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6 心配性なジンさん

「ぐあああぁぁぁあ、よく寝たー」


 ぐーんと伸びをして、淑女らしからぬ声が出た。いい朝だね。


「おはようございます、シーナ様。しかしそのお声はいけません」


 キリはもちろん先に起きてたよ。朝からお小言ゲット。


 昨日は結局、ジンさんが再起動しなかったのでバリーさんに後を託して寝ちゃったんだよね。忠告してくれた人に逆ギレしてしまったので罪悪感があったけど、気持ちいいぐらい寝てしまった。魔物避けのお香(睡眠用)のお陰かな。気まずいなぁ。馬車から追い出されても仕方ないぐらい失礼なことしちゃったからなぁ。もう今日でサヨナラしちゃうかな。


 なんてことを考えながら、朝ごはんは手抜きメニュー。昨日の燻製肉の薄切り、パン、お爺ちゃんに貰った果物、干し肉と野菜クズを煮込んだスープ。ワンプレートに盛り付けたらあら不思議。オサレカフェモーニングプレートみたい。


 これを人数分作って準備完了。まずは夜の見張番後半担当の冒険者さんに手渡すとものすごく感謝された。手抜きだよ?


「あー、朝から温かいもの嬉しい。しかもこのスープ、昨日の岩が入ってるの?」


 干し肉=岩はやめてってば。干し肉は塩味ついてるし、細かくして臭み消ししたら素敵なスープになるんだからね。


「美味そうな匂いっ!あ、シーナちゃん、ご飯何?」


 もう一人の冒険者さんも起きて来た。わたしの顔見てご飯ご飯言わないでください。あなたのオカンじゃないですよ。


 大はしゃぎする声に、皆さん起きちゃったよ。再起動したジンさんも、バリーさんもいる。

 気まずいなぁと思っていると、ジンさんがズカズカとわたしに近づいてきた。あまりに勢いがいいので、反射的にキリがわたしの側で臨戦態勢をとる。落ち着いて、キリさん。

 あらー、怒鳴られて追い出されるパターンだね、これ。大丈夫、すぐに出ていけるように、荷物は全部まとめて収納魔法でしまってるからね。

 身構えるわたしの前に、ジンさんが立ち止まる。改めて見るとやっぱり大きい。ガチムチ。ガチムチライオンだわ。


「ごめんっ」


 ジンさんは大きな声でそう言ったかと思うと、深々とわたしとキリに頭を下げた。はいぃ?なぜあなたが謝るの?


「昨日はシーナちゃんとキリさんに失礼なことを言った!俺がシーナちゃんを子どもだと軽んじて、キリさんを理不尽に責めてしまった!本当にすまないっ!」


「…っ!いやいや、わたしが不用心のためにご心配をお掛けしたようなので、こちらこそ申し訳ないです」


「いや、俺こそ余計なお世話で…」


「いえいえこちらも心配して貰ったのに反論したりして」


「あー、はいはい。2人ともきりがないのでもうその辺で止めてください。はい、朝ごはん朝ごはん」


 謝り合戦を始めたわたしたちを、バリーさんが止めた。すでに朝ごはんを食べながらですが。


「シーナさん、ジン様を許してあげて下さい。昨日は許してもらえるかなーって一晩中唸ってて煩かったんですから」


 お陰で寝不足ですと言うバリーさんの顔はよく寝た後みたいな艶々顔。嘘ですね、バリーさん。

 

 ジンさんは目が充血してた。一晩寝ないぐらいは平気なんだそうですが、すいません、わたしなんかに謝るのに悩ませてしまって。わたしは悩まなかった。一晩ぐっすりですよ、いざとなれば逃げようと思ってたからな。

 

 へにょりと眉を下げるジンさんを見ていたら、申し訳ない気持ちになった。わたしは簡単に繋がりを切ってしまえばいいと思ってたけど、ジンさんはわたしたちとの関係が続くことを考えてくれたんだね。ジンさんこそ簡単に人を信じるお人好しに見えますが。


「なんだか、シーナちゃんのことは気になってな。いつもはこんなに他人の事は気にしないんだが」


 冒険者同士はお互い不干渉がルールらしい。生きるも死ぬも自己責任。シビアだなぁ。だから今回みたいに心配だからといって意見するのは、ジンさんの方がルール違反なんだって。わたしとキリは冒険者ではないのでまぁ、セーフじゃないかな。


 ジンさんはわたしの頭をイイコイイコしながらため息をついた。


「ごめんな、ウザいよな。でも心配が止まらん。何だこれは」


 さー?ジンさん本人が分からないことを、わたしに聞かれても困る。父性愛とかに目覚めたのかな?いや、わたし子どもじゃないってば。


 バリーさんとキリは揃って生温かい目でコチラを見てる。いや、その目はジンさんだけに向けて。わたし関係ないからね。



◇◇◇



 魔物避けのお香を焚きながらの移動は、至極快適だった。

 昨日の夜、夜の見張り番前半をこなした後、眠れず一晩中起きてたジンさんも驚く程静かな夜だったようで、お香の持続時間や効力範囲など色々聞かれました。

 バリーさんより定期的に購入できるかと聞かれたので、出来れば作り方の方を売りたいと相談した。ずっとお香ばっかり作るの嫌だし。

 バリーさんはちょっと難しい顔をして、画期的なお香なので、出来れば王家か有力貴族の後ろ盾がある商人がいいとのこと。そんなツテないよ?

