7 冒険者ギルド!
ジンさん達に出会って20日ぐらい経った頃、ようやくエール街に辿り着いたよ。
馬車で20日…。長かった、長かったよ〜。
歩かなくて済んだから楽だろうと思ったそこの貴方。確かに楽だったよ。馬車の旅、歩きより断然。
でも思い出してほしい。わたしとキリが追放された時のことを。
そう、季節はもう秋になりかけていた。朝晩が涼しくなってきたな〜って時に追放されたのよ。
そこからグラス森を抜けるまで季節の半分、さらに馬車で20日。
つまり秋も深まり、もうすぐ冬だよって季節なんだよ。それなのに!!
わたし夏用の袖の短い服しか持ってなかったの。
私物の持ち出しは追放の時に許可されてたけどね。そもそも服は2着しか持ってなくて、秋冬はいつも上から聖女用のローブを着てたのよ。戦場だったし、私物はそれほど持てなかったから気にしてなかったんだけど。その聖女のローブも追放の時に取られたんだよ。
わたし、第三王子の婚約者だったのに、服すらまともに与えられてなかったのよね。衣食住与えられているから給料なしだったはずだけど、全然与えられてなかったわ。衣食住。
ブラック。超絶ブラック。絶対あの国には戻りたくない。お年頃の女の子の服が2着って。ありえない。
お爺ちゃんが行商で扱うものは主に果物などの食料。女の子用の服なんてないし。
もうね。馬車の中とはいえ寒くって。キリが一枚しかない上着を貸してくれようとするから必死で断ったわよ。キリもあんまり服は持ってなくて、その上着をわたしに貸したらあなた着るものないでしょ!!
というわけで、わたしは馬車の中にいる時は基本ジンさんの膝の上で、彼の上着にぐるぐる巻きにされていた。わたしもなんでこうなったかよく分からないんだけど、ジンさんの前でくしゃみをしたら大層心配されて、上着でぐるぐる巻かれてジンさんお膝の上でぎゅうぎゅう抱っこの刑に処された。何この辱め。上着だけ貸して貰えばよかったんだけど、お膝の上が暖かいのよ。冷えは下から来るからね。ガチムチライオン、体温高いから気持ちいい…、ぐう。
見かねたキリがわたしを抱っこしようとしてくれたけど、それほど体格がかわらないキリに抱っこしてもらうのは申し訳なく、何よりジンさんが許可しなかった。何故に?重くないから大丈夫って理由になってないよ、ジンさーん。
そういうわけで、わたしは早くエール街について欲しいと熱望していた。エール街で新しいお洋服とクッションを買うんだ。そしたらお膝抱っこから脱出できるはず。寒くないならジンさんも文句言うまい。
忘れがちですが、前世25歳。今世で成人年齢15歳。計40歳なんだからね、わたし。恥ずかしいの!
「おおおおお。普通の街だ。お店があるー」
それほど高くないけど城壁でぐるっと囲まれた街の門を潜り抜け、わたしはお上りさんのようにキョロキョロ街を見回した。手はしっかりとキリとジンさんがホールド。迷子防止ですか。そうですか。でもそんなの気にならないぐらい楽しい。
「キリ、あのお店、お洋服があるよ。見に行きたい!」
「シーナ様、まずはお金を作りませんと。素材を売りに行くのが先です」
しっかり者のキリに諭され、わたしはそうだったと反省した。わたし、魔物の素材とか薬草とかはたんと持っているけど、一文無しだった。キリは少しだけ現金持ってるよ。お給料を貯めてたんだって。堅実なとこも良い!
