婚約者でもありません。皇帝陛下のお許しも得ていませんし…」
ヘルディーナは断言する。
「近いうちに皇帝の命が出るでしょう。貴方はわたくしと結婚し、先行き王配になるのです。
わたくしはジルド大帝国の女帝。光栄な事でしょう。」
テーブルの上に乗り、ポーズを決めれば、護衛騎士達が拍手をしてくれた。
ディーアルトはヘルディーナの手の甲に口づけを落とし、
「皇帝陛下の命とあれば、喜んで、ディーアルト・ハレギウス。ヘルディーナ様と婚姻し、先行き王配になり、ジルド大帝国の為に尽くす事を誓います。」
うふふふふ。やっと手に入れたわっーーー。
ニヤニヤが止まらない。
「それならば、今夜はこれから夜這いします。お部屋で待っているように。」
ディーアルトはにっこり笑って、
「ジャック。チャールズ。皇女様を皇宮までお送りして。ご用は終わったのだから。」
「「了解しましたーー。」」
ヘルディーナは叫ぶ。
「ええええっ???これから夜這いっーーー。夜這いなのよぉーーー。」
何故か毛布で簀巻きにされて馬車へ放り込まれた。
ディーアルトは馬車に放り込まれたヘルディーナに向かってにこやかに手を振って、
「又のお越しを。おやすみなさい。ヘルディーナ様。」
「ディーアルトぉーーーーー。」
その日は皇宮へ(強制的に)戻るヘルディーナであった。
しかし、しかしだ。
ガイドル皇帝の、父の許可が下りて、正式にヘルディーナはディーアルトと婚約を結ぶことが出来た。
夜会でディーアルトに手を引かれエスコートされるヘルディーナ。
ディーアルトは化粧をし、金の長い髪のカツラを被って黒の貴族服を着て、それはもう美しくて。
ヘルディーナも濃い化粧をし、髪を巻いて貰い、赤い華やかなドレスを着て、ちょっと頑張ってみたのだった。
(地味なドレスは嫌だと、駄々を捏ねて真っ赤なドレスを着る許可を得た。)
エレンシアも真っ赤なドレスを着て、近づいて来て、
「どんな手を使ったのかしら。ちびの癖に。」
ヘルディーナはオホホホホホホホホホ。と高笑いし。
「それはわたくしが皇女だからですのよぉ。女は見かけで無くて権力。権力ですわぁ。今日のわたくしは美しいですけれども。」
エレンシアはぎぃいいいいとハンカチを口に当てて、悔しそうに睨みつけた後、ディーアルトに涙目になりながら、
「お可哀想なディーアルト様。無理やりこの女とっ…」
ディーアルトはきっぱりと、
「エレンシア嬢。失礼ではありませんか?未来の女帝陛下に。この国の皇族は寛容だが他国だったら不敬を問われて牢獄行きだ。ヘルディーナ様に感謝しなさい。ヘルディーナ様。今宵は貴方の為に竪琴を弾きましょう。」
「まぁーーーー。嬉しいわーーー。」
他の令嬢達の嫉妬の視線が気持ちいいーーーーー。
ディーアルトに愛されて…(多分、多分よ。)
ヘルディーナはとても幸せだった。
ジルド大帝国の皇帝ガイドルの唯一の娘である皇女ヘルディーナ。
彼女は我儘で欲しい物は何でも手にいれた強欲な皇女だったと、女帝になった後もそれは変わらなかったと言われている。
高貴で孤高な薔薇の花と謳われ、歴史にその敏腕ぶりが刻まれたヘルディーナ一世の傍には有能で美しき王配が常に付き添っていたと言われている。
二人の肖像画が残されているが、それはもう、美しく美しく(噂によると盛りに盛って)描かれているそうである。