 するとバリーさんは凄くイイ笑顔で、くいっと親指で御者をしているお爺ちゃんを指した。ん?お爺ちゃん?


 どうやらお爺ちゃんは、マリタ王国で一番大きな商会の元商会長さんだそうで。今は引退して息子に跡を譲り、昔のように行商人として旅する毎日なんだとか。

 お爺ちゃんに魔物避けのお香の相談をしたら、跡を継いでいる息子さんに紹介してくれることになった。お爺ちゃんはもう現役引退したので、商会で扱うかは息子さんの判断に任せるそうだ。あんまり力になれなくてごめんねーと、今度は飴をくれた。美味しい!甘味なんて今世では両親が生きてた頃に貰って以来だわー。喜んでたら沢山くれた。わーい。


 キリにもお裾分けした。シーナ様が食べてくださいって遠慮してたけど、無理矢理渡した。結局受け取ってくれて、恥ずかしそうに笑って、子どもに戻ったみたいですって。キリが育った孤児院の院長先生は素敵な老婦人で、孤児院の子どもたちが良いことをしたり、頑張った時には飴をくれたんだって。わたしもキリがいい子だったら飴あげようかな。

 

 それにしても、飴が子どもでも普通に食べられるってことは、砂糖があるってことかな?料理の幅が広がるぞ!やっほー。



◇◇◇



〜お爺ちゃん改めザイン商会元商会長視点〜


「ザイン、どうでした?」


 バリー様に声を掛けられ、ワシは思わずニヤリと笑ってしまった。


「面白いですなー。シーナちゃん。可愛いし、ワシの息子の嫁にしたいですなー」


「おや、貴方がそこまで言うなんて、相当ですね?」


 面白そうなバリー様の声に、ワシは眉をしかめる。何を言っとるのか、この方は。


「バリー様もお気づきでしょうに。あのバングルとアンクレット。複雑な魔術式が施されておりました。それに、耳飾りにも。まだ機能は分かりませぬが、さぞや名のある術師が作ったものでしょう。一体どれほどの効力があるのか」


「あー、気付いてましたか。ザインのお見立てはどうです?」


「どれも何度か解析を試みたんじゃがなぁ。二つ以上の魔術式が付与されているぐらいしか分からんかった」


「多分バングルとアンクレットは身体強化と魔力増幅、それと他にも何かありますね。耳飾りは見たことない魔術式です。シーナちゃん、身なりは質素というかもはやボロ着なのに、装飾品は一級品、いや、国宝級…。あの魔力の馴染み方は、盗んだ物というわけではないでしょう。シーナさんとキリさん用に作られた装飾品に間違いはないが…どんな事情があるのやら。でもシーナさん、装飾品の出所を教えてって言ったら誰にでも簡単に教えそうですよね」


「だ、ダメですぞ、そんな、危ない!シーナちゃんにはキッチリ言い聞かせんと!変な奴に目を付けられたらどうするんじゃ!」


 ワシは慌てた。あの子ほんとにのほほーんとしとるからの。従者のキリちゃんも、よく気のつくいい子じゃが、そういう面は全然経験値なさそうじゃ。


「ワシの息子だけじゃ荷が重いぞ、バリー様」


 ワシの息子、後継いだばっかりでバタバタしておるからの。シーナちゃんは冗談としても、どこぞにしっかりした嫁さん、おらんかの。


「分かってますよ。ザイン商会はあくまで窓口、あの子は()()で引き受けますよ」


「バリー様が?」


「いえ、ジン様がです」


「ひぇっ!」


 ワシは驚いた。ジン様が引き受けるということは。これ以上はない後ろ盾じゃな。ワシの息子の負担もそれ程大きくなかろう。


「だからザイン商会にお願いしたんですよ」


 バリー様はニコニコ人の良さそうな笑みを浮かべている。ワシはため息をついた。


「ジン様はご承知なんじゃろうな?」


「むしろジン様が言い出したことですから、大丈夫ですよ?」


 ワシは再び驚いた。あの魔物討伐以外は無関心なお方が珍しい。


「だからザイン。引退したとか逃げてないで手伝って下さいね」


 ふむ。まあシーナちゃんはいい子じゃし、何をしでかすか分からん面白さがあるから、それもいいかもしれん。


「分かった。とりあえず魔物避けの香の取り分について詰めていくかの」


 ニヤリと笑って言うと、バリー様が嫌な顔をした。


「そういうところは頑張らなくていいんですよ。引退したんでしょう、交渉は息子さんにお任せになったらどうですか?」


「バリー様のお相手は、ワシが努めんことには申し訳ないからの」


 久々に、ワシは頭の中の算盤を弾くことにした。大取引になりそうじゃのー。












 




 





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