素材を売るなら冒険者ギルドが良いとの情報を護衛の冒険者さんに聞いた。あるんだね、冒険者ギルド。やっぱりファンタジー。
「なんだ、シーナちゃん。服が欲しいのか?どれが欲しいんだ?買いに行くか」
ジンさんが目尻を下げて、グイグイお洋服のお店に連れて行こうとします。まってジンさん。わたし、お金持ってないから。素材売らせて。冒険者ギルドに行きたいの。
「お金なら心配するな、俺が持っている」
「自分のものは自分で買います!キリのものもわたしが買います!」
わたしの服を買うのが当たり前みたいな顔してるジンさんに釘を刺し、こっそりキリの服を買おうと画策しているバリーさんを牽制する。さり気にキリを口説いてるの、知ってるからね、バリーさん。
「シーナ様。私は服は必要ありません」
困惑するキリ。だが認めない。
「必要あります。だってわたしが可愛いキリに可愛い服を着せて可愛いって思いたいから!」
わたしの願望に付き合わせて申し訳ないが、諦めてもらおう。
可愛い可愛い言ったせいか、キリが頬を染めて恥じらっている。クールビューティーが恥じらう姿が可愛い。バリーさんがニヤニヤしてる、気持ち悪っ。
眉をへにょりとしたジンさんが、こっちをジッと見ている。そんな顔しても服は自分で買うからね。冒険者は不干渉ってどこいったの?わたしまだ冒険者じゃないからって言い訳は聞きませんよ。
「せっかく買ってあげるって言われてるんだから、素直に買って貰ってはいかがです?」
落ち込むジンさんが面倒だったのか、バリーさんがそんな事を言う。
「買って頂く理由がないです。服とクッション買ったら一人で馬車に座れます!これ以上、ジンさんにご迷惑はおかけしませんので」
わたしとキリは、おじいちゃんの商会の支店があるマリタ王国の城塞都市まで馬車に同乗させてもらうことになっている。おじいちゃんの2番目の息子さんがいるんだって。馬車に乗る間は、キリが護衛に加わることになっているのだ。
わたしの言葉に、ジンさんががーん!とショックを受けた顔をしてた。いやいや、いつまでお膝抱っこするつもりだったんですか。冬服、クッション、ケープとか買って冬対策万全にするからね!
ジンさんがグイとわたしを引き寄せて抱っこした。こんな街中でなんの羞恥プレイ?降ろせー!
「シーナちゃん、馬車では膝の上に乗るよな?寒いもんな?」
道ゆく人はなんだか微笑ましく見守ってるよ。いやいや、ダダこねた子どもをお父さんがあやしてるんじゃないからね、ダダをこねてるのはこのガチムチライオンだぁ!
膝の上に乗る乗らないの議論は、冒険者ギルドに着くまで続いたよ。もちろんわたしが勝ったからね。
◇◇◇
やってきました、冒険者ギルド!
思った以上に大きな建物でした。エール街は、この辺りで一番大きな街で、そこそこ大きなギルドがあるそうです。もう少し小さな街になるとエール街冒険者ギルド出張所になるんだって。合理的だな。
もれなくジンさんとバリーさんが付いてきたけど気にしない。論破されたジンさんがどよんとしてて鬱陶しいけど気にしない。抱っこ回避の為に、キリとしか手を繋がなかったら余計にどよんとしてるけど気にしない。気にしちゃ負けだ!
ちなみに、エール街まで一緒だったもう1組の冒険者さん達はここでお別れだった。元々その契約で、もう次のお仕事も受けてるんだって。シーナちゃんのご飯をもっと食べたいーって泣いてたけど知らないよ。
わたしとキリが素材買取のカウンターに並ぼうと思ったら、ニコニコのバリーさんがわたしたちを制してカウンターのお姉さんと何か話してるよ。お胸がぼよんとカウンターに乗ってますよ、お姉さぁん。羨ましい!
お姉さぁんはバリーさんと二言三言話していたかと思うと、すごい勢いでカウンターの奥に走って行った。お胸がぼよんぼよん。いーなー。
しばらくするとお姉さぁんが戻ってきて、わたしたちを別室に案内してくれた。恐っ。何?わたし、素材を売りにきただけだよ?
でもジンさんもバリーさんも当然のように案内されている。大丈夫?変なことされないかな?
わたしはキリの手を握って、ドキドキしながらジンさん達の後をついて行った。
そしてわたしとキリは、この後、凄くビックリすることになるのだった。